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どんな喫茶店になるのか

 木曜日のLHR。 この時間はクラスによって様々で、クラス内の交流を深めたり、次の授業についての考察だったりと、本当に色んな理由で使われるが、文化祭に近い今は出し物のアイデアについて語ることが多い。 もちろんそれは真面目達のいるクラスも例外ではない。


「一昨日も少しだけ触れたけど、我がクラスの出し物は喫茶店。 しかしただ模擬店として出すのは、文化祭としては盛り上がりに欠けると思っている。 そこで今日は「どんなテーマの喫茶店にするか」をみんなで決めていきたいと思う。」


 委員長である彼女が皆の前で話を始めている。 担任もいるものの、話し合いには参加しない姿勢を取っていた。


「アイデア・・・かあ。」


 真面目も話し合いには参加しようとは思っているものの、表立って意見は言わないようにしようと思っていた。 というよりも具体案までは考えていなかったのだから、色々と言える立場ではないからだ。 2択に絞った内の1つを選んだだけなので、それ以上はなにも言わないようにしたのだ。


「はい! やっぱりメイドがいいのではないでしょうか?」

「それだと在り来たりだって。 ここは逆にあり得ない組み合わせとかでやるとかどう? 季節外れかもだけど幽霊喫茶とかさ。」

「お化け屋敷をやる場所もあるんじゃないか? それならもっとファンタジー色を強めてさ。」

「それ料理も雰囲気に合わせなきゃ行けないから大変じゃん。」


 あれやこれやと言い合っているクラスメイトを見ながら、真面目はふと思い返すことがある。


「性別は入れ替わってるんだよなぁ。」


 慣れというものは本当に怖いもので、女子なのに男子の好みそうな雰囲気を提案したり、その逆もある。 とはいえそれが何かの支障になるかと言われればそうでもないし、「男なのに」、「女のクセに」と言った差別用語は、現代ではもはや禁句の域になっている。


「ソレナライロンナクニノフクヲキテ、オモテナシヲシテミルノハドウデショウカ?」


 このクラスでただ一人、留学生であるネビュラを除けば、だが。


「色んな服って・・・それって各国の民族衣装をみんなで着るってこと?」

「ソウデス! イブンカコウリュウノタイセツサヲ、ミナサンニシッテモライタイノデス!」


 元々彼女は異文化交流を目的として留学をしてきた身。 彼女自身もそうなのだが、今の状態の日本とは交流を深めたいと言う国は少なからずある。 ネビュラは学生としてこの学校に留学して、ここでの出来事を母国に持ち帰り、今の日本とのつきあい方を考えるのは国のお偉方ではあるが、それ以前に彼女の学校生活を楽しんで貰いたいと言う思いもあるのだろう。


「伝統的な服を着るのは分かったけど・・・その肝心の服はどうするんだい?」

「ソコハワタシニオマカセクダサイ! ワタシノイエニアルこれくしょんかカラ、フクヲミツクロッテキマスノデ。」


 そのネビュラの発言にクラスの全員が動揺を隠しきれなかった。 その発言は、つまるところお嬢様のような風格なのは薄々と感じてはいたのだが、今の発言でより強固な思いになった。


「とんでもないお嬢様とボク達関わっちゃったのかもね。」

「留学できるくらいだからってある程度は持ってるんだろうなぁとは思ってたけどね。」


 非現実的な話に何とか堪えつつも、とにかくコンセプト自体は決まったようなので、次の話をしようとしていたのだが、そこでふと真面目は思い返すことがあったので、挙手をしてから意見を聞くことにした。


「というか実際に僕達のクラスって、本当に催し物は喫茶店に決まったの?」


 真面目の言葉に空気がピタリと止まる。 そう、これだけ盛り上がってはいるものの、実際に催し物が喫茶店になったのかは誰も知らなかったりする。 それに関しては一度担任を見ることになった。


「確かに案としては出したけど、同じように喫茶店を催し物にするクラスがあるのならば、出来ないことも考えなければいけないな。」


 つまりそこは教員のみぞ知る、と言ったところだろうか。


「・・・一応第2案も後で考えるとして、まずはアイデアを出していこう。 着る服に関しては問題なさそうだし、次は出す品物とかを考えないかい?」

「はいはいはーい! それなら異国風な物がいいと思いまーす!」

「おいおい、その前にそれを作る人がいるだろ? 誰か作れるのか?」


 そう誰かが言った後にみんなが顔を見合わせる。 そんなファンタジーチックな料理を作れる人がこのクラスにいるかと言われるとみんな自信が無いようだった。


 そんな中で目を向けられたのはネビュラであったが


「ゴメンナサイ・・・ワタシカラテイアンシテアレナノデスガ、ワタシハリョウリハデキナイニヒトシイノデス。 セイゼイホウチョウデショクザイヲキルテイドデス。」


 みんなががっかりした表情をしているなかで、岬だけは真面目の方向を見ているのを見て、クラスメイトの目線は真面目に向けられる。


「・・・え?」

「なあ一ノ瀬。 一ノ瀬って料理は出来るか?」

「まあ、出来るは出来るけど・・・」

「なら一ノ瀬に料理は任せてもいいか? リーダーとしてみんなを引っ張ってくれるだけでいいんだ。」

「ええ・・・?」


 今完全に面倒な事を突き付けられたと真面目は思った。 そして真面目の意見も聞かずに提供する料理についてをあれやこれやと話が進んでいくのだった。


「僕の意見は無視ですかそうですか。」

「みんな目の前のことで頭いっぱいになっちゃってるみたいだね。」


 一気に話が進みすぎて介入する余地が感じられなくなった真面目と刃真里は、どうなるのかだけを見守るしかなかった。


「というかそんな事なら僕もそれなりに会話に入ればよかった・・・」

「そうだとしても絶対に同じことになってたと思うよ?」


 刃真里の言うようになっていたことだろうと思うと真面目はため息をついた。 そして真面目はこうなった元凶をジト目で見る。


「浅倉さんのせいじゃないでしょ。 この事に関しては。」

「いやいやいや、岬がこっちを見なければ、僕に重要な役割みたいな役なんか回ってこなかったでしょ。 なに作るかによっては僕一から作ってみないといけないわけだし。」

「それでも責任は果たそうとする辺りは優しいよね。」


 刃真里に言われて真面目は別の意味でため息をつくのだった。


 そしてLHRも半分過ぎた頃に、ある程度出すものを決めた辺りで、次の案を出すことを提案した。


「もし駄目だった時にもう1つの案を出しておこうと思う。」

「次に多かったのってなんなの?」

「次に多かったのはお祭りにあるような輪投げや射的などだった。」

「ああ、景品がある系の遊びってことか。」

「これはお菓子やおもちゃを予算から出したりみんなの資金を集めたりしてやっていこうと思うのだが、それでも構わないかい?」

「輪投げなんかは手作りすればいいしねぇ。 それならそれでいいんじゃない?」


 そんなこんなであっさりと第2案が決まってしまうのだった。


「今までのを覆すかのような速さだったね。」

「そんなのでいいのかなぁ?」


 真面目の疑問も当たり前なのだが、既に喫茶店をやる気持ちで一杯のクラスメイト達を見ると、周りが見えなくなっているようなのは変わり無いので、行く末を見守るしかなった。


 そしてある程度決まったところでLHRが終わりを迎えた。 ようやく終わったと思った真面目の前に一人のクラスメイトがなにかのメモ用紙を差し出してきた。


「これは?」

「ごめん一ノ瀬。 このメモに書かれる料理を考えてきてくれないか? もちろん俺達が作れる範囲でいいからさ。」


 別に料理を決めた訳じゃなかったんだと思いながら、今週末は料理について考えなければいけないのかと思った真面目であった。

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