苦悩するコーディネート
真面目君。 コーディネートに悩むの巻
真面目がデートに誘われたのではと気が付いてしまった翌朝。 いつの間にか寝ていたのだろう。 朝日を浴びることになった真面目の頭はまだボンヤリとしていた。
そう、今日は学校以外で外に出る。 しかも異性と。 これが真面目にとって今の課題になっていた。
「・・・とりあえずお風呂には入らないと・・・」
起きて至極当然のことでも、頭がうまく回らない真面目。 起き上がりドアの前にある鏡で自分の顔を見てみると、あからさまにひどい顔になっていた。 眠気眼を擦りながら階段を降りて、風呂場に向かう。 そして寝巻きを脱いでシャワーを浴びる。 そして改めて自分の艶かしい四肢を見た。
「男の時の僕でも、この姿を見たら流石に普通じゃいられなかったと思う・・・」
そうポツリと呟いた。 最初こそ「女子の身体」という未知との遭遇により心臓の鼓動は速くなった。 しかしそれも2、3度見てしまえば自分の身体と認識してしまっている。 慣れというものは怖いもの。 「住めば都」を体現しているようだった。
「さてと・・・どうしようかな・・・」
母が買ってきたトリートメントを使用して髪を洗う。 毛先の癖っ毛が強いせいで効果としてはいまいちだが、やらないよりはまだ綺麗になる。 髪が長すぎるせいかお風呂の時間は掛かってしまうが、母が良くしてくれているものを無下にするのも悪いと思い使っている。
真面目は目覚め始めていた頭の中で考えていた。 出掛けるということはつまり着替えるということ。 そして一緒に出掛ける相手が異性ならば、女子として行くならばそれ相応の服装が不可欠だ。 当然である。
しかし真面目はその辺りは疎い。 自分が動く分には他人に見られても不自然じゃない格好で適当にぶらつくことが当たり前だったからだ。
髪を一通り洗い終えて、今度は身体を洗う。 前まで使っていた身体を洗うためのタオルは、作りが粗いため肌を傷付けるため、既に柔らかいスポンジを用意されていた。 ボディソープも香りがつくタイプへと変更されている。
「自分をコーディネートするなんて、考えたこと無かったや。 お洒落にはてんで無頓着な僕がさ。」
自分で言っておきながら案外笑えない状況に陥っている真面目。 身体に付いた泡をシャワーで取り除いてから、浴室を出て体を拭いて、部屋着を着た後に髪をドライヤーで乾かす。 これがあるとないとで髪のダメージの有無が変わるらしい。
髪の毛を完全に乾かした後、リビングへと入る。 両親は既に朝食を取っていた。
「おはよう。」
「おはよう真面目。 今日は珍しく遅かったわね。」
「遅かったって・・・何時もよりも30分だけだよ。 珍しくもなんともないでしょ?」
そう言いながら真面目も自分の席に座り、朝食を取る。 何時もの朝食ならば洋風になるのだが、今日はご飯に味噌汁の和風だった。 どちらか片方が休みの時は和食の朝御飯にするのが、一ノ瀬家での決まりだった。 今日は進の方が休みである。 ご飯と味噌汁は少し冷めてしまっているが、そんなのは気にならない。
「しかし真面目が遅れて起きてくるなんてな。 なにか悩み事か?」
進の一言に真面目は考える。 どういったな悩みとして打ち明けるべきかと思っていた。 だがどうせ出掛けるのであれば結局は見られることになる。 それに今後このような場面はいくらでも出てくる。 悩みの相談をするのなら今のうちの方がいいだろうと真面目は考えた。
「実は今日買い物をしに行くんだけど、その・・・友達と行くから、さ。 変な服装だと相手も困るだろうから、ちゃんとした服を着たいんだよね。」
そう喋る真面目に壱与も進も顔を合わせた後に、進はうんうんと頷いていた。
「そうかそうか。 真面目もそう言う年頃になったということか。 感慨深い物だ。」
「それは今の僕の姿を見て言ってる?」
進の反応に真面目も困惑を極めている一方で、朝食を食べ終えて食器を洗った壱与は、真面目の後ろで肩に手を乗せた。
「そうねぇ。 こうして自分の娘をコーディネート出来るって思うと、私ワクワクしてくるの。」
「もしかして産まれてきたのが女の子だったら着せ替え人形にされてたってこと?」
「あら。 今からのことは言わないのね。」
その時真面目は思った。 (あ、純粋にやりたかっただけなのね)と。
「そういえば大きな鏡ってここにしか無いんだっけ。」
真面目が朝食を食べ終えた後に連れ込まれたのは壱与の部屋だった。
「そのうち真面目の部屋用に大きい鏡も用意するわよ。 それよりもまずはこれを着てみなさい。」
そう言って渡されたのは白シャツと水色のジャケット、そしてマーメイドスカートと呼ばれるスカートだった。
「これスカートは学生用のやつと着方は同じ?」
「ええ。 基本的にスカートは同じものよ。」
そうして着てみると、かなり大人チックな自分に驚きを隠せていなかった。
「これが、僕?」
「いいじゃない。 背も高いからこういった服がかなり似合うのよねぇ。 今度はこっちを着てみて。」
次に渡されたのは肩からもも丈まで長さのあるワンピースだった。 これは上から着るだけなので真面目でも分かりやすい。
「どう? 動きやすいでしょ?」
「うん。 これでも良い感じ。 だけどちょっと袖が短い気がする。」
「ワンピースなんてそんなもんよ。 じゃ、次はこれね。」
次に渡されたのはカッターシャツと短いスカートだった。 今までよりもスカート丈が短い。
「か、母さん。 流石に短いんじゃない?」
「まあまあ着てみれば慣れるものよ。 本当に着たいものは貴方が選べば良いし。」
「そ、それなら・・・」
そう言って渋々着替える真面目。 そして着てみた感想としては・・・
「な、なんか落ち着かない・・・足元スースーするし。」
「まあ最初なんてそんなもんでしょ。 貴方としては最初のやつが良いんじゃない?」
「そう、だね。 ハードルは低い方がいいかな。」
そうして真面目は最初に着た服へと着替え直す。 流石に集合時間までには早いのでしばらくはその姿でのままで時間を過ごすことになる。 そこに関しては真面目も仕方ないと思っている。
「ありがとう母さん。 これでなんとかなりそうだよ。」
「ちょっと、まだ終わってないわよ。」
「え? ほかになにかあったっけ?」
「表に出るんだから、少し位は化粧しなさい。 ファンデーションをつけるだけでも大分印象が変わるから。」
そう言って壱与はファンデーションを真面目の顔に軽く叩くようにつける。 見た目としてはあまり変わらないようにも見えるが、それでもかなり肌の艶はついたように見える。
「これでよし。 うん。 しっかりとしたわね。」
「・・・ここまでされるとなんか、女子って大変なんだなって改めて思うよ。 身支度が長いって言われるわけだ。」
雑さを抜いてともなれば一からコーディネートをするだけで時間が掛かってしまうのだろう。 女子はそれだけ身だしなみに気を付けると言う事だと改めて思った。
「壱与さん。 そろそろ仕事の時間じゃない?」
「あら、そうだったわね。 それじゃあ行ってくるわね真面目。」
「うん。 行ってらっしゃい。」
そうして壱与が出ていったのを確認したところでリビングに戻る。
「真面目も時間には気を付けてな。」
「うん。 とはいってもまだ1時間くらいはまだ余裕はあるけどね。」
時間を確認すると既に8時近くは回っているものの、集合時間は10時なので、少し落ち着かないながらもくつろいでいき、そして時間になったところで玄関から出ていく。
「それじゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。 父さんも午後からはちょっと出掛けてくるから、帰ってくる時はいないとだけ分かってくれ。」
「はーい。」
そして真面目は集合場所まで歩いていく。 周りの視線がどうなっているのか気になり始める。
「変とは・・・流石に思われてないか。」
そうして岬と会う場所で待機をする。 勿論ちゃんとしたところで集合にするのが普通ではあるものの、今回は岬の家が近いということでここになったのだ。 異議はない。
「あ、お待たせ。」
「あ、浅倉さん。」
そして真面目は岬を見ると・・・つば付き帽子にYシャツ、茶色のズボンと、完全に少年のような格好の岬がそこにはいた。 そして岬は首をかしげた。
「どうしたの?」
「・・・僕はなんのためにここまでのコーデをしたんだろう・・・」
「うん?」
「・・・なんでもない。 行こうか。」
一人で気苦労をしてしまったなと後悔しながら真面目と岬は細い路地裏を歩いていった。
因みに作者もお洒落には無頓着な人間です。