夏祭りの準備が
夏休みの日にちも指折りで出来るくらいに差し掛かり、夏休みの宿題をこれから猛烈にやる学生も多くいることだろう。
真面目は既に学校からの課題は終えているので、その日は借りていた書物を返しに図書館へと赴いていた。
「次はどうしようかな。」
前におすすめされたエッセイ本も興味をそそられるものがあった。 真面目はライトノベル等を読むことはあっても、エッセイ本を読むのは初めてだったので、自由であり文章としては拙い部分のあっても、気にしないように読めば面白いと感じたのだ。
とはいえ他にも真面目なりに興味を惹かれる本があったりもするのが図書館の強みだろう。 真面目は今回最初に訪れたのは料理本である。
「家庭の味を真似したいとかそう言う意味じゃないけど、やっぱりバリエーションは増やしておかないとね。 凝った料理なんてうちは滅多に作らないし、せめて味付けくらいは変えてみないと。」
真面目は両親が作ってくれる料理に不満はない。 むしろ手抜きであろうと作って貰っておいて文句を垂れるのはおかしいと思っているほどだ。 冷凍食品だろうと関係はない。 そう言うものだとものさしを決めてしまえば案外やっていけるものだ。
「和洋中、どれを中心に作ってみようかな? 食材がそろそろ無くなりそうだからまた買い物に付き合わされるのは目に見えてるし。 ここでちょっと工夫をしてみたいんだよね。」
そう言いながらいくつかの本を手に取る真面目は、その場で適当にパラパラとめくっていく。 洋食本にはグラタン、オムライス、フィッシュポテト等が載っていた。 どれも一手間を加えて仕上げているので、普通のおかずよりもランクは上がる。
「やっぱり洋食にはタルタルソースなんだろうかな。 というかホワイトソースの方が多い?」
真面目の見ている洋食本には、結構な料理が白かった。 彩りとしては綺麗なのだろうが、1色となると見栄えが少し乏しくなる。 悪いことではないがもう少し色を加えても文句は言われないと思った。
「ホワイトソースって牛乳と小麦粉と、あと何を入れれば出来るんだっけな? チーズだったっけ? まあいいや。 次はっと。」
今度は中華本を読んで見ることにした真面目。 エビチリに青椒肉絲、回鍋肉と、まさしく王道な中華が取り上げられていた。 中には「お家で作れる小籠包」何て言うのも載ってはいたが。
「中華料理って、ちょっと油っぽいイメージがあったりするんだよねぇ。 そりゃあんな真ん丸な中華鍋を振るってなったら、火の通りはよくなるんだろうけど、うちのフライパンだとちょっと難しいかな。」
真面目は唸るものの、不可能ではないと言う点では実用的かもとは考えていた。
中華も一通り見たところで最後に和食を見てみる。 こちらはうどんや蕎麦などの麺を中心とした料理が多く取り上げられているが、魚の甘露煮や生姜焼きなど、日本らしいラインナップが揃っていた。 特に煮物はそう考えている。
「まあこっちは時間があれば、だよね。 煮物とかは別に年中食べられるし。」
そう言いながら結局3冊とも持って、別の場所に移動することにした。
やってきたのは前回と同じようにエッセイ本が立ち並んでいる棚。 そこで今回の真面目が手に取ったのは「戦国時代のお城」について書かれていたエッセイ本だった。
普通のお城の本でも良かったのだが、他人が思い描くお城のあり方を読んだ方が、真面目にとってはちゃんと頭の中に残る気がしたのだ。
そんな4冊を手にとって貸し出しカウンターへと持っていく。 するとそこには樋之口がパソコンに向かってなにかをタイピングしている様子があった。 だが真面目の姿を捉えると、一度なにかの入力を止めてカウンターに入ったのだった。
「本お預かりいたします。」
「いや、良かったのですか? なにか仕事をしていたように見えましたが?」
「お客さんを待たせる方が悪いから。」
そう言うことならと真面目は本を樋之口に渡す。
「・・・へぇ、料理するんだ。 女子になったから余計に魅せてくれるんじゃないかな。」
「元々から料理は出来る方なんですよ。 ちなみに母はパティシエです。」
「料理人が親なら確かに腕がつくよね。」
ちょっとした会話を繰り広げた後に本を借りて、図書館で少しだけ休憩してから夏の暑さに耐えながら家へと帰る真面目。
「まだ夏だよなぁ・・・残暑はどのくらいから始まるかな。」
そんな先の事を考えながら帰路を辿っていると、商店街側煮物は行くにつれて、なにかの屋台が並べられているのが見えた。
「お祭りかぁ・・・」
おそらくは真面目が考えている祭りとは違うかもしれないが、この近くで祭りと言えばこの辺りなのだろうなと思っていた。
「そういえば父さんや母さんと行った夏祭りって、近くの小さい祭りしか知らないんじゃないかな? 商店街のお祭りは行ったこと無いよね?」
自分の記憶を辿ってみれば、この夏祭りは行ったことは無かったのではないかと思った。
どんな屋台が出るのが気になって少しだけ見てみることにした。
最初に見えたのはプロパンガスをいくつか運んでいる様子だった。 小さいものをいくつかではあったが、それでも炎を出すのは十分だろう。
「ああやって僕たちも売っていたんだよねぇ。 一昨日位まで。」
真面目は海の家での事を思い出して大変さを思い出していた。 あの時の真面目はほとんど鉄板の前に立っていて、そこで調理をしていたので熱さも知っている。
そして商店街の周りも色々と飾りつけされはじめて、閑散としていた雰囲気だったのが、一気に華やかになっていた。
しかしそれでも夜になれば装飾がライトアップされて、さらにきらびやかになることだろう。
「他にもお店が出てくるんだろうなぁ。 あ、他のお祭りみたいに神輿とかやったりするのかな?」
少し真面目の中でのワクワク感が出てきたのはいいのだが、そのときにふと我に返る。 このお祭りに興味はあるものの、1人で行っても逆に悲しくなるだけではないのか?と。
「・・・ちょっとはしゃぎすぎてるかも。」
そんなことを考えていたらお腹の虫が鳴り始めたので、食欲に負ける前に家に帰ることにしたのだった。
「とはいえそれ以上にやることがある訳じゃないんだよね。」
家に帰ってきてから壱与がお昼を準備している間も、特になにかをするわけでもないので、とりあえずお昼が出来るまでくったりとしていた。
「あのお祭り気になる・・・」
自分からそういったものに興味を持ったことが無かっただけに、こればかりは行ってみたくなってきている真面目。 どうするかと考えてみて、スマホを手に取っていた。
『商店街の祭りって、誰か詳細知っている?』
そうメッセージを送り、しばらく待ってみる。 すると
『あの週末前にやる祭りの事だな。 なにか伝統がある訳じゃないが、歴史は長いらしいぜ?』
『あたいたちの家族は毎年行ってるよ。 夏の最後の風物詩だし。』
『ここの辺りでは大きい夏祭りらしいですよ。』
『なんでも今年はとあるサーカス団が来るらしいね。』
みんなの情報に真面目はふんふんと感心を持っていた。
『そんな話を一ノ瀬君がするなんて・・・もしかして行きたいの?』
そんな中で岬からまさかの指摘に、心臓が跳ねる。 まさしく喉元に針を突き付けられたような感覚に似ていた。
『・・・随分と鋭いところを付いてくるね、浅倉さん。』
そう返すと
『なんとなくね。 まだ時間はあるから、せっかくだから行ける人とかの相談をしよう。』
そうしてお昼が出来上がっていることを忘れて、真面目達は話し合ったのだった。




