ラストスパートに向けて
3日間のアルバイトを終えた翌日の朝。 真面目は自分の机に置いてあるバイト代を確認して、夢でなかったことを改めて確認する。 そんなことをする必要は本来無いが、なんだか去年までの自分ではあり得ないことをしているという自覚を持ってしまっていたから、どこまでが現実か分からなくなっていたのだ。
「来週末で終わりかぁ・・・」
真面目は自分のスマホを見ながらそんなことを呟いた。
真面目の夏休みはかなりてんてこ舞だったと言える。
夏休み初旬で水泳部の最初で最後の大会出場。
得流の家族と行ったプール付きの宿泊旅。
2日間による親戚回りを含めたお墓参り。
そして昨日までの成り行きで手伝いをした海の家でのアルバイト。
あまりにも濃密な夏休みで、真面目にとっての1番の夏休みであることは間違いないだろう。
「身体を休めるのもいいけれど・・・」
そう言いながらも寝そべっていたベッドから真面目は身体を起こす。
「やっぱりいつも通りに動いちゃうよね。」
そう言って自室を出て階段を降りていくのだった。
「おはよう真面目。 もうバイトは無いんでしょ?」
朝風呂上がりの真面目がリビングに入れば、壱与は朝食の準備をしていた。 ちなみに進は既に出勤済みである。
「だからこの時間まで起きなかったんでしょ。 確かに朝早かったのは言ってなかったけれどさ。」
「そうね。 いつも通りに戻ったのならそれでもいいじゃない。 お金も貰えてるんだし。 残りの期間くらいゆっくりしなさい。 はい、朝御飯は置いておくわよ。」
そう言って目の前の洋風な朝御飯を前にして、真面目は「いただきます」と手を合わせる。 それと同時に壱与がリビングを出る。 どうやら壱与も出勤時間になったようで、玄関から壱与が出ていく音を聞きつつ、流し込むように朝食を食べたのだった。
「来週末で最後になるんだし、ここで課題は全部やっつけちゃうかな。」
真面目は椅子に座りながら身体を思い切り伸ばしてから目の前のA4の画用紙2枚に面と向かって始める。
真面目が考えたテーマは「通常の場所と特別な場所での商品の売れ行きの違い」についてだ。 これは前々から決めていたことだったし、その辺りの話も大将と付けてあるため、コピーされたデータはある。 もっとも本店の方の帳簿は女将さんの手癖で書いている部分があるので、まずは文字の解読から始める真面目。
「海の家の時は3日間だったけど、普通のお店の時は・・・3つの時期で見るのがいいのかな。」
真面目は帳簿の今月までの売り上げを書き写していく。 殴り書きのような一筆書きのような状態なので、真面目も四苦八苦する。
特に数字の場所では、桁の数が分かりにくく、目を良く凝らさなければ0の数が見えない部分があったりした。 さらにコピーなので画質も荒いとくれば、一筋縄ではいかない。
それでもなんとか解読してルーズリーフに書き写した真面目は、それらをグラフにしたり、自分の考察などを交えながら、文面の場所を仕上げていく。 タイトルやフォント等は後からいくらでも付け加えることが出来るので、手を加える部分は後回しにするのだった。
「これ今日中に終わらせること出きるかな?」
真面目自身はあまり美術が得意ではない。 特に実習では他人に見せれるのはギリギリと言えるだろう。 しかし絵などがなければ殺風景なものへとなってしまう。 自由研究なのにそれもどうかと思う真面目は、絵ではなく写真辺りで誤魔化す事にした。
「手作り感は出した方がいいから、ペラペラな絵も書くけどね。」
下の方に決して上手くはない海の様子を書いていく。
「・・・ふはぁ・・・。 ようやく書けた・・・」
脱力した真面目の机には、真面目が全力で書いた自由研究の結果が書かれていた。
時間はお昼過ぎをしたのだが、真面目は休憩を挟まずに必死になって書いたのだ。
「でもこれで完全に学校側から渡された課題は終わり!」
真面目は今喜びに満ち溢れていた。 ノートなどの類いはともかく、読書感想文と今のポスターについてはかなり手強かったと言える。 強いて言えば自由研究の方は終わった時にどうなるのかを考えなければならなかったので、なおのこと時間がかかったのだ。 解放感はとんでもないことになるだろう。
「・・・とはいえ残りの期間は何をしよう・・・」
それと同時に目的がなくなりやる気が削がれるのも例外ではないのである。 真面目は目標がある方が燃えやすい人間である。 故に終わってしまえば意気消沈気味にもなる。
「仕方ない。 まずはビーハンのクエストでも消化しに行こうかな。 ここ最近はまともに触れてなかったような記憶があるし。」
そう言って真面目は携帯ゲーム機を手に持ちビーハンを始める真面目。 お昼は過ぎているのだが、何故だか空腹が訪れない。 家で動いていないからなのか、それともそれ以上に集中したせいで空腹を送る筈の脳の信号が麻痺しているのか。
とにかく今の真面目は「お腹がすいたら食べよう」精神になっているので時間に関しては気にならなくなっていた。
「とりあえず何から行こうかな。 中途半端にクエストが残っているから、一旦は出ているクエストの全部クリアを目標として、武器や防具も必要だし・・・アイテムももう少し集めておきたいよね。 となると採取クエストにも行かないと。」
そう呟きながらゲームを進めようとした時、真面目は大あくびをした。 誰もみていないので気にはならなかったが、他人がみたら醜い顔になっていたことだろう。
「ちょっとハリキリ過ぎたかな? でも終わらせる事に越したことは無かったしなぁ。」
独り言を言っていると、お腹も鳴った。 どうやら今ので何かの集中が途切れたようで、お腹が空いているのを自覚したようだ。
「・・・欲求には流石に逆らわない方がいいかな。」
そう言いながら真面目はベッドから降りて、なにかお昼になる簡単な物はないかとリビングに降りていく。
そしてリビングからキッチンに入って辺りを見渡して、冷蔵庫の中身を確認する。 真面目が3日間お昼を食べなかったせいか、買い物はほとんど行っていない状態だったようで、あまり多くの食材は残っていなかった。
冷蔵庫の扉を閉めた後に再び辺りを見渡すと、ちょうど菓子パンがあるのが見えて、それを1つ持っていくことにした。
「なにかを作る気は起きなかったからね。 これで十分かな。」
そう言って真面目は菓子パンを自分の部屋で食べて、携帯ゲーム機を取ろうとした時に
「・・・あれ?」
視界が歪み、そのまま眠りについてしまうのだった。
目が覚めたのはその1時間後。 まさか眠気にすら負けるとはと思った真面目だったが、身体を動かしすぎた影響か、ほとんど休めていないことを思い出して、そのために動いていたのだと分かった。
「それなら仕方無いや。 今日はもうゆっくりと時間を過ごそう。」
そう決めた真面目は本を読んだり、音楽を聞いたりするなどして、ほとんど身体を動かさない休み方を選んだ。
「こう言うのも夏休みの醍醐味、かな。」
今までの疲れを払拭させるために全力で脱力をして、本日という1日を終わらせるのだった。




