幕間 密かに競うライバル(?)達
廃材をまとめた後、教室内の清掃を手伝っていた岬。 机や雰囲気が元に戻った教室を眺めながら、やりきったと言った気持ちで安堵の溜め息をついた。
「お疲れ浅倉。 その格好のままで良くできたものだよ。」
「和服だから着替えるのが面倒。 ネビュラには返すけどちゃんとクリーニングにかける。」
「その辺りはネビュラが回収してやってくれるってさ。 お金持ちもここまで来ると感謝しかないよね。」
「それ皮肉にしか聞こえない。 悪気はないのかもしれないけど言い方は変えた方がいい。」
そう言っている岬自身も、悪気の無い言葉をそんな風に聞き変えてしまう辺り、どこかひねくれているのかもと思ってしまっていた。
「あ、もうキャンプファイア始まってなかったっけ? 急がないと火が消えちゃう。」
「そんな簡単に消えないと思うけど?」
「知らないの? この学校の文化祭でのキャンプファイアの噂。 2人でフォークダンスをするとその2人は離れないって噂。」
「2人ってところに引っ掛かりを感じる。 男女って言ってない辺り、時代を意識してる気がする。」
「むう。 浅倉さんはロマンがないなぁ。 まあ信じるも信じないも人次第だけどね。」
それはそうだと岬も思いながら、片付け終わった教室を出て、キャンプファイアをやっている校庭まで行く。
バチバチと校庭の中央で燃えているキャンプファイアは唐突な雨だろうと消えないのではないかと思うくらいに煌々と燃えていた。 岬は特に自分がああ言ったものに浮かれないのは知っているし、遠くで眺めているだけで案外満足していた。
「フォークダンスをすると離れない・・・」
口に出している岬そんな噂話を信じてはいない。 そんなことで離れられないようになるとも思っていない。 人との出会いは一期一会。 親しくなりたいだけの友人ならお互いの事を理解し合えばいいと思っている。
だが岬が口にした後に頭に浮かんだ人物については、自分でも何故か気になってしまっていた。
「・・・私と彼はただの友人。 互いの利害の一致する友人。 それだけ。 それだけのはず・・・」
そう言っている岬は、自分で言っていて悲しくなってくる程に、彼、一ノ瀬 真面目の事を考えていることを自覚してしまっていた。
そんな噂話に右往左往される岬ではなかったが、気になり始めたら止まらなくなってしまっていた。
真面目を探し、キャンプファイア近くまで足を運ぶ。 辺りを見渡してそれらしい人物を探していて、真面目の姿を捉えることが出来た。 出来たが・・・
「・・・誰かと踊ってる。 既に。」
真面目が踊っているのを見た岬。 そもそも特徴的な和服を何度も見ているので、見間違えることはない無いだけにそれがより一層際立ったのだ。
一緒にフォークダンスをしている人物は顔がハッキリとは分からないが、服装を見る限り壱与や進、身近な友人ではないことは分かっていた。
「・・・来場者サービスかな。」
そう岬は納得しかけたが、それても腑に落ちない気持ちがあった。 真面目が誰とフォークダンスをしようと関係は無い筈なのだが、岬の中で胸の奥にモヤモヤが生まれてきて、その後に真面目に声をかけることはなかった。 自分の気持ちを整理したかったからか、邪魔をしては悪いと思ったのか。 とにかく今の岬は、自分の心に余裕が無くなっていったのだった。
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「ソレデハクリーニングヲ、ヨロシクオネガイイタシマス。」
ネビュラが目の前のメイドに依頼をして、母国語でメイドは返したのを聞いてから再び学校内に戻る。 クラスメイトに貸していた物は一度メイドに預け、再びクローゼットの中へと入れられる訳だが、かなりの量があるため、メイド達を労いながらネビュラも明日明後日と手伝おうと思っている次第だ。
「アトハマジメトミサキノワフクダケデスネ。」
そう呟くネビュラであったが、ぶっちゃけあの'着に関してはオーダーメイドで、あの2人のサイズで注文をしたため、返されたところでネビュラはどちらも着れないのだ。
そのままネビュラは教室に戻ろうと思っていた時に、校舎の中が静かなことを外からでも確認できた。 片付けをしていたので当たり前ではあるものの、あまりにも静かすぎると感じていた時に、別の方向から音がするのを聞き逃してはいなかった。
「コウテイノホウデスネ。」
教室に行こうとしていた足を校庭の方に向けて、ネビュラは歩き始める。 少し歩くと校庭が明るくなっているのが見えてきて、ネビュラはその光景を見ることになった。
「Wow! キャンプファイア! フォークダンスモヤッテイマスネ!」
興奮気味のネビュラはすぐにその場に走っていって、キャンプファイアの周りを見渡していた。
「マジメハドチラニイルデショウカ?」
ネビュラが踊りたいと思った第一人物が真面目だった。 もちろんネビュラ自身は楽しめればそれで良いと考えてはいるものの、やはり好意を持った相手と踊りたいのは思春期女子にとって大事なのである。
キャンプファイアの炎で明るくなっているとは言え、踊っている人達のシルエットはぼんやりとしていて、誰が誰だかまでは分からない。 しかし正面に回ってまで誰かの顔を確認するほどネビュラも無粋ではない。
「・・・ム? アノシルエットハ・・・ オー! マジメハワフクヲキタママダッタノデスネ!」
特徴的なシルエットを見つけたネビュラはそこに近寄ろうとした時に、真面目と既に踊っている人物がいたことに気が付いて、ネビュラは向かう足を止めた。
「・・・ジャマヲシテハイケナイ・・・デスヨネ。」
そう言いながらネビュラは誰か一緒に踊ってくれそうな人を探すために、再び辺りを見渡すのだった。
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「この場で想いを伝えれば・・・」
キャンプファイアから少し離れた暗い場所にて、ある想いを抱えた人物が一人。 その人物は恋い焦がれる相手がいた。
もちろんそれは一目惚れで、相手の事はなにも知らない。
だが、雄姿たるその姿を見た時、今までの人生で感じたことの無かった気持ちが溢れ出てきて、それからというものずっとその姿を影ながら見てきた。
しかしその好意にも限界が近付いてくるもので、その人物に少しでも触れたいと思っていても、急に割り込んでは迷惑になるし、何より周りには絶え間無く他の人がいるため、なかなかそのチャンスは来なかった。
そうこうしているうちに夏休みまで終わってしまい、このままではさすがにまずいと思い、文化祭で生徒会が放送部との合同で催しをすると知り、お便りを投稿した。
読まれるだけでも良かったのだが、その人物は真摯に想いと向き合った上で気持ちを伝えてきた。
「あの人は・・・どこだろう?」
忙しいことも分かっている。 だがこの機会を逃せば、喋る機会が訪れないかもしれない。 そう思いながら必死に探していて、フォークダンスをしている人達の中に、他の生徒とは違う服装をした人物を見つける。 そしてその人物こそが、想い焦がれる相手であった。
その人物を見つけて一歩踏み出し・・・たかと思えば、すぐに一歩後退りをした。 その理由は、既にその人は相手がいたからである。 どんな相手かは分からないが、それでも今行けば邪魔になってしまうのは間違いなかった。
「・・・まだ機会はあるよね。 例え僕がどんな人物であろうと、知ってもらおうと思っていることに、変わりはないんだから。」
そういってその少女は、その人物の姿を見て、惜しみながらもキャンプファイアの炎から遠ざかったのだった。
岬、ネビュラ、その少女は、どんな理由であれど、その時ではないと自負している。 想いはそれぞれ違えど、見ている相手は同じ。
意中の相手の知らない所の水面下で、複数の想いが知らず知らずのうちに火花を散らしていたのを、中心人物「一ノ瀬 真面目」に知る由など無かった。
今回は岬、ネビュラ、少女の3人を三人称視点にしてお送りいたしました。
最後の少女については今後登場するかはまだ未定です




