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夏祭り当日のお昼

 商店街の夏祭りは2日間行われ、1日目は夜のみの開催になるので、その前に真面目達は色々と準備やらなにやらを済ませる方針で、その時の話し合いには決着が付いた。


 2日間は行く予定も無いのと、一応夏休みも少なくなってきているのにまだ課題が終わっていないと言う人がいたので、あんまり浮かれてはいられない様子だった。 大体誰かは予想が付いているだけに何も言わなかったが。


 そんな感じで真面目達は一緒に行くメンバーを振り分けた。 振り分けたと言うよりもみんなの予定を聞いて、全員で一緒に行くことは出来ないと思ったのだ。


 そんなわけで1日目に真面目は行くと決めて、メンバーも決めていた。 一緒に行くのは、岬、隆起、叶だった。


 ここに行けないと言ったメンバーのそれぞれの主張としては


 得流「話し合いでも行ったけど、あたいは家族と行くから、そっちを優先するの。」


 和奏「もう少しだけ、課題が、残っているので、1日目には、行けません。 お誘い、されたこと、は、嬉しかった、です。」


 刃真里「その2日間は両親と別のお祭りに行くから、地元にいないんだ。」


 下「ぼくにとって外せないイベントがあるから、一緒に行けないんだ。 ごめんね?」


 そんな感じだった。 予定やらなにやらで一緒に回ることは叶わなかったらしい。 真面目としても大人数よりはそちらの方が気は楽ではあるので、人数があまり多くなくて助かっていた。


 そして約束をしてからあっという間に日にちは過ぎていき、日付は商店街の夏祭りのお昼に差し掛かる。


 その間真面目は借りてきた料理本を両親と試作してみたり、ビーハンメンバーを募って難解クエストに行ってみたりと、なにかと充実した日々を過ごして、そして今は浴衣を見て悩んでいた。


「浴衣ねぇ・・・」


 真面目の手に持って広げている浴衣は、壱与が水着と共に購入してくれた一着で、柳が背中に刺繍として付けられている、紫をコントラストとしたデザインになっている。


 手に持って広げてみると、意外と長い。 と言うのも真面目の身体にある2つの水蜜桃をはだけさせない為には、本来着るサイズよりも1つ上のサイズでなければならないので、大きく見えるのは仕方の無いことである。


 まだ祭りの時間には早すぎるので着替えるのは後にはなるが、着崩れを起こすのも汚すのも出来ないと考えてしまうと、やはり戸惑いが生まれてしまう。


 だがせっかく買って貰っておいて、一度も着ないのも気が引ける。 そんなわけで、とりあえずは浴衣を崩さないようにベッドに置いて、一度リビングに向かうことにした。


「どうかした真面目? 喉でも乾いた?」


 リビングに入れば早めのティーブレイクを楽しんでいる壱与がそこにいた。 真面目達は夏休みであるものの今は平日である。 では何故壱与がティーブレイクを行えているのかと言えば、今日は壱与の休暇日だからである。 ただ壱与は普通に出勤する予定だったのだが、お店で働く人達に「休みもなしに働かれるとこちらの気分が落ち着かない」と言われたらしく、渋々の中で今日を休みにしたという事らしい。


「んー・・・そんなところかな?」


 本当は何も考えずに降りてきたのだが、話が噛み合わなくなりそうなので、このまま流すことにした。


「アイスティー飲む?」

「貰おうかな。 種類は?」

「ローズマリーよ。」


 キッチンに紅茶を入れに行った壱与を見ながら、真面目はテレビを付ける。 既にお昼になっているため、ワイドショー的なものしかやっていない。 そしてそんなワイドショーも夜の祭りに向けて準備している現場へと赴くばかりになっていた。


「はぁ・・・」

「なによため息なんかついちゃって。 お祭りがどうかしたの?」

「んー。 今日の夜にお祭りに行く予定を組んだのまでは良かったんだけど。」

「あら、行ってくればいいじゃない。」

「そうじゃなくって。 ほら、母さんが買った浴衣があるじゃんか。 あれを着ていきたいなって思ったんだけど、着付けのしかたなんて知らないし、なによりああ言うのって1人で着替えられないじゃない。」

「素直じゃないわね。 あんたも。」


 その事については放っておいて欲しかったが、なにかを言う理由もないのでそのままテレビを見ている。 そこにアイスティーとクッキーを用意した壱与が真面目のいる席の前に座る。


「時間になったら言いなさいな。 手助けをしてあげるわよ。」

「まだなにも頼んでないけど?」

「でも着付け出来ないんでしょ? 大人しく頼られなさい。」


 ぐうの音も出ない正論をぶつけられた真面目は、クッキーに手を伸ばして口に運ぶ。 紅茶に合わせたためかクッキーはかなり甘めに作られていた。 真面目の好みだともっと甘さは控え目がいいのだが、紅茶に砂糖を入れない分の砂糖を食べていると考えればおかしくはなかった。 そもそもパティシエである壱与がそんなことで分量を間違えるわけもない。


 真面目もティーブレイクを終えたところで、再び浴衣を手に取るのだが、結局自分で着ることなど叶うわけもなく、真面目は壱与に手を借りるのだった。


「まさか自分の子供に浴衣を着せられる日が来るなんてねぇ。 良くても孫が限界だと思ってたわよ。」

「どれだけ長生きするつもりさ。 個人的には気にはしないけどさ。 良かったんじゃない? 夢が叶ってさ。」

「そっちもそっちで楽しんできなよ? あんたお祭りだっていうのに、あんまりはしゃぐ子じゃないからね。」

「あれ? そうだったっけ?」

「近くのお祭りに連れていっても、楽しそうには見えなかったからねぇ。 笑う感情が無いのかと心配したものよ。」

「・・・そこまで?」


 流石にそこまで来ると心外にも近いものを感じだが、要は表情に出さなかっただけなのだと真面目は思った。


「さ、出来たわよ。」


 そうして姿鏡を見た真面目は、はぁ、と吐息をはいた。


 そこにいたのは確かに真面目なのだが、どこか幻想的に見えて、簡単に言えば自分でないかのようだった。


「あんた、自分に惚れるナルシストにはならないでよ?」

「ならないよ。 ただちょっと印象が変わっただけじゃない。」


 そうは言いつつも、自分の中のポテンシャルに恐怖を覚え始めているのもまた事実。 成人になり元の姿に戻った時の反動がかなりえげつなくなるかもしれない。


「ん? 真面目、携帯鳴ってるわよ。」


 そう壱与に指摘されて真面目はスマホを取りに行く。 スマホを開けば、そろそろ集合時間になるだろうと考えてセットしたタイマーの音だった。


「それじゃあ僕は行くよ。」

「待ちなさい真面目。」


 そう言って自分の部屋を出て階段を降りたところで真面目は壱与に止められる。 壱与は自室のある方へと行くと、そのまま数分出てこなかったが、ようやく出てきた時にはなにかを手に持っていた。


「雰囲気を出すために下駄も履いていきなさいな。 緒はしっかりと固定されてるから、簡単には外れないし、足袋を履いて更に雰囲気をあげるのよ。」

「僕は都会に稼ぎに行く娘かなにか?」


 そう言いつつもちゃんと準備したものを履いていく真面目。 そしてまだまだ暑い夏の外へと出るのだった。

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