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文化祭当日 ラジオトーク

 一区切りの挨拶が終わったところで、入り口前の部屋から音響を触っていた放送部員が、手紙のようなものを数枚源に渡していき、そのまま戻っていった。


「さて、今回のために寄せられた質問や生徒会のメンバー個人に送られてきた質問を厳選したものがこちらにあるわけですが。」

「なぜわざわざ厳選を?」

「枚数が多かったのが一番の要因ではありますが、その中でも「この質問なら答えてくれそうだろう」というものを中身を見ては選んできたのが現実です。 センシティブに関わる内容も一部ありましたし。」

「あったんだ。」


 なんでそんな面倒な事をと思いつつ、最初の手紙が手に取られた。


「最初のお手紙の内容はペンネーム「端っこ好きの狛犬」さんから頂きました。」

「本人だと分からないようにペンネームを作る辺り本格的ですね。」


「『自分はとにかく四隅にいることが好きで、授業が終わったり部活の時に使う部室のロッカーなどもよく隅にいます。 しかし周りからなにかを言われるわけではないのですが、自分に対する視線が少しだけ怖く感じてしまいます。 これは自分がどう見られているかと言う恐怖があるからでしょうか? こんな形で相談に乗って貰うのは失礼だと思うのですが、よろしくお願いいたします。』 という悩める生徒のお手紙なのですが。」


「俺から言わせてみれば、そんなものは「気にしすぎだ」の一言に過ぎんな。」

「先輩それは冷たすぎますよぉ。 なにかもっと言ってあげないとぉ。」

「あいにく俺は他人に対して甘えさせるような性分をしていないのでな。 それに言っているだろ「俺から言わせれば」と。」

「なるほど。 確かに花井先輩らしいやり方ですね。 僕の意見は花井先輩と同意見の部分はありますが、気にしすぎというのは、自分がその人からどう見られているかと言う気持ちがあるからです。 ですから「自分の居場所」というところを自分自身で決めてしまえば、周りがどう思っていても関係はないです。 自分自身を否定しないことがこれのよいところではないでしょうか?」


「なるほど。 お二人のご意見、ありがとうございました。 それではここで一曲お送りいたしましょう。 四隅にいることが好きなあなたに送る「square secret」。」


 音楽が流れている間に次のための準備を行っていた。


「次は個人的なものになりますが、よろしいでしょうか?」

「内容を見せてもらっても?」


 銘が手紙を持っている放送部員から手渡されて手紙を見る。 その後に真面目の方を見る。


「これはどうやら一ノ瀬庶務に向けられた内容のようだ。」

「僕に・・・ですか?」

「ああ。 とはいえこれは個人的な問題にするには少しだけ面倒だ。 君の感想を述べてから話に介入しても構わないだろうか?」

「それはいいですけど・・・そういえば今日は文化祭だってこと、自分が忘れてました。 というか忘れかけてました。」

「非日常空間というのは時に自分の立ち位置を見失うものだ。 一ノ瀬庶務はそんなことはないだろうが、慣れてくればそれは「日常」になる。 忘れることの無いようにな。」


 まだ終わってもいないのに終わりのオーラを銘が醸し出しているところで、音楽が終了し、再びマイクに音声が入る。


「いかがでしょうか? このグループには来期にも頑張って貰いたいものですね。 それでは続きましては生徒会全体にではなく個人的に送られてきた手紙をご紹介します。 ペンネーム「中学生は帰宅部」さんから頂きました。」

「今は部活をやられているのでしょうかぁ?」

「「生徒会に入られたという一ノ瀬さんに、この場を借りてお伝えします。 あなたが生徒会候補として立ったあの日、その姿に感動と勇気を与えられ、そしていつしかあなたの事を目で追うようになっていました。 でも伝えなければ始まらない。 だからこそ言わせてください。 一ノ瀬さん。 あなたのことが好きです! 付き合ってください!」とのコメントですが。」


 最後まで手紙を聞いた真面目は腕を組んで首を傾げていた。


「どうしたんだい一ノ瀬庶務。 悩んでいるのか?」

「それはもう。 色々と言いたいことは山程ありますが、まずはこの手紙を送ってきてくれた人に謝らなければいけないかなと。」


 そうして断りをいれてから真面目はマイクに向かう。


「この手紙を送ってきてくれた「中学生は帰宅部」さん。 僕はあなたの事を知らないです。 そして僕自身、付き合ってからお互いを知っていきましょう、などというやり方が出来ません。 ですがもしお友達からならば僕も拒むことはしません。 次は直接会いに来てください。」


 そう宣言した真面目は席に座り直したのだった。


「うむ。 素晴らしい解答だったと私は思う。 来賓の方々には余興や若気の至りなどと思う方もいると感じてはいますが、当人達は至って真剣に取り組んでおられますゆえ、生徒会から、全校生徒からの代表としてここに深く謝罪を申し上げます。」


 声の向こうに見えていないはずの人達のために頭を下げる銘。


「我々放送部からも、今回の手紙の選出に関しては厳正な審査のもと選ばれた投稿です。 不快に思われた生徒及びご来賓の方々がおりましたら、深くお詫びを申し上げます。 さて我々の青春の片鱗を聞いて貰ったところで、続いてはこの一曲。 青春は大人になったら染まれないという意味を込めた曲らしいです。 「スプリングブルー」。」


 音楽が流れて3枚目の手紙を取り出して、準備が行われる。


「ところでこの放送が終わった後ってどうするんですか?」

「ここからの生徒会の仕事は祭りの処理だったり、使った木材や可燃物を使ったキャンプファイアの見回り位だろう。」

「おー、まさに文化祭って感じですね。」

「雨が降ったりで出来ないこともあるけれどぉ。 それも含めて文化祭の醍醐味よねぇ。」


 他愛ない会話をしているうちに音楽も終わり、またマイクへと声を合わせる。


「では名残惜しくはありますが今回のラジオも次のお便りで最後になります。 ペンネーム「かっこ」さんから頂きました。 「生徒会の皆様から見て、今の学校の様子はどう見えますか?」 そんな短い言葉での質問となりますが、いかがでしょう銘生徒会長。」

「私も3年という短い間でしか見ていないから、このような感想を述べて良いものか迷うのだが・・・しかし活気はあると自負はしている。 それは我々生徒会が頑張っているからなどという傲慢ではない。 皆一様に努力をしたからこそ生まれたのだ。 それだけは分かって貰いたい。」

「はい。 銘生徒会長からのありがたいお言葉を貰えたところでこの曲を流して終わりと致しましょう。 「SEE YOU letter」。」


 音楽が流れ始めて、他のスタッフも動き始めた。


「本日はお疲れ様でした。」

「放送部のみんなもな。 この後もよろしく頼むぞ。」


 そう言って放送室を出る生徒会一員。


「それでは残りの時間までしっかりと行うことを忘れないように。 それではまたキャンプファイアの時に。」


 そうして生徒会としての仕事を終えた真面目は教室に戻るのだった。

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