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海の家「曙」その2

「焼きそば2つでお待ちのお客様! お待たせ致しました!」

「ホットドッグとアメリカンドッグですね。 お会計600円になります。」

「続いてのお客様、こちらにどうぞ!」


 お店の周りは順調だ。 回転率を人海戦術に近い状態ではあるが、利益が出ればそれで良い。


「あちらこちらにも色んな店が展開しているようだが、わが店の前では無力なのだよ。 あるいはこの店との比較に使われていることになっているだろうな。」


 他の店はテナントで頑張っているようだが、この店は1から設計した建築物だから、建物の造りから違う。 そこでも十分に差を生み出す事が可能だ。


「3日目にはこの場所のみで行われる行事ごある。 それまでに店が撤廃することは無いだろうが、この店よりも上になることはまず無い。 今年も糧とさせてもらうかな。」


 改めて店の様子を見るとどのレジも長い列が出来ている。 そしてファストフード位の速さの提供も出来ている。 夕方からはお客も減ってくる。 その間に稼がせて貰う事になるだろうな。 だが問題はない。 しっかりと我がお店の事を覚えて帰って貰おうか。


 ―――――――――――――――


 隣のお店にお客が取られている感じがあるのが、真面目にとっては少し面白くないと感じてはいたものの、お昼に近づくにつれて家族連れが多く入ってくるようになってきた。 これは真面目の狙った通りで、大人も子供も、一息休憩を入れるには海の家「曙」はいい働きをしているように感じる。


「この店は若い人向けじゃないかもしれないけれど、お客さんが必ずしも若い人ばかりじゃないって事も考えないといけないんだよね。」


 太陽は完全に昇りきり、ギラギラと海や砂浜を照らしている。 海水浴を楽しんでいる人達は、海で泳いだり砂浜で邪魔にならないようにビーチバレーをしたり、ビーチパラソルを立てて木陰を作ったりと、楽しみ方は様々だ。

 そんな中でも海の家「曙」は、中に入っても涼しいわけではない。 


 だが木陰であることや小型ではあるものの扇風機をくくりつけてお店の中に風を送っているので、外よりはまだ快適ではある。


「そろそろ外での呼び込みは止めておこうかな。」


 海の家「曙」を振り返ると、満席に近い状態になっており、これ以上呼び込みをしたところでお客を待たせることになる。 それは避けたいと思い海の家「曙」へと戻った。


 お店の中にいる客層は家族連れが多数を占めており、海でおもいっきり楽しんだ後にお腹を空かせた子供達が、大将の作る料理を食べている、という光景があちらこちらで見えるのだ。


 お客さんが席を立つと、速やかに刃真里がその席のお皿を片付けにやってくる。 お盆にお皿を乗せたらテーブルを拭いてからお盆を持って後ろに下がる。


「お待たせ致しました。 お好み焼き豚玉と海鮮、鉄板焼きで御座います。」

「鉄板焼きはここに。」

「お好み焼き大きい!」


 お客さんに料理を運んでいるのは岬だ。 無愛想な感じではあるものの、むしろ大将がそこそこ頑固な雰囲気を出している上に、岬も小柄な男子という風貌になっているので、お客さんも気にしてはいないようだった。


「夏休みのお手伝いに出るなんて偉いわねぇ。 その調子でお店に貢献してあげてね。 応援してるから。」


 そんなやり取りを聞いていた小耳にした真面目だったが、一回厨房の方に入って、やることがないかの確認をしようと思った。


「大将、女将さん。 なにかやる事ってありますか? 客引きを一度止めて、店内のお手伝いに回りたいのですが。」

「お、そうかい? そんならタネ作りしてくれないか? お客が増えてから、そっちに手が回せなくなってな。 嬢ちゃんよりも力がある方がやった方がいいだろ。」

「分かりました。 休憩室から小麦粉と中華めん持ってきますね。」


 大将の指示で真面目は後ろに入っていく。 どうやら大将と和奏はお客が波に乗ってきてから鉄板からほとんど離れることが出来なかったようだ。


 鉄板近くでタネを作ろうとすると、小麦粉による粉塵爆発が起きる可能性があるので、休憩室の隅で寸胴に小麦粉を入れてからキッチンに向かい、洗い物の入っていない側のシンクで水を入れて粉を混ぜる。


 ミキサーなどと言う便利なアイテムは大将には持ち合わせていなかったので、身体を目一杯使っての撹拌を真面目は行っていた。かなりの肉体労働なので、これは和奏にやらせるには酷になると真面目は思った。


 かき混ぜること数分。 ようやくダマにならない滑らかさになったのを確認して、大きなお玉を使って、小さい容器入れに入れた後に溢れないように蓋をして次が作れるようにともう一往復行う。


 幸いにも刃真里や和奏が皿洗いを積極的にやってくれていたお陰か、2つあるうちの1つのシンクを寸胴で埋めてしまっても問題なく利用出来るようになっていた。


「ふぅ・・・ようやくできた・・・」

「悪いなこんなことをさせちまってよ。」

「いえいえ、その分お店が繁盛するならってものですよ。 今は波に乗ってるので、その波を留めれる様にするのも、商売には必要ですから。」


 そうは言っている真面目ではあるものの、半ばはやせ我慢にも近い。 そもそもがあまりアウトドア派ではないので、体力は人並みにしかない。 そして往復して更に体力が奪われ、暑さも相まって実は立っているのもやっとだったりしている。


「悪いがもう少し頑張って貰えるか? 人手が減るのは、こっちとしてもツラいしな。」

「料理の方は大丈夫そうですか?」

「作る分はな。 だが下処理が間に合ってないな。 野菜関係が全然切る余裕が無いんでな。」


 下の方を見ると、段ボールに入ったままのキャベツや玉ねぎがそこにはあった。


「そっちはやります。 キャベツの千切りからやった方が良いです?」

「おう、頼むぜ。」

「私も、少しだけなら、出来ます。」

「それなら焼きそば作れるか?」

「分かり、ました。」


 キッチンが2人から3人体制になり、料理の出るスピードに拍車がかかったけど。 その間他の人もお客を待たせることの無いようにお店を右往左往する。 そのお陰か列が出来ることも少なく、回転率は悪くなくなっていた。

 そしてそんなお店の雰囲気に少し変化が訪れる。


「大将さん。 お皿ここに置いてもいいかい?」


 お客さんが席を立ち上がると同時に、カウンターのところに食べ終わったお皿を片付けに来たのだった。


「それなら、私が、貰います。」

「美味しかったよ大将。 もしあれだったら夕方も来るよ。」

「ありがとうよ。 またよろしくな。」


 そう言ってお客さんは女将さんのいるレジへと向かったのだった。


「喜ばれてるみたいですね。 これも大将の料理がおいしいからですよ。」

「なに言ってやがる。 お前さん達が頑張ってくれてるからだろうよ。」


 大将は照れ臭くなったのか、真面目達の事にしたがっていた。


「よっしゃ、この調子で昼を乗り切るか!」

「そうですね。 あ、南須原さん。 料理をするの交代するから、お皿を洗ってくれないかな? 鎧塚さん達お客さんの対応で手が空きそうにないから。」

「分かりました。 場所、交代、しますね。」


 そうして真面目が料理をすることになった。 とはいえ味付けに関しては大将のやり方なので、それを多少教わりながら真似ればいいので、真面目にとってはあまり苦にならない。


「次の注文、塩焼きそばと塩ダレ豚炒め。 それで一度注文は途切れる。」

「わかった。」


 そう言って岬の方を見た真面目は、岬の機嫌が良くないのを確認した。


「浅倉さん。 あんまりそんな顔をしないでよ。 疲れたの?」

「・・・のに・・・」

「え? なんて?」

「別に息子じゃないのに・・・」


 岬の言った一言で不機嫌な理由が何となく見えた真面目。


 小柄で無愛想なのだが、一生懸命な姿をお客さんは見て、ここのお店の息子か孫だと思ったのだろう。 それで勘違いをされて機嫌が悪くなったのだろう。


「最初の休憩は浅倉さんが入る?」

「・・・貰えるなら貰う。」


 そう言って岬は大将から貰った料理を手にお客さんの方へと向かう。 その姿を見た真面目は、勘違いをされてもしょうがないのでは? と感じてしまったのだが、それは心の中にしまっておくことにしたのだった。

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