文化祭当日 本番
本番と書いてありますが、簡単に言えば来賓が来られるので、という意味です
夜も明けた2日目。 真面目は朝早くに家を出て学校に登校をする。 そして荷物を置いてくるとゲートで作られた正門へと行くと、そこには既に生徒会メンバー全員が揃っていた。
「すみません、遅れてしまいました。」
「心配しなくてもまだなにも始まってないよ。」
「さあさあ、ここに来てください。」
そうして真面目も他の生徒会のメンバーにならい横に立つ。
ここでの仕事はただ1つ。 来賓の方々への挨拶のみだただ文化祭を楽しんでいって貰うためにも、入りからが重要だと銘に教えられている真面目なので、その意見に文句はない。
そして時刻は8時。 まずは生徒達が学校に登校をしてくる。 週末ではあるものの、学校である以上はきっちりとした服装になっている。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
生徒会のメンバーが挨拶をすれば登校してきた生徒もしっかりと返してくる。 それが誰でも関係はないのだ。
「そういえば文化祭って来賓の方が入れるのって何時からなんですか?」
「9時半からだね。 だから生徒がほとんど入ってきたら、一度門を閉めてから、再び開けることになるかな。」
「そんなに押し寄せるんですか?」
「押し寄せることは無いが、来賓の人達が怪我をされたら生徒会として名折れだろう?」
それはそうだと花井の説明に納得せざるを得なかった。
朝の挨拶を終えて教室に戻った真面目は、カフェのメイキングを一緒にやっていた。 とはいえ昨日とほとんど同じな為、シルクに破れた後があったり、お客さんが怪我をしそうなものを排除する程度に収まっている。
そして昨日はなかった要素が新たに加わった。 民族衣裳を着たクラスメイト数名が持っているプラカードだ。
「それじゃあ正門前と昇降口、それと校内を巡回する人で1人ずつお願い。 1時間位同じところで宣伝をして戻ってくれば、交代が別の誰かが交代してくれるから移動距離とかも考えて戻ってきてよ。」
そうしてお客を迎える準備は着々と出来始めていた。
「さてと、僕も着替えないと。」
今回は真面目も数回は店内でお客さんに提供をする側に回る事になっている。 生徒会の仕事も考慮はしているものの、料理が無くなりそうになったらすぐにピンチヒッターとして行かなければならなくなるだろうとは考えていたりもしている。
そして真面目が着るのはネビュラが急遽仕立てた和服である。 これを着る理由は特に無いのだが、用意してくれた以上は着てあげなければもったいないという形で着ることになったのだ。
「一ノ瀬、会長が来たぜ?」
「会長が?」
なんだろうと思いつつも着替え終わりまで待って貰うことになっているので、すぐに着替えを終わらせて入り口に向かう。
「やあ一ノ瀬庶務。 ふむ、なかなか似合ってるじゃないか。」
「どうしたんですか会長? 正門での来賓の方々への挨拶の時間はまだですよね?」
「いやなに。 昨日は頑張って見回りをしていたようなので、少し労いの言葉を思ったが、どうやらまだやるべき事があったようだな。 私はここで失礼するとしよう。」
「あ、よろしかったら寄っていきませんか? 準備前で色々とごちゃついてはいますが、会長1人なら」
「それこそ今は遠慮しておこう。 見てみろ。 私の姿を見て萎縮しているクラスメイトがいるだろう? 私も一応立場は弁えているのでね。 また時間があれば顔を出そう。 本日はよろしく頼んだぞ。」
そう言って銘会長は真面目達の教室を去っていき、準備を再開させたのだった。
『ご来賓の皆様、本日の州点高校の文化祭にご参加誠にありがとうございます。 我が校の文化祭も歴史の古いということもあってか、ご老人の方から若いお客さんまで老若男女が楽しめる文化祭へと変貌を遂げたとのことです。 今年も色んなお客さんがいらっしゃいますが、我々の願いは皆様が「また来たい」と思える文化祭にすることでございます。 それでは開場いたします! お足元のご注意と前のお客様を押さないようにお気をつけ下さい。』
そうして正門が開けられて、開場前から並んでいた人達がなだれ込んできた。
「どうやら始まったみたいだね。」
「さあ、お客さんを迎え入れる準備だよ!」
真面目達のクラスもお客を迎えるために念のための最終調整をかける。 そして最初のお客が入ってくる。
「「ようこそ! 異文化喫茶へ!」」
お客さんは様々な服装のクラスメイトに驚きつつも、案内された席で注文を取っていた。 厨房のような場所で作ったりするわけではないので、温める方法はレンチンだ。 しきりの裏に注文を受けたターバンを巻いたクラスメイトが入っていったのを確認して、サロペット着たクラスメイトが別のお客さんを席に誘導していく。
真面目も同じ様に対応をしつつも料理の動向も確認する。 お客さんが頼んでいる料理は何が多いのかを見ていたりしている。
「次はあの料理かな? あとどれくらいで無くなるかな?」
「お待たせいたしました。」
「ん。 あの料理、もう最後じゃなかったっけ?」
真面目の記憶違いでなければフランスの民族衣裳を着ているクラスメイトが手元に持っている料理は開店当初から出ている気がする。
そして戻ってきたクラスメイトに真面目は聞いてみる。
「お疲れ様。 さっき出してたあの料理ってまだ在庫って残ってる?」
「言われてみれば結構出てたかも・・・一旦後ろ確認してくる。」
そして1分後。
「一ノ瀬。 一番近くの冷蔵庫には残ってないや。」
わざわざ報告をしに来なくてもよかったのでは?と真面目は思ったものの。多分現状を共有したかったのかもしれない。
「ということは作った家庭科室まで取りに行かないと行けないのかぁ。」
「私行こうか? まだ時間もあるし。」
「そうしてもらおう・・・」
「おーい! こっちを手伝ってくれないか?」
行こうとしていたクラスメイトとは別のクラスメイトが呼んできたので、その方向に向き直る。
「どうしよう。 あれだけのお客さんがいるのに・・・」
「なら僕が行くよ。 その方がいいでしょ?」
「いいの? 結構距離があると思うけど・・・?」
「移動のしやすさなら僕の方が適任だと思うんだよね。 それじゃあ行ってくるから、さっきの料理は一時的に提供できないことは言っておいてよ。」
そう言って真面目は教室を出て、昨日とは打って変わって激しさを増している人混みの多い廊下を掻い潜りながら家庭科室へと向かう。
「見てお母さん。 あの人不思議な格好してる。」
「こら不思議な格好なんて言わないの。 あれが日本の和服なんだから。」
「お、すげー。 巫女がいるぜ。」
「巫女か? でも和服めっちゃ似合ってるなあの子。」
すれ違う人のそんな感想を右から左に流しつつ、真面目は家庭科室へと到着して、生徒会から許可の出ている冷蔵庫の一部を開けて、売り切れになっていた料理を取り出す。
「まさかこの料理が人気になるとはね。 まあ作った甲斐は出てるからいいか。」
予想以上の売れ行きである料理を見ながら家庭科室を出る。 作り置き可能ではあるものの汚さないように鞄の中に入れているため外からは見えない。
「そういえばそろそろ僕生徒会の仕事も入っていたような・・・ これを運び終えてから生徒会長と合流する・・・」
「あれ? もしかしてあの時の海の家にいた店員さん?」
独り言を言っていた真面目の耳に聞こえてきた声に振り返ると、そこにはサングラスと別クラスで作っているオリジナル帽子を被った人物だった。
「どちら様でしょうか? ・・・というか海の家って・・・」
「あ、この格好じゃ流石に分からないか。 まあ変装自体は成功してるからいいかな。」
そう言ってサングラスを少しだけ下にずらして目元を見せる。 そして真面目がそれを確認すると、声を出そうとした瞬間に鞄を持っていない方の手で口元を塞ぐ。
「ごめんね、私もお忍びで来ている部分があるから、大々的に出ることが出来ないの。 でもすぐに口を塞いでくれたのは嬉しいわ。」
そう、目の前にいたのは、あの有名な配信系シンガーのセルナ・アーセナルだったのだから。




