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感じ始めた嫉妬

 さて留学生が来たということはどうなるのかといえば、休みの時間になれば他クラスからドンドンとネビュラの姿を見に、真面目達のいる教室に生徒が集まるのは必然。 しかも真面目達のクラスメイトも彼女に聞きたいことは山ほどあるだろうから、初日は完全にネビュラの身動きは取れなくなってしまう。


「凄い人集りだね。」

「それはそうでしょうよ。 何て言ったって留学生だもの。」


 そんな風景を遠巻きから見ていた刃真里と真面目。 真面目がそんな風に解答したのには訳がある。


 某国からの実験のミスにより、超特殊細菌が降り注がれて、性転換が発生してしまう事象が起きているのは、この現代では日本のみで、他の国に対してそのような事象は観測されていない。 それどころか他国に対して同じ細菌をミサイル等に乗せてばらまいたとも報道されていない。


 つまりこの事象は日本のみで発生しており、どの国から見られても珍しいということになるのだ。


 それは逆も然りで、同じ世代で性別が変わっていないというのは、今の日本では珍しいのだ。


 世代が代わりつつあるということもあるのだろう。 別の意味で不思議な光景とも取れるだろう。


 そんなことを見ている間にチャイムが鳴り、みんながネビュラから離れて席へと着いた。


 そして授業も昼間になり、お昼を食べようとしたところで、真面目の前にネビュラが立っていた。


「マジメ、イッショニオヒルヲタベマセンカ?」


 そんなお誘いを受けた真面目は、どうするかと考えた。

 まだネビュラはこのクラスに馴染めていないような気がする。 世渡り上手ではないにしても、まだ馴染むには時間がかかるように見えた。


 見えてはいたのだが、知り合いと言うよりも顔見知りがいるだけでも安心なのだろうか。


「ドウカシタマジメ? ワタシナニカワルイコトイッタ?」


 返答に困っていた真面目に再びネビュラが声をかける。 その声に思い出したかのように真面目は意識を取り戻す。 しかし答えがでないまま何を言おうかと迷っていると


「一ノ瀬君。 一緒にお昼にしない?」


 今度は岬が声をかける。 こうなってしまうと真面目は断ることは出来なくなる。 仕方がないので2人とも一緒にするように考えた。


「うん。 そうしようか。 浅倉さん。 机を前でくっ付けてくれる? それでネビュラは椅子を持ってここに来てくれるかな?」

「うん。」

「ハーイ。」


 今の真面目にとってこの状況は救いの手になっていた。 優柔不断では無いと思っていた真面目であったが、いざ選択を迫られたら追い詰められそうな予感がしたことをほんのすこしだけ危惧したのだった。


 そして机を2つにして広げて真面目、岬、ネビュラの3人で食事をすることにした。


「コウシテダレカトイッショニオヒルヲタベルノモ、コウリュウノヒトツデスヨネェ。」

「他の人と食べたいとは思わなかったの? 一ノ瀬君だけじゃないはずでしょ?」

「oh、ツメタイヒトデスネ。 タシカニマジメトアッタノハイチドダケデスガ、コウシテウンメイテキニアエタノハ、アノトキカミサマニネガッタカラナノカモシレマセン。」


 少しだけ得意気に鼻を鳴らすネビュラに対して、なにかを警戒するかのようにネビュラを見る岬。 一触即発ムードに、真面目は居たたまれなくなり、とにかく場を落ち着かせようと思い、声を出した。


「ま、まあまあ2人とも。 とりあえずお昼食べよう。 ほら、みんなで食べる方がいいでしょ?」

「ソレハソウデスガ、ソモソモワタシハアナタノコトヲシリマセン。」

「確かに急に来たことは謝る。 それに自己紹介もしてないのは悪いこと。 私は浅倉 岬。 見た目は少年だけど中身は女子高生だから。」

「ミナサンノハンノウデナレマシタ。 ノーエンビューラー・アトラスデス。 ニックネームハネビュラデス。」

「日本語はまだ勉強中?」

「ユウチョウニハシャベレマセンカラ。」

「悠長って言葉を知ってる時点でただ辞書を読んだだけには思えないかな。」


 そんなこんなで2人の会話に興が乗ったのを確認して真面目はホッとする。 そして真面目も会話に加わって、3人でお昼休みを過ごすこととなった。


「ところでなんであんなにネビュラの事を睨んでいたのさ?」


 昼食を終えてネビュラが真面目と岬から離れた時に、真面目は岬にそんな質問を聞いてみる。


 お昼を取っている間、完全には心を開いていないように見えて、しかも終始警戒しているように見えた。 流石に会話をしていただけに気にはなったしまったので、真相を知りたくなった。


「・・・私自身もなんであそこまでネビュラのことを見ていたのか分からない。 ただ、目が離せなかったのだけは確か。」

「理由も分からなくて睨んでいたの? 浅倉さんらしくないんじゃない?」


 そう真面目が言うと、岬の機嫌が悪くなる。

「あれ? なんで?」

「これに関しては分かる。 一ノ瀬君が私に対しては名字なのに、ネビュラにはあだ名で呼んでいることに対して、私なりの嫉妬を感じた。 だから機嫌が悪い。」


 ええ? と真面目は顔を歪めるが、不平等さで言えば仕方の無いことで済まないのかと感じてしまう。


 そもそもネビュラがあだ名なのには、彼女の名前が長いから、短い名称のようなもので呼んでいるからであって、呼ぶことに抵抗が無いのには、彼女から言ってほしいからという願いがあったからである。


 とはいえこのまま岬の機嫌が悪くなるのであれば、対策をしなければならないのだろうかと身勝手に思ってしまう。


「結局どうして欲しいのさ?」

「私をあだ名で呼んで欲しいとは言わない。 そもそもあだ名になるような名前でもないし。」


 もしも岬が望んでいたならば、真面目としてはどんなあだ名にしていただろうかと考える。 思い浮かんだのは「みさ」か「サッキー」が普通だろうかと思った。


「だからせめて私も名前で呼んで欲しい。」

「・・・え? 浅倉さんの名前を? 僕が?」

「今から「浅倉さん」じゃなくて、「岬」って呼んでくれなきゃ反応してあげないから。」

「しかも呼び捨て!?」


 かなり難易度の高い要求をしてくる岬に対して、真面目はどうするべきかと考えようとしたが、これに関しては自分が岬に対する羞恥心やらを捨てれば出来ることだと思い、まずは発してみる。


「岬。」


 名前だけ呼んでみたが、返事はない。 1回だけだし、なんだったら用事もないのに名前を呼んだことで気を悪くしたのだろう。


「岬。 次の授業ってなんだったっけ?」


 今度は明確な用事をぶつけてみる。 すると岬はやれやれと言った様子で真面目の方を見る。


「次は音楽だよ。」

 その答えを聞けて真面目は今度は聞いて貰えたとホッとする。 もちろんただ名前を発するだけでは満足はしてくれないかもしれないので、今後は岬のことを名前で呼ぶことになるだろう。


 そんなことを思っていたら次の授業へと行くチャイムが鳴る。


「それじゃあ行こうか「真面目君」。」

「!」


 真面目はまさか自分が名前で呼ばれるなど思ってもいなかったので、あまりの不意打ちにどう反応すればいいのか分からなかった。


「・・・それは駄目でしょ・・・」


 不意打ちに弱い真面目は、こればっかりは回避できないなと、改めて思ったのだった。

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