秋らしさを見つけに
真面目達はあれから商店街を練り歩いているが、やはりお昼時と言うこともあって行列が出来ていたりお店の中で待っている人達で溢れかえっていた。
「凄い人だかり。 分かってはいたけれど。」
「どうしよっか。 今から並べばまだお昼にはなると思うよ。」
「それもそうだね。 うーんどこにしようか。」
商店街を見渡す岬の目に見えるのは、ファストフードに韓国料理にトルコ理。 お肉のお店に魚料理と、あれやこれやとやっているお店がたくさんある。
「・・・あのカフェにしよう。」
岬が目に止めたのは外にも席を展開している洋風のレストランカフェ。 黒を基調としていて、モダンな雰囲気を醸し出していた。
「岬。 お客さんの並びが他の店よりも比較的少ないから選んだ訳じゃないよね?」
その店の前に並んでいる人達は、他の店に比べると短い。 岬がそんな単純な理由で店を選んだと思いたくなかった真面目は一度問いただす。 すると岬は首を横に振る。 違っていたようで真面目も安堵する。
「あの旗の料理、気にならない?」
岬が更に指差した先にあった、お店の前に立てられている旗の内容を見てみると
「秋の味覚先取りフェア」
と、かかれたフォントの下に料理が写真で貼られていた。 遠目から見るとパスタにケーキが出ているのが見えた。
「良く見たらピザもある。 イタリア料理店なのかな?」
「とにかく行ってみよう。 並ばれるのも困るし。」
「・・・多分半分くらいは理由に入ってるよね?」
そう真面目は思いつつも、ボルダリングを行ったお掛けで、お腹はすっからかんなのには変わりないのでその店の最後尾に並ぶことにした。
「お待たせいたしました二名でお待ちの浅倉様。 お席の準備が出来ましたのでご案内致します。」
お店の外で並んでから20分程。 ようやく真面目達の順番が回ってきたので、店員が中へと案内してくれる。 案内されたのはお店の奥の方で、窓の外を見ると、細い路地から人が歩いてくるのが見えた。
「ご注文がお決まりになりましたらこちらのベルを鳴らして下さい。 どうぞごゆっくり。」
店員が去っていった後に、真面目と岬はメニューを見てみる。 お洒落なメニュー表には、これまたお洒落な料理が並んでいた。
「外で見たフェアの料理は何処だろうね?」
「あ、別のところにあるみたい。」
岬は小さい方のメニュー表を見つけ、机に広げるそこには確かに外の旗にあったようなメニューが書かれていた。パスタにケーキの他にも、パイ包みやパンを半均分使ったハニートーストならぬメープルシロップトーストまで様々だった。
「確かに秋の先取りをしている感じがあるね。」
「デザートの方は紅茶にもメープルシロップが付いてくるって。」
2人は料理を見て楽しんでいたのだが、流石になにかを頼もうと思い、決まったところでベルを鳴らす。
「お待たせいたしました。 ご注文は?」
「僕は「パンプキンシチューのパイ包み」のバケットセットで。」
「私は「4種のキノコのクリームパスタ」を。」
「それと食後に「メープルシロップトースト」を1つお願いします。」
「かしこまりました。 パンプキンシチューの方は出来上がりまでにお時間をいただきますが、それでもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。」
「ありがとうございます。 それではお料理が来るまでお待ちください。」
そう言って店員は厨房の方へと去っていった。
「パンプキンシチューなんて、また一風変わったものを頼んだね。」
「そっちの方は、なんか定番って感じ。 人気料理なんじゃない?」
「フェア限定で人気とかあるのかな?」
そんな会話を普通にしている真面目達。 店内を見渡すとふと不思議なことを感じた。
「イタリアンだから若い人が多いのかなって感じてたけど・・・」
「お昼時だしフェアもやってるからじゃない?」
「なにかそれだけじゃないような気がして・・・」
真面目にとっての違和感が岬には分からない。 これだけお洒落なお店ならば若い客が来るのは当たり前だろうし、こういった場所は若者受けもしやすい。 そう言った意味では岬は疑問に思っていたのだが、自分達は夏休みの海の家での経験もある。 お客の傾向を掴むのも仕方のないことなのかもしれない。
「お待たせいたしました。 4種のキノコのクリームパスタです。」
「あ、それは私です。」
料理が届けられて岬の前に置かれる。 白いクリームソースの中に漂っているのは、マッシュルームに舞茸、ぶなしめじにポルチーニ茸と決してクリームソースの色を邪魔しないキノコ達が入っていた。
「パイ包みの方はただいまオーブンで焼いておられますので、今しばらくお待ちください。」
別に聞いたわけでもないのに店員からそんな宣言をされる真面目。 分かってはいたことかもしれないが、時間が経てば経つ程、お腹と言うものはより減ってきてしまうのだ。
「冷めないうちに食べなよ。」
「真面目君に悪いよ。」
「パスタも冷めたら伸びちゃうよ。 それくらいなら耐えられるから。」
そうは言っているものの、真面目も空腹感は止まらない。 フワリと来るクリームソースの匂いが余計に空腹感を増させるのだ。
「お待たせいたしました。 パンプキンシチューのパイ包みです。 バケットもご用意しました。」
そのタイミングで真面目の料理も届いた。 カップの上で膨れ上がっているパイ生地は、割ってくれと言わんばかりに切れ目が出来上がっている。
「熱そうだね。」
「そりゃあね。 それじゃあ割ってみるよ。」
スプーンの裏でパイ生地を割ってみると、下からきいろのスープが現れて、カボチャの匂いが食欲をそそる。
「カボチャの匂いと見た目って、なんだか秋っぽさを感じるよね。」
「一番秋っぽい色してるもんね。 オレンジって。」
見た目を楽しんだところで、真面目がスープにパイを浸けてから少し冷ましてから食べる。
カボチャの甘さと旨さ、そして牛乳の滑らかさも口の中にはいって、端的に言えば美味しかったのだ。
「うん。 美味しい。 これは先取りしてるって思ってもおかしくないよね。」
「美味しいね。 これはいい。」
2人で料理を楽しんだ後にもう一度ベルを鳴らしてみる。
「お待たせしました。」
「あ、メープルシロップトーストをお願いいたします。」
「かしこまりました。」
2人とも料理を1/4食べたところで料理を頼み直して、料理を食べ終えた辺りで店員が現れる。
「お待たせしました。 メープルシロップトーストでございます。」
「わ、凄い大きい。」
「そしてカップルさま用にこちらのフォークとナイフをお使いください。」
そう言って真面目達は店員から受け渡されて店員は去っていった。
「・・・カップル・・・?」
「・・・カップル・・・。」
真面目も岬も先程言われた言葉に、互いに思うところがあったようらしい。 しかしあまり時間をかけると上に乗っけてあるアイスが溶けていくので、メープルシロップをかけていく。 そうして溶けたアイスとメープルシロップがトーストの側面を垂れていく。
互いに食べる分だけ皿に盛り付けて、フォークで口に運んでいく。
トーストの暖かさとアイスの冷たさがメープルシロップに凝縮されているようで、口の中に幸せという言葉が入っていく。
「ハチミツとは違う甘さだけど、やっぱり美味しいね。」
「メープルシロップって楓の木の樹液だったっけ?」
「近からず遠からずって感じだよね。」
そうして2人は協力をしてメープルシロップトーストを食べていき、お腹がいっぱいになったところで少し休憩をした後にお会計を済ませるためにレジへと歩いていく。
「はい。 それではお値段はこちらになります。」
そう言われてレジに打ち出された値段を見て真面目は疑問に思った。
「ん? これ値段合ってます?」
「はい。 こちらはカップル割を行った値段になります。」
「・・・カップル割・・・」
真面目はそう言われて岬の方を見る。 しかしここで否定をすると勘違いとは言えそう言っている店員に失礼だと思ったので、レジが表している値段を払ってお店を出た。
「そう見えるって認識でいいのかな・・・?」
「少しでも安くなるなら私は気にしない。 今日はありがとうね。」
「あ、帰るの?」
「多分筋肉痛になるから身体を早めに休めたい。」
「なにその超回復理論。」
「似たようなもの。 それじゃあね。」
「うん。 また月曜日に。」
そうして真面目達は商店街で別れを告げて今日という日を終えるのだった。




