文化祭当日 全校生徒のみ
『さて今年もこの時期がやってきました。 州点高校文化祭。 今年も今年で魅力的な新入生が多く入ってきたと思いますが、在校生の皆さんは会えたでしょうか? こう言った機会でもないと会えない人も今日をきっかけに会いに行ってみるのもありかもしれませんよ?』
校内放送で放送部のアナウンスが流れるなかでも、校内の喧騒はなりやまない。 1年生のフロアを見て回っている真面目は廊下をすれ違う生徒、階段から降りてくる生徒、催し物の教室から出てくる生徒など、様々な様子を見ながら警邏にあたっていた。
「はーい、喋るのでしたら通行の邪魔になら無いよう、廊下のすみに移動してくださーい。」
廊下の真ん中で喋っていた3人組の男子生徒は真面目の言葉にすぐに移動をした。 真面目としては大きなトラブルになる前に移動させるのがベストだと考えていたので、その判断は間違ってはいない。
「話してる内容と見た目が逆なんだよねぇ・・・」
先ほどの会話を少し聞き耳を立てたのだが、男子の見た目なのに「人形がかわいい」とか「あのネイル難しいと思うんだよねぇ」など、女子のような会話が繰り広げられていることに違和感がありつつも、そこはそういう時代だと言う事で無理やり落ち着かせるしかない真面目。 真面目自身も銘に警邏にあたって欲しいとは言われたものの、催し物も見てもいいと言われているので、それっぽい人物をマークしていると言う名目のもと真面目は教室へと入る。
「いらっしゃいませ。 あ、一ノ瀬さん。」
「こんにちは豊富さん。 少し顔を覗かせていくよ。」
真面目が最初に訪れたのは叶のいるクラスで、催し物のテーマは「屋台巡り」となっている。 屋台と言っても縁日とは違い、輪投げや型抜きなどの遊びが中心になっている。
「あの屋台の商品って本物?」
「はい。 みんなで出しあって、景品を選びました。 とは言ってもお菓子が中心ではありますが。」
改めて見てみると駄菓子類が景品として多く見られた。 子供でも楽しめるような配慮としてだろう。
「輪投げでもやってみようかな。 いくら?」
「1回300円です。」
そういわれて真面目は財布から300円を叶に渡して輪投げを始める。 輪は5つあるので、どれかの列を成立させれば景品獲得。 2列揃えば少し豪華な景品になるようだ。
「なら狙うのは真ん中だよね。」
大人用の距離から見計らって1つ目の輪を投げる。 結果はハズレ。 気を取り直して次々に輪を投げる真面目。 総合的な結果としては1列作るのはおろか、輪がポールに入ったのは1つだけと言う結果になってしまった。
「ピッチャーやサッカーのフォワードには向かないタイプだ・・・」
ノーコンだと分かったところで輪投げは輪投げ。 この程度で落ち込むような真面目でもない。
「参加賞です。」
叶から渡された10円程のお菓子を貰ってから次の屋台に移る。 今度はスーパーボウル掬いに身を投じる。 お金を払って、ポイを貰う。
「んー。 ・・・これかな。」
そしてスーパーボールを狙って掬いに行く。
「よし、1個は取れた。」
1個取れたスーパーボールを手に持ってから教室を出ていった。
「一旦は1年生の教室棟を見ているとして・・・他の先輩達はどうなんだろうなぁ。」
生徒会はそれぞれ散らばった位置で警邏をしているようなので、連絡を取るのも携帯が必要ではあるものの、流石に業務時間中に生徒会である自分が触っているのもどうかと思ったので、連絡は最低限何かあった時の手段以外では使わないようにしようと思う真面目であった。
「全校生徒だけとはいえ、騒がしいような静かなような感じ。」
賑やかすにも人の数が少ないためか大声で喋られても注意が聞こえる程度の声の大きさなので、そこまで苦にはならない。 もちろん色んな学年が入り交じっているとはいえ、の話ではあるが。
「まあ注意喚起があったとは言え、そこまで羽目を外す人もいないでしょ。 油断はしないけど。」
そう言いながら真面目は注意するべき点はないかや、ゴミなどの回収を行うのだった。
文化祭1日目も午後に差し掛かった頃、校内放送が流れ始めた。
『午前も終わりまだまだ残暑の残る午後になりました。 お昼ごはんはどこで食べたでしょうか? 今回出展したクラスの中には、カフェをやっているところもあるのだとか。 出店も悪くはないけれど、ゆったり過ごすのならばカフェとかも良いですよね。 この時間は眠たくなる人もいると思いますが、そんなあなたに一曲お届けしましょう。 それでは聞いてください。 「A,Cチャンネル」より「G.E.N.K.I」!』
そうして流れる音楽は眠気も吹き飛ぶような爽快感を与えるようなメロディーと、情熱的になれるような歌詞が校舎全体を包み込むのだった。
「セルナかぁ・・・あれからまた有名になっちゃってるもんなぁ。 僕らじゃ次に見れるかも分からないや。」
夏の日の事を思い出しながら真面目は校内の警邏を再開させるのだった。
そしてお昼が終わりに差し掛かり、少しだけ賑わいが落ち着いてきた頃に真面目のお腹も鳴り始め、何を食べようかと悩んでいると
「あ、いた。」
「ヘーイ! マジメー!」
どこからか声がしたので辺りを見渡していると、そこには大きなレジ袋を両脇に持っている岬とネビュラだった。
「やあふたりとも。 その袋は?」
「明日の分の買い出し。 来賓がいないで商品が無くなりそうだから、多めに買ってきた。」
「ソレトドウジニワタシタチガタベルモノモカッテキタンデース。 マジメハオヒルゴハンハタベマシタカ?」
「僕はずっと警邏してたからね。 ほとんど休んでないからお腹は空いてるかな。」
「それじゃあこの中から好きなパンを持っていくといい。 1つ2つくらい無くなったって誰も気にはしない。」
むしろ気にする人を見てみたいものだと真面目は思いつつ、菓子パンとおかずパンをそれぞれ1つずつ取って2人と離れる。 そして人の見えないように真面目は食べ始める。
作業中とは言えごはんを食べないことには最後まで終わることは出来ない。 そしてごはんを食べ終えた後はまた警邏を行う。
人が少ないことというのは悪くはない。 それだけ見るところも少なく出来るというわけなのだから。
そうして時間はあっという間に流れ去り、夕方になったところで下校前のチャイムのようなものが鳴り始めた。
『本日の全校生徒のみでの文化祭はいかがだったでしょうか? 明日からは皆さんが来賓の方々におもてなしをする番になります。 申請をしていれば最終下校時刻を越えても作業をしていいと、教職員からのご伝達もあったので、明日までに準備のし直しをしなきゃいけないクラスは今すぐ報告だ! それでは校内放送からご案内いたしました、放送部「源 庸治」がお届け致しました。 また明日もよろしく!』
放送部の宣伝が終わり、真面目もそろそろ自分の教室に戻らないとと思い、銘に連絡を取ろうと思ったら、既に生徒会のグループMILEに文章が送られてきていた。
『皆のもの。 1日目のお勤めご苦労だった。 しかし文化祭の本番は来賓の方々が来られる明日になる。 一般のお客が多いため、より一層帯を締め直すように。 それと私は明日の準備をするクラスの見回りも行うため、下校をする時は私に報告は不要だ。 明日もよろしく頼んだぞ。』
銘会長の律儀な文面に自分を知っているんだなと思った。 そして真面目も
自分の教室に入ると、テーブルの角や脚に垂れた飲み物を拭いていたり、切れた折り紙の修繕をしていたりと、それなりに忙しそうにはなっていた。
「あ! 一ノ瀬! 戻ってきてくれたんだ!」
真面目が状況把握のために教室を見渡していると1人の女子が声をかけてきた。
「一ノ瀬助けて! 明日の分の料理が切れそうなの! 作るの手伝ってくれない?」
「いいけど・・・そこそこの量作った筈なんだけどなぁ?」
「複数注文が多かったんだよ。 とにかく作らないといけないから、また頼まれてくれないか?」
生徒会の仕事が終わったのに、と真面目は思っていたのだが、この事に関しては正直今に始まったことでもないかと捉えて、真面目を含めた数人は最終下校時刻を過ぎても、使える時間を目一杯使って作り置きを作ってから帰るのだった。




