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海の家「曙」その3

 お昼のピークを終えても私のお店の前には列が出来ている。 カウンターで手渡しを行っているアルバイトには休憩を与えられずにいることには、申し訳ないと思っていても、昼を過ぎれば客がまばらになってくるので、彼らにはもう少し頑張って貰わなければ困るのだ。


 とにかくこのお昼は荒稼ぎをしてでも時間を目一杯まで働かせるのだ。 その後ならいくらでも休ませてやれる。


 それにこの後も店は開いているのだ。 お客をなるべく途切れさせないようにしなければならないのだ。 これくらいはして貰わなければ。


「海水浴など朝か夕方前に切り上げるのがこの辺りでは通例だからな。 それが分からなければ、この場所では生き残れんさ。 もっともこの店がお客を入れているうちは稼ぎなどほとんどないだろうがな。」


 そう考えると笑いを堪える様に声が出てしまう。 この数年の地位をそう簡単に揺るがされて堪るものか。 この場所は私の店の独壇場に近いのだからな。


「さて、次の手の準備をするか。」


 そう言って私は部屋の奥へと引っ込んだのだった。


 ―――――――――――――――――――


「大将、ごちそうさまでした。」


 お客の波も去ったように、お客さんの入れ替えも緩やかになってきた。 粉ものや麺類の売り上げが落ち着いてきた。


「この辺りで休憩でも挟むか。」

「それなら大将休んでください。 ずっと鉄板の前にいて、熱を逃がしきれていないでしょ? というかそのままだと倒れてしまいますよ。」


 真面目はすぐにそう大将に言う。 大将は汗をかきながらもずっとお好み焼きや鉄板焼きを必死に作っていたのだ。 脱水状態寸前なのは明らかだった。


「でもよ、店の方はどうするんだ?」

「大丈夫ですよ。 ここで次の段階に替えればいいんです。」

「今ならぼく達でも回すことが出来ますので、休んで来てくださいよ。」


 大将もそう言われたら留まる理由もないので、一度奥の休憩室へと入っていった。


「さてと、今のうちに商品のラインナップを替えようか。」

「ソフトクリームマシーンも出しておくよ。」

「パンもそろそろ出していこう。」


 そう言って真面目、下、刃真里の3人はお客が少し残っているなかでも気にせずにお店の商品のラインナップを替えていく。


 焼きそばと鉄板焼きの看板が無くなり、代わりに「焼きそばパン」と「ソフトクリームパン」の看板に差し替えられる。


 特にソフトクリームパンの看板は大きく出していた。 まるで目玉商品であるかのように、だ。


「こんなものかな。」

「こっちも準備出来たよ。」

「パンも焼くだけにしてあるから、何時でもいけるよ。」


 その3人のやり取りを見ていた若いお客が、真面目に声をかける。


「ねぇねぇお姉さん。 その看板の「ソフトクリームパン」って、どんな商品なの? どうやってソフトクリームをパンの中に入れるの?」


 お姉さんと言われて一瞬迷ったが、すぐに真面目の事だと思い、お客さんに説明を開始する。


「はい。 当店で出される「ソフトクリームパン」に使用するパンはピタパンで、ご注文をいただいてから表面を焼き上げて、空洞が開くように真ん中に切れ込みを入れます その後に広げて中にソースを塗ってからソフトクリームを入れる食べ物となっております。 ちなみに焼きそばパンもピタパンを使用しての提供になります。」

「へぇ、パンがそのまま器になる感じなんだ。 俺頼んでみようかな?」

「ありがとうございます。 ソースは何にいたしましょうか?」


 そう言って看板の端に書かれているソースの種類を指差した。


「ええっと、それじゃあオレンジで。」

「かしこまりました。 少々お待ちくださいね。」


 あまり笑うことが得意でない真面目なりの営業スマイルで待って貰うことにして、作業に取りかかろうとしたら、既に下がピタパンを焼いていたようで、パンは既にボールと鉄板に挟まれて焼かれているようだ。


「注文は聞いてたよ。 ソフトクリームも準備出来てるみたいだよ。」


 ソフトクリームメーカーの前には刃真里がスタンバイしていた。 真面目はお皿と耐熱用の手袋を用意して、女将さんから聞かされたパンの焼き時間になるまで待つ。


 そして時間になりボールを開けると、膨らみを持たせたピタパンが姿を見せる。 これを持って包丁(パン切り用で用意していた)で真ん中を切って開き、そこにかき氷のシロップをかける時に見かける容器で、開いたピタパンの中に上からかけて、刃真里にソフトクリームを入れて貰う。 もちろん外は熱々のままなので、お皿に置いてからお客の元へと運んだ。


「お待たせ致しました。 オレンジソースのソフトクリームパンです。 パンが熱いので、気を付けてお食べください。」


 そう言いながらキッチンに戻る真面目は、少し考えながら戻っていった。


「どうしたの? なにかいけないところでもあった?」

「ううん。 そうじゃないんだけど、出来立てを提供するのはいいんだけど、あれだと持ち歩きが出来ないなって思って。」


 下の質問に対しての真面目の答えに、下も刃真里もお客を見てみる。 確かにいくら中にソフトクリームが入っているとはいえ、外側が熱ければ食べることにも苦労することだろう。


「時間がかかるのは良くないかもね。 食べ終えて行こうと思ってもあれじゃあなかなか出られないよ。」

「それに折角手で持てるくらいの大きさなのに、結局その場で食べるのは勿体無いよね。」

「溶けちゃうこともあるから、お皿が汚れちゃうしね。 洗い物が増えるのはいただけないかも。」


 だがそれのせいでソフトクリームパンのアイデアを取り下げる訳にはいかない。 どうしたものかと真面目達は考えながら様子を伺っていると、後ろから真面目達に声がかけられた。


「何を悩んでいるの?」


 岬が唸り声をあげている真面目達に質問を投げ掛ける。


「ソフトクリームパンにちょっとした欠点を見つけちゃってね。 あれじゃあさすがにお客さんにいい印象を持たれないと思ってさ。」


 そうは言いつつも商品自体は好評だったりしているのを見ると、かなりいい線は行ったようなのだが、なにかが足りないようなのだ。


「休憩、いただきました。」

「悪いね、先に休ませて貰っちゃって。 今度はあんた達が休む番だよ。 テーブルの上にお昼も置いてあるから、休憩中に食べてな。」


 真面目達3人以外のメンバーが休憩室から帰ってくる。 これで本格的に焼きそばパンなども売れるだろうが、それでも持ち帰りには適していないようにも見えていた。


「ここからは私達の仕事。 3人とも立ち仕事が多かったから、ゆっくり休む。 あれの問題は私達が解決して見せるから。」


 そう言われたので真面目達はそれにしたがって、休憩室へと入った。 そして椅子に座った上で足を伸ばし、机の上にあった屋台料理(大将が近くの店で適当に買ってきたらしい)を摘まみながら、どうするのかを考えていた。


「お昼は過ぎてるし、次は夕方辺りになる?」

「いや、どっちかと言えば夜の方が多くなるかも。 ほら、海辺でバーベキューとか花火とかしたりさ。」

「バーベキューはいいかもしれないけど、食材は渡せないよ?」

「屋台に足を運ぶとは限っていないよ。 だけど、やっぱり夜の屋台飯って夏らしいじゃない?」


 そう会話を重ねつつ休憩時間を目一杯使って、真面目達も再度仕事へと戻る事にした。 そこで真面目達が見た光景は・・・

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