ウェルカムトゥ州点高校
「マジメ! ガッコウノアンナイヲシテクダサイ!」
留学生であるネビュラが授業を終えてすぐに真面目のところにやってきて、そう詰め寄ってきた。
「誘ってくれるのは嬉しいんだけど・・・僕生徒会の仕事があるからネビュラだけに構ってられないんだよね。」
そう断りを入れれば大抵の日本人は諦めてくれる。 相手の意見を尊重する生き物であるがゆえに、相手の機嫌を損ねないようにするためだ。
「イイジャナイ! ワタシトガッコウナイヲマワルダケナノデ、ノープログレムデショ? ソンナニナガイジカンハトリマセンカラ。 ホラホラ、ツレテイッテクダサイヨォ。」
だが真面目の予想に反して、ネビュラは諦めることはなく、むしろ真面目の腕を引っ張ろうとしている。 日本人らしからぬ行動であったし、何より諦めの悪いネビュラにそのまま引っ張られそうになった真面目を
「座っている人の腕を無理矢理引っ張ったら危ない。 それに仕事のある人間を無理に連れて言うことは出来ない。」
岬がすぐさまネビュラの腕を取って、真面目と引き離す。
「学校なら私が案内する。 茶道部の活動は基本的に週一以上で出れば問題ないし、案内ついでに部活をやればいい。」
「ソレデハヨロシクオネガイイタシマス、ミサキ。」
彼女たち(岬は男の子)の間で火花が散っているように真面目は見えた。 何が起きているのか理解は出来ないが、この2人が仲良くなるのはまだまだ先なのではないかと思ってしまう。
とはいえ真面目には岬がネビュラに対して嫉妬するのも、ネビュラが他の人以上に真面目と交流する理由が分からない。 異文化交流としてはネビュラには様々な生徒と触れあって欲しいと願っているし、たかが1人の生徒のために争いの火種を起こしたくないと思ってしまう。
「それなら一緒に見て回ればいいんですよぉ。」
生徒会室で庶務の仕事をしている時に、真面目は水上からそんな提案をされた。
真面目が生徒会室に入った時にかなり悩んでいるような表情をしていたらしく、悩みを打ち明けた結果の水上からの答えだった。
「確かにそれはそうだろうな。 一ノ瀬の友人の方は分からないが、留学生の方は学校生活に馴染むためには必要なことだろう。」
「まだ来て間もないもんね。 移動教室とかの時に一緒に行けないようじゃお互いに困るんじゃないかな。」
水上の答えに乗るかのように花井も金田も似たような意見を述べる。
「それはそうなんですけど・・・」
真面目自身もこの質問に意味があるのかと考えてはいた。 そもそも学校のことを知らないから案内して欲しい、というのは真っ当な理由であり、真面目もそれに準ずるのは間違っていないと思っていた。
しかしそこで何故かすぐに「分かった」と言えなかった自分がいるのも事実だったし、岬の態度も気になっていた。 だからこそなんとも言えない状態に陥っていたし、悩んでいたと過言ではないのだ。
「人間関係で悩んでいるのだろう。 しかも互いに異性からのアプローチ。 どちらの意見も正しいし、片方だけを受け入れるわけにもいかない。 そんなところじゃないか一ノ瀬庶務?」
答えは出ているのに未だに自問自答のように繰り返していた真面目に答えを出すように銘が言った。
「人間全員の手を取ることは出来ない。 だが手を振りほどくでもないのならば、簡単に振りほどく様なことをしてはいけない。 特に今の状況ではそう言った関係は大事にしなければいけない。 それを踏まえた上で、どうするべきか動いて見てはどうかな?」
銘に問われるように聞かれた真面目は、目の前の厚みの無い薄い書類に目を通して、すぐに書類の内容に書き込みをしてから、銘にその書類を渡す。
「すみません。 今日はこのまま失礼します。」
「うむ。 あとはこちらに任せて貰おう。 行くなら行くといい。」
そうして真面目は生徒会室を離れる。 そして真面目は今の場所から見える限りの範囲を見てみる。 そして窓際から2人の姿を捉えることが出来た。
「あそこまでは・・・こっちかな。」
2人を見たのが今ならばその数分後には別の場所にいることになる。 先回りが出来るかどうかは分からないが、真面目はある程度の行き先を予測しなければいけない。 生徒会での仕事で見回りをしているうちに学校の地形は把握できるようになった。
先程2人が見えた場所へと到着する真面目は、次に向かうとするならばと考える。
「この先にあるのは・・・降りて調理室か、登って写真部の部活。 だけど下に居たってことは降りたってことだと思うから・・・調理室かな。」
そう言って階段を降りて踊り場から下を覗いた時に、2人の姿を捉えた。
「岬、ネビュラ。」
真面目が2人に声をかけると、その声に振り返るように真面目の方を見る岬とネビュラ。
「真面目君。 生徒会の仕事は終わったの?」
「終わったというか・・・終わらせてきたというか・・・」
「スゴイデスネ。 ガッコウノギョウジナドヲミタリスルノデスヨネ? ソレヲコンナニハヤクオワラセテクルナンテ。」
「いやいや、僕は庶務、そんなに仕事は多くないんだよ。」
「それで、その庶務を早く終わらせて、私達と合流したってことは・・・ そんなに私が信用できなかった?」
岬の機嫌がまた悪くなって来たのを感じた真面目は、最初に違うことを説明する。
「いやいや、そうじゃないよ。 だって僕が忙しいのを知っていて、率先してネビュラを連れていってくれたじゃない。」
「それは・・・ネビュラが強引だったし。 困らせるのは良くないと思っただけ。」
「それでもだよ。 すぐに対応してくれたのは嬉しかったよ。」
「・・・そう。」
真面目のそんな言葉に岬は目を反らしていた。 その耳は赤く染まっていた。
「それで、どこまで見に行ったの?」
「コレカラチョウリシツニイッテ、リョウリブノヨウスヲ、ミニイクトコロデス。 ナニヲツクッテイルノカ、キニナリマス。」
「学校内の部活だからかなり限られると思うよ? 多分調理した料理よりも、その過程が大事なのかも。」
「ムゥ、ミサキモソウデスガ、マジメモロマンガアリマセン。 サキホドノパソコンヲツカッタヘヤデモ、ドンナモノヲツクッテイルンダロ? トカ、ジブンデナニカヲツクルノッテタノシソウダナトカ、モットオモシロソウナカンガエヲ、モッテモイイトオモウデス。」
「それで現実とのギャップで心がおかしくなるくらいなら、まだ現実を見ていたい。」
その会話でこの2人が仲が悪い理由が、真面目には何となく分かった。
前向き思考のネビュラと現実主義者の岬。 2人の意見は平行線になりやすいだろう。 だが真面目にとってそんな理由で喧嘩はして欲しくないので、強引に話を戻すことにした。
「とりあえずこのまま調理室に行こう。 見方はネビュラに任せるんだから、それ以上の文句は無しで。 ネビュラも違ったものを見てもガッカリしないようにね。」
「ハーイ。」
「・・・分かった。」
2人の機嫌を同時に取るのは大変だなと思いつつも、真面目はネビュラが好みそうな場所を案内して、あっという間に下校時間となった。
「この学校に来た感想は?」
「トテモタノシソウナガッコウデスネ! ミナサンガワキアイアイとシテイルノガミエマシタ。」
「そう見えたならよかった。 近々文化祭の準備も始まると思うから、もっと賑やかになるかもね。」
「ブンカサイ! ニホンノブンカサイハクオリティーガタカイトキキマシタ! ワタシイマカラガタノシミデス!」
「そう言ってくれるなら嬉しいと思うよ。 僕らは帰りはこっちだけど。」
「ソレデハココデオワカレデスネ。 マタライシュウ、デス。」
そうして真面目とネビュラは手を振り合い、それぞれの道へと歩みを進める。 もちろん真面目の行く方向には岬もいる。 何を言うべきかと悩んでいる真面目。 すると岬の方から声がかけられた。
「真面目君。 明日は私に付き合って貰う。 これは決定事項。 9時にいつもの場所で集合。 それじゃあ。」
真面目がなにかを言う前に去ってしまう岬。 どう言うことなのか訳が分からないまま真面目はしばらくその場で固まってしまったのだった。




