文化祭当日 予想外の来訪者
「どうしてここに? 今日が文化祭だって知ってたの?」
「いいえ、全く知らなかったけど、こういった催し物だって日本の伝統でしょ? だから現場の近くに無いかなぁって探してたら今日ここがやってたって訳。 まさかあなたが通っている学校だとは思わなかったけど。」
そんな偶然があるのかと思った真面目ではあったものの、廊下の真ん中で立ち止まっているのも正直邪魔になってしまうので、持っている料理と共に歩きだそうとする。
「待って。 折角だから私をどこかに案内してよ。」
「悪いけど今は出し物の補充品を運搬してるから。 まあ行く宛がないなら付いてきてよ。 僕のクラスの出し物を紹介するよ。」
真面目はセルナを連れて、自分の教室に向かうことにしたのだった。
そして教室に着いたところでセルナは真面目から待ったをかけられる。
「君が有名人だとしても贔屓目には見ないし、君も君で大袈裟にしないこと。 後仮にばれたとしても僕は知らない体で貫くから助けを求めないでよね。」
「分かってるわ。 私もおおっぴらにはしたくないわ。 これでもお忍びで来ているし。」
そうして真面目が先に入ったのを確認して、セルナも既に出来ている列の後ろに並ぶのだった。
「お待たせ、大丈夫だった?」
「なんとかね。 でも売るのを再開したらすぐに無くなるかも。」
「このピークの時だけは耐えて。 僕も少ししたら生徒会の見回りに参加しないと行けないから。」
「そっちもそっちで大変だね一ノ瀬。 あれだったら一ノ瀬は休んでてよ。 生徒会の仕事が終わったら多分だけどこっちでまた作らないといけなくなる気がするから。」
「いや、ちゃんとやる仕事はやるよ。 なんか、じっとしていられないから。」
「一ノ瀬、将来絶対に社畜になるタイプだ。」
そこまで言われるかと肩を落とす真面目。 昨日からだけでも動きっぱなしなのだ。 心配されるのは無理もないことだろう。
「いらっしゃいませぇ!」
「ご注文の品物は全てお揃いでしょうか?」
何だかんだで着々と時間が過ぎていく中で、真面目はセルナが入ってきたことに気が付いた。
「あ、ようやく順番が回ってきたんだ。」
そこまで長くは感じなかった列も、15分も並べば長く感じるかもしれない。 そこはお客さんの滞在時間によるからである。
「一ノ瀬。 注文取ってきたよ。 さっきの人外人さんっぽいっていうか、どこかで聞いたことがあるような声だったんだよねぇ。」
見た目は騙せても流石に声までは騙せないかもしれない。 バレるまで時間の問題か、はたまたバレずにやり過ごせるか。 それはセルナ次第である。
真面目はこの後に生徒会の仕事が控えているため、料理を温めるだけにしてウェイター係に料理を渡して、そのままの流れで出ていく。 真面目としても着替えた方がよかったかなと感じたが、気にするほどでも無いのでそのままにしたのだった。
そして真面目はとある場所につくと、既に真面目以外のメンバーは揃っていた。
「あらぁ。 随分と綺麗な格好をしていますねぇ。」
「オープニングセレモニーの時もそうだったけど、かなり似合っているよ。」
和服で登場した真面目に率直な感想を述べる金田と水上。 銘と花井も口にはしないものの嫌悪感が見られ無いので文句はないようだ。
「生徒会の皆さん、お待たせいたしました。 準備が出来ましたのでどうぞ中へ。」
中から出てきた生徒に呼ばれて真面目達も入室する。 入ってみると、音響パネルが存在しており、その奥の部屋にはいくつかのマイクとペットボトルが机に置いてあった。 そしてその先の部屋には1人の女子生徒が座っていた。
「今年もご参加していただきありがとうございます。 それでは席にお座り下さい。」
メンバーが席に座ったのを確認した後に、指でカウントダウンした後に、警戒な音楽が流れた。
「さあ今年もこのお時間がやってまいりました! 放送部×生徒会特別企画。 「州点レィディオ」! 今回で生徒会長、副生徒会長を退任されます高柳さんと花井さん。 そして次期生徒会を担っていく金田さんと水上さん。 そして今年から入った一ノ瀬さんの5人と共に司会進行を進めていきます源 庸治が、様々な話題を話し合っていく、そんな企画になっております。」
かなり手慣れた様子で源は進行していく。 そのやり取りを見て真面目は、これも1つの伝統なのかもしれないと感慨深い想いになっていた。
「さて早速お話の方をさせていただきましょう。 今回生徒会に入られた庶務の一ノ瀬 真面目さん。 なんでも生徒会長からのスカウトがあったとか無かったとか。」
「そのような事実が仮にあったとしても、私は贔屓はしていない。 全ては一ノ瀬庶務の人望があってこその役員決定である。」
嘘偽りの無い瞳を宿しながら銘が語った。
「なるほど。 誠実さを重んじる会長らしいお言葉でございますね。 ではそんな生徒会長に次期を担う金田さん。 現在の心境の方はいかがでしょうか?」
噂の真偽が確かめられたところで次は金田に話が振られた。
「そうですね。 自分は銘会長ではないので、正直ちゃんと出来るのかが、今は不安要素の1つでありますね。 少しずつ会長には仕事を教えては貰っていたのですが、実際にやってみるのはやはり難しいと実感しています。」
「えー? 会長から手解きを受けてたの~? 私にはそんなの無かったのにぃ。 私だって副生徒会長になる人ですよぉ?」
「お前の場合は下手に教えるよりも身に仕込ませた方が早いからと判断して教えてないんだ。 俺が退任する前にも最低限しか教えん。」
「ぶぅぶぅ。 酷いですよ花井先輩。」
「まあまあ水上さん。 ここは花井さんの信頼の裏返しと思っておきましょう。 それで気持ちを切り替えましょう。」
「俺はそんなつもり無いからな。」
花井と源との間になにかの縁があるのだと真面目は思いつつも、信頼しあっているのかもと思えたのだった。
「さて最後にそんな生徒会のメンバーに選ばれた一ノ瀬さん。 オープニングセレモニーでは見事な琴の音色を届けて、今でも和服に身を包んでいるわけですが、今後生徒会の一員として学校をどのようにしていきたい、などという理想などはございますか?」
源に話を振られた真面目は、すぐには答えずに考えを少しだけ巡らせる。 もちろん役員選挙の時の事を話せばよいのだろうが、それでは心無いことを言っているようにも捉えられてしまう。 そして思考のために口元に置いていた指を離して、マイクに向かう。
「僕の掲げる理想は現実的には時間がかかりますし、自分一人で行うには限界があります。 ですがこれだけははっきりと言わせてください。」
真面目は一呼吸置いた後に、再びマイクに向かう。
「僕は自分や誰かの正義のために自分の考えを他者に押し付けるわけではありません。 1つの当たり前を実現してみたいだけなのです。」
その一言だけを添えてマイクから離れる真面目。 それに賛同するかのように拍手が送られるのだった。
「1つの理想像を語らないと言う素晴らしいご意見でした。」
「いや、本当にあれだけでよかったのですか?」
「誰かが納得できればそれでいいので。 さて生徒会の皆さんからの意思表明を聞いて貰ったところで、ここからは今回のために寄せられたご意見番を皆さんと一緒に話していきたいと思います。 生徒の皆さんも来賓の方々も、最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。」




