新学期のお仕事
真面目は目を覚ます。 夏祭りから数日を過ごして、何回かの朝を迎えれば、既に夏休みは終わり、今日から再び学校に通う毎日に逆戻りである。 しかし真面目は元々から生活リズムを崩してはいなかったため、朝早くに起きることは苦ではない。
いつも通りに起床し、いつも通りにシャワーを浴びる。 そしてリビングに入れば朝食が食べられる。
「おはよう真面目。 今日からまた学校だけど、今日はいつにも増して早いじゃないか。」
「そうよ真面目。 今日は始業式だけなんでしょ?もう少しゆっくりしたって誰も怒りはしないわよ。」
真面目の起床が早かったからか、まだ出勤前の壱与と進と顔を会わせる。
「それはそうなんだけど、生徒会の方で通達があってね。 朝に挨拶運動をするんだってさ。」
真面目もその話を聞いたのは3日前。 急な呼び出しではないだけましだと思い、今回の件を了承した。
「朝っぱらから大変ねぇ。 それじゃ、もう少し力の出るものでも出しますか。」
そう言いながら既になにかを作っていたであろう朝食にもう一品デザートが追加された。
そして用意された朝食を3人で食べて、進はすぐに鞄を手にとってリビングを出た。
「真面目も早いなら後はやっておくから行きなさい。」
「ありがとう母さん。 行ってきます。」
真面目も食べ終わった食器を置いて、リビングを出て、そのまま玄関を出た。
月が替わったとはいえ、まだ夏の厳しい暑さは健在で夏用の制服にしたところで無意味と化している。
「まだそんなに人がいないのが救い・・・なのかな?」
真面目が現在登校している時間帯に同じ様に登校している生徒や出勤途中の大人はいない。 なんだったら車の通りすらほとんど無いに等しい。
学校への登校はともかく、社会人の人達にとってもこの時というのはかなり大事な時期ではないかと思うが、休み明けというのは、どうしてもだらけてしまうのだろう。
そして真面目はそんな登校している生徒がいない州点高校へと入っていく。 普段ならそこそこ騒がしい昇降口も静まり返っており、真面目も自分の教室へと行くも、誰もいなかった。 だがこれに関しては真面目は元々から登校が早いので気にはしていない。
静かな教室で真面目は自分の荷物を置いた後に教室を出て、とある場所へと向かう。 廊下を歩いて5分。 その場所へと立ち、ドアをノックする。
「開いている。 入ってきたまえ。」
新学期であるにも関わらず、一切気の抜けてない凛々しい声が届いて、真面目はドアを開ける。
「おはようございます、会長。」
「おはよう一ノ瀬庶務。 新学期初日でもしっかりと登校できたようで感心する。」
「生徒会の仕事として呼ばれた時はまさかとは思いましたけど。」
生徒会長高柳 銘は既に準備は出来ているようで、「挨拶運動」のたすきを付けていた。
「ほれ、お前の分だ。」
「ありがとうございます花井先輩。」
自分用のたすきを花井から渡された後に、花井は金田を見る。
「ところで水上はどうした? 既に集合時間は来ているはずだが?」
「それをここで話すのは違うと思うんですけれど、一応登校しているのは見てますよ。」
そんなやり取りを見ている間に生徒会室のの扉が開かれて、水上が現れる。
「ごめんなさ~い。 時間はギリギリですよね?」
「遅い! 集合時間ギリギリに来るようでは生徒会としてたるんでいる!」
「新学期なのですから~ もっとゆったり行きましょうよ~。 最初からエンジン全開では後半でバテますよ~?」
怒る花井に対して受け流す水上。 どちらも正しいことを言っているだけに、どちらも咎めることは出来ないようだ。
「花井副会長。 怒っていてもなにも始まらないし、我々はこれから挨拶運動をするのだから、もう少し笑顔を保て。」
「・・・っ! すいません・・・」
「水上書記はもう少し凛々しくしているんだ。 生徒会がそのような態度では面子が立たない。」
「は~い。」
そんな光景を見て真面目は近くにいた金田に近より、そっと声をかけた。
「凄いですね生徒会長。 正反対の2人を同時に嗜めるなんて。」
「あぁ、違うよ。 あれは付き合いが長いから出来ることだよ。 自分や君がやっても、言うことは聞いてくれないだろうね。」
その言葉を聞いて真面目は、長年の付き合いってこう言うことなんだなと改めて目の当たりにしたのだった。
「さぁ、そろそろ校門前に行くとするぞ。 模範のためにも我々が動くのだ。」
そうして生徒会室を出て、校門前までやってくる。 そしてそれぞれ左右に分かれて、登校してくる生徒を待つことにした。
「そうだ、一つ言い忘れていたことがあったな。」
そう言って銘は皆を見るように前に出る。
「今回の挨拶運動にはもう一つの役割があり、それにも準ずるようにしてくれ。」
「もう一つの目的?」
「簡単に言えば校則検査だ。 夏休みに浮かれて夏休みの感覚のままで登校してしまう生徒も案外少なくはない。 だからこそ気を引き締め直して貰うためにも校則違反をしていないかの確認をするのだ。」
真面目は「校則違反」と聞いてすぐに思い付くのが「頭髪検査」である。 髪が長すぎると切られるのだが、それよりも問題なのは髪色である。 このような世界になって、果たして髪色に関してはどういう風にいくのか。 気になったので聞いてみることにした。
「あの、校則って具体的にどのよう部分を見るのでしょうか?」
「主は装飾品、特にピアスをしているかいないかだったりが多い。 一度は髪の色についてもやってみたが、そもそもが元々の色と違うため、流石に校則で縛らないと感じたため断念した。 このご時世でそのようなことを縛っていては話しにならないからな。」
どうやら見るべき点はそれだけらしい。 細かいことを見るわけではないようなので面倒なことではないとだけ思えば気持ちはいくぶんか楽になる。
「どうやら生徒も登校してきたようだ。 さ、挨拶をするぞ。」
そうして皆定位置について、挨拶を元気よく行う。
『おはようございます!』
その声に登校してきた生徒はビックリしたようだが、すぐに歩くのを再開させた。
「返事は返されなくとも、こうして挨拶をされたということを念頭に進めていくのだ。 さぁこの調子でやっていくぞ。」
そうして始まった挨拶運動。 時には返され、時にはそのままスルーされることもあったものの、やはり気の抜けた生徒も多かったようで、声をかけられたことで一気に目が覚めるような感覚に陥ったようだった。
「気分が変わればやる気も変わるというものだ。 少しでも分かって貰えればそれでいいのだからな。」
そう言いながら始業式が始まる20分前に撤退し、始業式にそれぞれが向かっていく事になった。
「生徒会長は今回も挨拶はあるのですか?」
「毎回というわけではないが、今回は無しだ。 この挨拶運動が私のスピーチだと思って貰えればそれでも構わないからな。」
ポジティブ思考である生徒会長を見ながら、真面目は自分の教室へと戻る。 するとすぐに岬が近くに寄ってきた。
「おはよう一ノ瀬君。 新学期早々に生徒会の仕事なんて大変だったね。」
「まあね。 でもやった価値はあったかなって思ってるよ。 始業式だけとはいえ、切り替えが出来てない人もいただろうから。」
そうして時間になったようで、真面目達は教室から体育館に向かうのだった。




