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セルナ・アーセナルの動画

 真面目は基本的に流行などに乗ったりはしない。 自分の趣味が周りと一緒になる、ということが滅多に無く、興味の示し方が一般的な人よりも違うからだ。


 とはいえ真面目はこの事については問題じゃない、むしろ個性を見せるにはいいことだと踏まえているので、焦燥感なんてものは微塵も感じない。 周りのチヤホヤは自分には関係ないのだから、流行りがどうこうという話にはなり得ない。


 そんな真面目でもある動画を見ようと思い、自分のスマホから動画サイトへととんでいく。


「ええっと、「セルナ」って検索して出てくるのかな?」


 こういった予測変換によるサイトへの遷移は、しっかりとした検索内容で無ければ、全く関係の無い場所にとぶこともしばしば存在する。 真面目の検索方法も人名であるだけに似たような名前で投稿しているチャンネルはわんさかある。 都合良く見つけられるとも限らない。


「海外の配信者だからなぁ。 配信自体が日本主体じゃないだろうし・・・翻訳サイトとかでそれっぽい単語を検索かけてみるとか?」


 どうかければいいのか分からないままスクロールしていると、1人の少女ご部屋を写している動画のサムネイルを見つける。 そしてその少女はセルナに瓜二つだった。


「あ、これかな? 「A,Cチャンネル」・・・あ、「セルナ・アーセナル」だからか。」


 そうして真面目はその動画を見てみる。 投稿時期は2年前。 彼女が本格的に活動を始める前の動画のようだ。


 動画を再生してみると、そこにはカメラに向かってまずは顔を見せているセルナがいた。 顔出し動画の場合は最初は顔を隠すものなのかもしれないが、最初ということもあってか、その辺りは気にしていない様子。


 動画が始まるが、英語ではない言葉でなにかを喋っている、としか今の真面目には認識できなかった。


「初の動画だから何をしていいのか分からないのはそうなんだろうなぁ。」


 そのまま動画を一本見終えた真面目の率直な感想としては、彼女は根っからの努力家だということだろうという事だった。 彼女自身も日本に来たいが為に一生懸命日本語の勉強をしていたとも言っていた。


「あそこまでの位に付くのには相当頑張ったって僕は言っちゃうんだろうなぁ。」


 心にもないことを言いながら真面目は次の動画を見る。


 次の動画は彼女初の歌配信をするようだ。 歌は全く知らない海外の、というよりも彼女の自国の歌だろう。 日本語以外の言葉を心得ていない為、全くといっていいほど歌詞の内容が分からない。 それでも


「歌声は綺麗だ。 元々こっち方面の人だったのかも。」


 そう、あれだけステージで派手に歌っていたセルナだったが、声はかなり響くようなハスキーな声だった。


 彼女には歌の才能があったのだと、この動画を通じて伝わって来るようだった。


「うーん。 これだけで彼女が本格的に活動を出来るとは思えないし・・・視聴者の中でたまたまそう言う人がいた・・・にしては完全に奇跡の力かも。」


 彼女の実力を否定するかのような言い草になり、真面目は次の動画を見てみることにした。


 次の動画はセルナのチャンネルの中で一番盛り上がった、いわゆる「バズった」動画を再生してみる。


 そこにあったのは紙とペンと何かの教科書のようなもの。 何をするのかと思えば勉強の様子を写し出していた。


 彼女が勉強熱心だというアピールなのだろう。 最初の方はもちろん動画を編集するなんて事はしないで、彼女のありのままを見せているのだろう。

 だがこれだけでこの動画の人気に火が着くとは思えない。 そう考えていた真面目であったが


『こんに・・・ちは・・・』


 発音は日本人独特ではないものの、やはり喋ることは大事なようで、こちらに声をかけるように発したのだ。 それからも片言な日本語を口に出して読んだりとしている様子が写し出される。 その場面場面でコメントが寄せられているので、勉強熱心な彼女に心を打たれたのだろう。少なくともそう言う感じのコメントばかりだった。


 そして年月が経って、動画の投稿が1年が経とうとしていたその動画で重大発表をすると意気込んでいた。


 相も変わらず何を喋っているのか分からないが、そのセルナの表情は信じられないことが起きたかのように、喜びと悲しみを表していた。


 そしてそこから半年間は生放送で色々とやっていたようだった。 ゲームをしたり、歌ったり、悩みを聞いたり。


 特に歌の方では日本語を話すことが出来るようになってからは、日本語の曲を歌っていた。 ステージ歌うほどのクオリティーは無かったものの、そこはやはり彼女の勉強の賜物と言えるだろう。


 そしていくつか生放送で配信をしている時にら今度は日本公演を行うことを決定して、あの場所を用意して貰ったと言った趣旨の内容を話していた。


「それでこの動画が最新な訳か。」


 その動画のサムネイルは、これから歌うぞと言う意気込みを表しにしたセルナの表情だったが、あの時間帯でこのような写真が撮れるのは早朝しかないと真面目は思っていた。


 そして当然流れるのはあの時の映像。 画質は少々悪い気もするが、あの場で撮れたのならばこのようなものだろうと真面目は納得をした。


 あの時の熱狂っぷりは最初の動画に比べたら遥かに大きくなっていた。 それだけ彼女の存在が大きくなったこともあるのだろうが、何よりも彼女の事を応援してくれる人達がこれだけ集まったのもまた事実だし、今の真面目のようにこれから知っていく人も多くなるだろう。 真面目はそう確信して


「・・・なんかセルナの親みたいなことを考えてる気がする。」


 なんでそんなことを思ったのか分からないが、彼女の応援を真面目もしたくなった。 とはいえそこまで具体的な事は行わずに、彼女の動画の更新を待つだけ。 視聴者の1人としてひっそりと見守るような形になるだろう。


 そんなことを思っていたら、セルナがなにかの生放送で配信を開始したようだ。 既に20人程集まっていたので、真面目もその生放送を見に行く。

 動画の配信が始まると挨拶から入ったのだが、言語の分からない台詞でペラペラと喋り始めるセルナ。 おそらく母国での配信を中心に考えているため、自分の国の言葉を使っているのだろう。


「僕みたいに日本人が聞いてくれるのには訳がある筈なんだけど・・・」

 そんなことを思っていると

『そして日本のみなさんもこんにちは。 私の初めての野外ライブ、聞きに来てくれた人もいたかな?』


 今度は日本語で話し始めたセルナ。 どうやら日本人が見に来てくれていることも考慮してくれたらしい。


『日本にはそんなに多く滞在は出来なかったけど、とても充実したライブだったと私は思っています。 また是非とも日本には行ってみたいです。 聞き逃してしまった人も、私のスタッフさんが撮影した動画を出しているので、そちらを見に来てください。』


 そしてまた母国語へと戻した。


「わざわざ日本語で話すなんてね。 彼女の努力が身に染みて来るようだよ。」


 そうして真面目は彼女のチャンネルを登録してから、スマホの電源を落としたのだった。

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