夏祭りのサーカス団
「ごめんねみんな。 待たせちゃって。」
そう平謝りする真面目に、岬が詰めよった。
「さっきの女の子は誰?」
さっきの、という言葉で、真面目はその女の子がネビュラだということを知った。
「もしかして見えてたの?」
「まあな。 珍しくお前が集合場所にいなかったんで、周りを見てみたらな、知らない女子といるのを見かけたって訳。」
「だったら声をかけてくれても良かったんじゃないの?」
「悪い悪い。 なんか間に入れなさそうな雰囲気があったからよ。」
「それどっちの方が余計なお世話か分かってる?」
とはいえそんなことを追究したりされたりしてもお互いに困るので、真相を語ることにした。
「あの人はこの商店街にある神社を探してたんだって。」
「神社、ですか?」
「僕も地図を見てその場所に行ってみたんだけどかなり小さかったんだよね。」
「お寺や神社なんてそんなものだと思うよ? その人もしかしなくても外人?」
「オランダ人だってさ。 まあ僕も男だと明かしたところでそんなに驚いては無かったけどね。」
今の日本の現状は多くの国に知れ渡っており、例外国を除けば、昔に比べてかなり寛容になってきたようだ。
「それでその人を送って、いまここに集まれたって訳。」
「相も変わらず人助けかよ。 ま、ご苦労なこって。」
それ以上の追究はなく、まずは集まった後の事を考えることにした。
「それで、この後はどうする? 結構奥の方まで来ちゃってるみたいだけど。」
「それならこの先の反対側の商店街の入り口付近で催し物をやるみたい。」
「どんな催し物かって分かったりは?」
「なにかに載ってなかったかな? パンフレットとか貰っておけば良かったな。 ・・・お? その広場で今日サーカス団が催しをやるみたいだぜ?」
「へぇ。 サーカス団名は?」
「ええっとな。 「ZoomZoo」って書いてあるぜ。」
「ZoomZoo?」
真面目はその団名に「はて」と首をかしげる。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんか聞いたことがあるなって思ってさ。」
「最近聞いたなら見に行けば分かる。 開演時間は?」
「んーっと。 お、もうすぐ始まるらしい。 行こうぜ。」
隆起が調べた辺りでそう報告されたので、真面目達はその入り口付近まで行くことにした。
「もしかしてこの人だかりってそのサーカス団を見る人達なのかな?」
「そうかもしれない。 そうじゃないかもしれない。」
「まあ行き来の人達がそれぞれいるからなぁ。 ごちゃごちゃになっちまうぜ。」
「あ、もうすぐ入り口ですよ。」
そのような感じで歩いていると、屋台の匂いに誘惑されつつも到着をした。 そこで見た光景は
『さあさあ。 今宵は団員であるゴリラのバックル君の新技である「リンゴジャグリング」をお見せしましょう!』
既にショーは始まっていたようで、盛り上りを見せている。 そしてその様子を見て真面目は思い出したようだった。
「ああ。 そう言えば僕一度見たことあったんだ。 動物達と巧みにショーをやるんだよ。」
軽い説明の間にゴリラのジャグリングが始まり、既に4つのリンゴでジャグリングをしていた。
「っはぁ、凄いなぁ。 握り潰さず、かといって食べもしない。 よく調教されとるわ。」
「ゴリラも霊長類。 でも時に人間よりも凄い頭脳を持つ。 ああ言ったことも不可能じゃないのかも。」
そんな風に見ていると、バックルが右手でキャッチしていたリンゴを瞬間的に食べた。
『あ! こらバックル! ショーの間に食べちゃダメだって言ったでしょ!? しかもどれが噛ったリンゴなのか分からなくなっちゃってるし!』
そこで笑いが起こる。 そしてジャグリングを止めておちゃらけた表情を見せるバックルに更に笑いが込み上げた。
「器用なことをするもんだなぁ。」
「あれが教えられたことだと考えたらなおのこと凄いよね。」
そう言いながらバックルのショーを見ていると、ふと視界の端に真面目にとって見慣れた人物、中崎 東吾が同じ様にサーカスの様子を見て楽しんでいた。
「ん? どうかした?」
「・・・なんでもないよ。」
さすがにこれだけ楽しんでるなかで声をかけるのも気が引けたので、真面目はそのままショーを見る事にした。
『おちゃらけバックル君の新技披露でした! それじゃあ次はワンチャンニャンチャンの玉乗りをお見せしましょう!』
そう言いながら小最小限で最大限の見せ場を見せてくれる。 その光景に拍手喝采が届けられて、一応見世物ということで、細やかながらの賃金が支払われていた。
「ああやって頑張ってる人達もいるんだな。」
「本業はもっと本格的なんだけどね。 今は他のところで公演したりしてるのかな?」
「また近くに来た時に見に来ればいい。 それよりも私はあれが気になってきている。」
そう言って岬が指差した場所には、子供達や家族連れが多く集まっていた。
「確かに。 何かあるのでしょうか?」
「行ってみようか。」
その集まりに真面目達も行ってみる。
「さあさあお立ち合い。 ここでは花火を見せてあげようじゃないか。 夏祭りの風物詩だろ?」
「え!? 花火を見せてくれるの!?」
「でもこんな狭いところじゃ花火なんてあげられないじゃん。」
「ははは。 馬鹿言っちゃいけねぇ。 大きいのもいいが、自分達でやった方が面白いし綺麗だろ?」
そういって男性が出したのは大量の花火セットだった。 よくよく見れば男性は駄菓子屋を営んでいるようで、花火などの取り扱いもしているようだ。
「なーんだ。 手持ち花火かぁ。」
「あ、ガッカリしたな? 手持ち花火だって火薬を使ってるんだ。 立派な花火だよ。 それに遠くから大きいものを見るのもいいが、近くで至近距離で見るのも悪くないだろ? そら、持った持った。」
そう言って男性は子供達に手持ち花火を渡していく。
「さ、このろうそくに少しずつ近付けて火をつけるんだ。 多いと火傷するから1人ずつだぞ。」
そうして手持ち花火による共演が始まる。 そんな光景を見ながら男性はネズミ花火に火をつけて、地面に投げる。 すると花火は勢いよく回る。 そして「パンッ」という音で破裂した。
「こう言った光景も、今じゃなかなか出来ないもんね。」
「商店街らしいやり方だよな。」
真面目と隆起はそんな光景を後ろから見ていた。 岬と叶は子供達に紛れて一緒に花火を楽しんでいた。
「夏休みも終わりだな・・・ ああー学校に行きたくねぇなぁ。」
「それは諦めようよ。 というか課題は終わってるの?」
「あ、今馬鹿にしたか? 確かにそれっぽく見えるがちゃんと終わらせてるよ。 じゃなきゃここにいねぇっての。 ・・・言ってて悲しいぜ。」
「ごめんごめん。 僕の偏見だったよ。」
真面目は平謝りしながら、目の前の光景を再び見る。
「まあ悪いことばかりじゃないでしょ。 ほら文化祭とかが来るからさ。」
「それはそうだろうがなぁ。 そこまでに色々とあるからよぉ。」
「不満?」
「勉強はあんまり得意じゃないからな。 そのときは頼んだぜ一ノ瀬。」
「頼りっぱなしは止めてよ?」
「2人もやろうよ。」
そう言って岬から手持ち花火を渡されて、真面目達も最後の夏を楽しんだのだった。
長かった夏休み編も今回で終わりです。
次回から少し投稿ペースが遅れるかもしれません。




