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商店街の夏祭り

 行き先が商店街と言うことで、集合も商店街の中の広場のような場所に集合することとなっていた。


 流石に時間帯的に早く着きすぎたかなと思った真面目ではあったものの、周りを見てみればチラホラと、浴衣や甚平を着ている人達もいる。 単純に商店街に来ただけではないというのが伺える人達がいたのは、真面目にとって、ホッとする場面でもあったりする。


 考えてもみてほしい。 商店街近くでただ一人浴衣姿で誰かを待っている姿を。 イベントやら和が好きで着ていることでないなら、その他の理由はなにになるだろうかと言わんばかりに浮くのではないだろうか?


「だからこそ今日は着てみたって言うのもあるんだけどね。」


 独り言を喋っていると、真面目に向かって手を振る人物がいることを確認した。


「お待たせしました。 時間がかかってしまいましたので。」

「大丈夫だよ豊富さん。 まだあの二人は来てないから。」


 最初に来た叶にそう告げる真面目。 叶の今の服装を見てみると、ラフな格好をしていて、お祭りに行くにしても、商店街に行くにしてもどちらとも取れる。 今まで奇抜なファッションを見てきたわけではないものの、どこか安心感は覚える。


「そういえば豊富さんは課題の方は大丈夫そう?」

「はい。 始業式を迎えても大丈夫です。」

「当日忘れたした、なんてことがないようにね。」

「き、気を付けます。」


 何故か一度言い淀んだ辺り、実は前科持ちだった?と困ったように笑っている少年のような見た目の叶に少しだけ思うことが出来た真面目であった。


「良かった。 見つかった。」


 その声に顔を上げると、そこには叶また違う意味で少年らしい格好をした岬がいた。


 黒のパーカーのフードを深く被って、黒のスラックス姿で登場した岬は遠目から見ればこれからなにかをやらかすのではないかという不安を駆り立てられる風貌をしていた。


「暑く・・・ないの?」

「私はこれが一番落ち着くの。」

「・・・せめてフードは取ろうよ・・・」


 怪しさ満点の格好の岬と歩くのは流石の2人でも無理があった。 フードを脱いだ岬だったが、それでも暑そうな格好なのには変わりなかった。


「いつもながらに思ってたんだけど・・・浅倉さん、本当に寒がり?」

「寒がりだよ。 この上なく。」

「まだ熱帯夜なんだけど?」

「私の体は弱いから。」


 それで通じるほどの格好ではないのは、見ている真面目が一番思っていることだ。 流石に厚着のし過ぎでフラフラにならないように様子を見ておこうと真面目は思った。


「おいーっす。 待たせたな。」


 最後に現れた隆起は、こちらもこちらで動くための最小限度の衣装に留めていた。 そんな3人を見て、真面目はガックシと項垂れる。


「これじゃあ本当に僕だけが浮かれてるみたいじゃん・・・」

「メッセージのやり取りでは実際にそうだった。 頼んだ訳じゃないのに着てきたのは、その現れでしょ?」

「・・・だからなんで浅倉さんはそう鋭いのさ・・・」

「まあまあいいじゃねぇかよ。 むさ苦しいよりも華はあった方が見栄えがいいってな。」

「それだったら隆起君も着てくれば良かったのに。」

「残念だが俺にそんな浴衣は持ち合わせていないんでな。 それにプロポーションじゃお前に負ける。 そう言う役割だと思って諦めな。」

「・・・どうしよう、凄く釈然としない・・・」

「と、とにかく行きましょうか! お祭り会場はすぐそこですし。」


 険悪な空気になることを察知したのか、叶が仕切ることでそのトラブルを回避することに成功した。


 真面目達が商店街の入り口にまで歩いていくと、その入り口から既に祭りは始まっており、屋台が左右に展開されていた。


「やっぱり夏祭りって言ったら、これが醍醐味だよな!」

「目移りしそうな位屋台が並んでる。 そしてこう言った場所だから屋台の料理が美味しく感じる。」

「あれって脳の中のアドレナリンが味覚中枢に働くからだってなにかで言ってた気がする。」

「本当か? それ。」

「まずはなにか食べる?」


 そう言いながら商店街の奥へと進んでいく。 時折屋台から購入した食べ物を食べながら、商店街の代わり映えを見ている。


「あ、見て。 あのお店ってお茶の葉を売ってる店だよね。」

「ほんとだ。 紅茶もあって、なんか普段売ってないものが売られてるな?」

「抹茶プリンとダージリンプリンだって。 なかなかお茶とかを見て貰えないから、新しい方向から商品を見て貰えるようにしたみたいだね。」

「あ、反対はコーヒーゼリー売ってるぜ。 お互い譲らない形か?」

「いや、あれは多分考えていることが一緒だし、食べ比べしてくれるならって言う相乗効果狙いかもね。」

「屋台でも差別化はしてるけど、商品自体は一緒だから。」


 結局は買い手の気持ち次第、みたいな部分も考えてしまうが、それを考え始めてしまえばおそらくきりがなくなってしまうので、この辺りで思考を戻して、商店街の祭りについての事を話すことにした。


「それにしても商店街のアーケード丸々会場にするなんてね。 やっぱり復興が目的とか?」

「後は無くすのは勿体ないだけとか。」

「どっちにしたって、こんだけ大掛かりにやってるからな。 残したいんだろ。 みんなの記憶に。」


 そんな考察混じりの会話を繰り返していると、次第に周りに人が多くなってきた。 家族連れが商店街をひしめいており、右にも左にも押され続ける。


「うおぉ、また人が増えてきたな。 もみくちゃにされるのも時間の問題かもな。」

「浅倉さん。 豊富さん。 はぐれないようにね!」


 そう言って真面目と隆起は2人になるべく離れないように寄り添うように歩いていく。


 しかしその思いも周りには関係がないので、あちらこちらから押されていく。


 そして少しだけ波が収まって真面目は周りを見回す。 右へ左へ見てみると、そこに自分以外誰もいないことに気が付いた。


「え? そんな器用なことがある?」


 まさか自分以外がはぐれるとは思っても見なかった真面目。 確かに一番背が高い真面目ですらこれだけもみくちゃにされたので、他の3人は踏ん張りも効かずに流されるのは仕方のない事だろう。 事のはずなのだが、ここまで綺麗に分断されるとはと真面目は思っていた。


 真面目は一旦波から外れ、商店街の路地裏に入り、岬達と連絡を取る。


『もしもし?』

「もしもし浅倉さん? そっちは大丈夫だった?」

『あんまり大丈夫じゃないかな。 みんなバラバラになっちゃったみたいだし。 どうしようか?』

「ならどこかに集まれるように場所を決めておこう。 この先に来た時とは別の広場があるはずだから、そこで一度集まろう。 隆起君にはこっちから連絡を入れるから、そっちは豊富さんに。」

『分かった。 気を付けて。』


 それはこっちの台詞だよねと思いながらも電話が切られたので隆起に電話をかける。


『よう、大丈夫だったか?』

「とりあえずはね。 この先の広場に一度集まろうって話になったから、そこに落ち合おう。」

『了解だ。 とはいえそれだと俺が一番遠いかもな。 それじゃあまた後でな。』


 話を聞く限りでは理由は遠くにいるらしい。 とにかく真面目も大通りをなるべく避けながら集合場所に行くことを決めたのだった。

祭りの混み具合は大人でも油断してるとすぐに持っていかれます

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