自分でも分かってない
土曜日の朝。 真面目はいつも通りの時間に起きる。 だが今日は家でゆったりするわけではない。 昨日の帰りに半ば強引に誘いを受けた岬との約束のために起きる。
「一体何をするつもりなんだろう?」
シャワーを浴びつつも真面目は考える。 特になにをするとも言われないままに別れて夜に連絡をいれないままに朝を向かえてしまった。
それにあの時の事を思い返せば、岬らしくないほどに焦っている様子も取れた。 冷静さが彼女のトレードマークだったにも関わらず、だ。
「真相は・・・聞けないだろうなぁ。」
そう思いながら真面目は脱衣所にやってくる。 そして出掛けると言うことでお洒落にちょっとだけ気合いをいれた格好でリビングへと入る。 そこには朝ごはんを用意する進の姿があった。 壱与は既に出社している。
「おはよう真面目。 今日はどこかに出掛けるのかい?」
「友達に呼ばれちゃってね。 夕飯までには帰ると思うけど、そうじゃなかったら連絡するよ。」
「そうか。 朝ごはんを食べる余裕はあるか?」
「そんなに早くには行かないよ。 食べていく。」
そうして用意された和朝食(おかずは焼き鮭に煮豆)を食べて、片付けを進が担うと言ったので、時間になるまでテレビを見ることにした。
「時間は大丈夫そうかい?」
「大丈夫だよ。 場所だってそんなに遠くはないし。 ただ・・・」
「ただ?」
「なんで呼ばれたのかまでは分からないし聞いてないんだよね。」
昨日の岬の強引さのせいで、全く予測がつかなくなってしまった真面目。 心の中のモヤモヤが昨日から消えないのだ。
そしてそれが何故なのかも理解できていない。 謎が謎を呼んでいる、と言っても過言ではないのと今の真面目は感じてしまっているのだ。
「真面目にとって、その友達は大切かい?」
そんなことを進が言ってきたので、少し考えた後真面目は
「大切だよ?」
そう答えた。
「ならその友人は、今の関係のままでいたいと思っているのかもね。 壊れてしまうのを恐れている。」
「関係が壊れるって・・・」
「どう捉えるかは真面目次第だけど、時間を掛けすぎるのも、良くないからね。」
「・・・良く分かんないや。 時間になったから行くよ。」
「深く悩ませるような事を言ったならすまなかった。 気を付けていくんだぞ。」
そう言って見送る進に「分かってるよ」と言わんばかりに手を振る真面目。
そして集合場所まで歩いていく間に、真面目はやはり父である進の言葉が頭から離れることはなかった。
「関係を壊したくない・・・ねぇ・・・」
進に対して今日会う相手を話していない。 だがそれが真面目の考えを更に複雑にさせていた。
岬の事は確かに友人であるし、その事について嘘は言っていない。 言っていないはずなのだが、岬の事を「友人」と定義を置いている事にどこか不満を持っている様なのである。
そんなことは少なくとも夏休みの間に思ったことは無かった想いである。 では何時からなのか、真面目の自問自答は繰り返されるままであった。
「今の僕は岬の事を友人として定義していない? それじゃあ岬は僕にとってどんな存在になっているんだろう? それに僕の気持ちもそうだけど、岬がネビュラと話している時に機嫌が悪くなるのも気になる。 一体彼女の中の何が良くないのだろうか?」
「何を1人で呟いているの? 真面目君。」
もはや定番に近付きつつある、約束場所を通り過ぎようとしていた真面目を岬が声をかける光景である。
「あ、おはよう岬。 ごめんちょっと考え事をね。」
「相変わらずだね。 そう言うところも。」
なんだか見透かされているようで、なんというか気恥ずかしいものを感じる真面目。 そこで少し違和感を覚えた。
「・・・ん? なんで見透かされることが嫌だって思ったんだろ?」
その真面目の独り言に岬も思うところがあったようで、その事について口を開いた。
「真面目君。 昨日私もなんで今日急にこんな約束をしたのか、家に帰ってから考えてた。 でも結論は出なかった。」
「出なかったって?」
「ネビュラと真面目君が話している時に感じた、胸の嫌な気持ちについて、思い当たることを当てはめてみたけど、どれもこれも違う気がして、それで昨日の約束は衝動的だった事だけは分かった。」
「で、具体的なことが分からない、と。」
真面目だけでなく岬も同じ様に悩みを抱えていたようだ。 だが2人とも分からないのであれば、本当に分からないのだろう。
「それで今日を呼んだ理由・・・は衝動的だから特に無いよね。」
「そうだね。 理由が無いね。」
真面目が聞いてみて本当に何も無いのだと思ったのだった。
「流石に集まっておいてなにもしないのはちょっとね。」
「うーん・・・・・・」
集合の約束をした本人が悩むのも、仕方ないと思う。
「岬が行ってみたい場所とか、遊んでみたいこととか、なにかない?」
「うーん・・・ あ。」
そう真面目は聞いた後に岬は思い付いたかのように口を開いた。
「テレビでやってた、ロッククライミングみたいな奴やってみたいと思ってた。」
「ロッククライミングみたいなの? ・・・ああ、ボルダリングのこと?」
「そうそう。 実は近くにあるみたい。 あの私達が入る商店街の逆の入り口からその施設に向かえるみたい。」
「へぇ。 それじゃあそれに行ってみようか。」
即答する真面目に対して、今度は岬が質問をする番になった。
「本当にいいの? これは私のわがままだし、真面目君が無理に付き合う必要のないことだよ? 私自身がやりたいことに無理して合わせてるのなら尚更。」
そう詰め寄られるとは思ってもいなかった真面目は、驚きはしつつも自分なりの答えを出す。
「今日僕をここに呼んだのは岬だよ。 だから選択権は岬にあるし、僕はその岬の意見を尊重してるだけ。 無理もしてなければあれやこれやと意見を言うつもりもないよ。 終わった後の事は話すかもしれないけど。」
そう告げると、岬は少し考えた後に、横に首を振った。
「真面目君はどうやらお人好しが過ぎるみたい。」
「え? そうかな?」
「私がネビュラに対して、モヤモヤした気持ちになっていたのは、これかもしれない。」
「なにか分かったなら、それでいいんじゃない?」
「お気楽。」
そんな風に岬に言われるものの、真面目としては不満や苦悶のひとつやふたつあってもおかしくはない。 真面目はただ、自分に干渉するようなことでなければ、基本的に他人行儀である。 振り払わなければいけない火の粉の場合は別だが。
「というか、そっちはどうなの? ここに来る時に思い詰めてたけど。」
「僕の方? うーん・・・」
確かにここに来るまでに真面目の中にも靄がかかっているような感覚はあった。 それがなんなのか、どんな疑問だったかを思い返すと・・・
「多分そこまで気になるようなものじゃなかったかもしれない。」
「嘘だとしてももう少し頭を捻らせて。」
そう言われても岬の疑問の方が終わったわけだし、それを聞いた真面目はそれ以上追求する気もない。 終わったことならそれでよしだと真面目は思った。
「まあそのうち思い返すかも。 それなら行こうよ。 僕はボルダリングの施設の場所知らないから、案内してよ。」
「いいけど、私も行ったことはないから、地図頼りになる事だけは分かって。」
そうしてようやく集合場所から移動することになった真面目達なのであった。




