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海の家「曙」 その1

この話の最初は隣で営業している店長の心の声から始めていくスタイルになります。


急で申し訳ありません。

「店長! そろそろ開店できます!」


 入り口近くで水着エプロン(ビキニと前だけの腰布)を着たアルバイトがそう声をかけてきた。


 他にも店舗は数件持っているが、この海の家の場所だけは外せない。 むしろここでの稼ぎが一番いいとも言える。 だからこそ店員も男女問わずではあるが見た目から見てもらえるように服装も体つきもしっかりと見ている。


 学生は入れていない。 何故なら5年で性別が入れ替わるのならば見た目が変わった時に悪くなってしまっては意味がないからだ。


「店長。 作り置きも出来ました。」


 キッチンのホール係からもそんな声が聞こえてくる。 手間暇をかけるのは最初だけで構わない。 大量の作り置きをすることにより経費の削減にもなるからだ。 安く速くをモットーに、そして見た目を引くようにしていけば、お客も寄ってきてくれる。


「あの娘をスカウト出来なかったのは残念だが・・・まああんな急造の店なんぞに負けはしない。 くくくくく。 断ったことを悔やんでも手は差しのべんさ。」


 逆らったわけではないであろうが、力量の差と言うものを見せつけてやるのだ。 くくくくく。


 ――――――――――――――――――


 朝とは違い、浜辺にはあっという間に海水浴客が所狭しと来るようになっていた。


「一気に盛り上りを見せてきたね。」

「ここからが本番だね。」

「大丈夫、でしょうか? お客さんは、来てくれる、でしょうか?」

「ここを借りるのは3日間でしょ? 最初は来なくても問題ないよ。」


 まだ始まったばかりでみんなの想いは固まってはいないが、海の家は開店したので、お客さんを呼び込むためにメガホンを真面目は使って声を出していく。


「いらっしゃいませ~! 海の家「曙」! ただいま席空いております! 是非お立ち寄り下さい!」


 真面目が声をかけるものの、声が届く範囲には限界がある。 だが呼び込みをしなければお客は来ない。 声は出せる限り出す勢いである。


 そんな時に真面目の隣でメガホンで声を出している店員を見かけた。 右側では普通の服装なのだが左側、始まる前に声をかけてきたお店の店員のようなのだが、客を呼び込むためのような格好をしていた。


「露骨だねぇ。 あれでお店に呼べて嬉しいのかなぁ?」


 真面目の隣に下が同じ様にメガホンを持って立つ。 これが意外にも功を奏して、お客さんの目に止まるようになっていた。


「ただ声を出すだけじゃお客さんは呼び込めないよ。 まずはどういうお店なのかを分かってもらうこと、それが重要なんじゃない?」


 下の言葉に真面目も、隣のコンパニオンのような格好よりも清楚感は出ているこの店の雰囲気を分かってもらうには、見せ方も大事だと感じた。


「いらっしゃいませ~。 遊び疲れたら、海の家「曙」でゆったりしてみるのはいかがですか? お料理も取り揃えております。」


 下はそんな風にメガホン越しに喋り出す。 店の状況を伝えるよりも、どんなお店なのかをお客に分かってもらうための宣伝文句がいい感じになっていた。


「まだ始まったばかりだし、お客さんもこれから増えると思うけど、それでも頑張っていこうよ。」

「それもそうだね。」


 下と真面目がそんな会話をしていると、お店の中から岬が出てくる。 岬は今お店のシャツを着ておらず、来た時のまんまの格好をしていた。


「あれ? どうかしたの浅倉さん?」

「敵情視察。 中には入らないけど、遠くからでもある程度は分かるはず。」

「気を付けて行ってきてよ? バレるとお店に影響出るかもだし。」


 真面目の心配に親指を「ぐっ」と立てて浜辺の方に行ってしまう。 その小さき背中を見ながら、真面目は心配が重なってくる。


「本当に大丈夫かなぁ?」

「心配なら付いていってあげたら? 客寄せはぼくが頑張るからさ。」


 下の提案を乗ろうとしたが、真面目は首を横に振った。


「いや、多分お客さんがいない今だから言ったんだと思う。 ここで僕まで行ったら、大変なことになりそう。」

「そんなこと無いと思うんだけどなぁ。」


 そんなこんなで再度お客の呼び込みを行う真面目と下。 他の店舗にはちょくちょくお客が入ってはいるものの、まだ客足が来ることはないと思っていたときの事だった。


「すみません。 お店って空いていますか?」


 真面目に声をかけてくる人物がいた。 見た目は真面目達と同じくらいの若さの女子。 だがよく見れば身体は洗ってきたばかりなのか、水が滴り落ちている。 とはいえこの暑さならばすぐに乾く程だろうと真面目は思った。


「はい、空いていますよ。 どうぞこちらに。」

「良かった。 このお店空いてるって。」


 お客の女子は別の方向に声をかける。 するともう2人ほど同じ様な人物が歩み寄ってくる。 どうやら海水浴客として来ていたようだ。


「はぁー、砂浜に直接座らないで休めるー。」

「まだ早いけどなんか食べない? あのお好み焼きとかさ。」


 まずはお客を入れれたことに真面目と下は「パチン」と手を合わせる。


「はい、暑い日のお冷やだよ。 なにか食べていくかい?」


 女将さんの声で、その女子達はメニュー表を見て、料理を頼んでいる。 その注文を受けて大将が鉄板に向かってせっせと作る。 もちろんその隣には和奏も一緒だ。 まだ忙しい程ではないものの、動きに慣れるためにこういった事をさせて貰っているのだ。


 そうして注文した料理を堪能しているのを確認ながら真面目達は再び客寄せをしていると、岬が戻ってくるのが見えた。


「お帰り浅倉さん。 他のお店の様子は見えた?」

「うん。 外観だけ見るとどこもかしこも派手な装飾ばかりだった。 内容は色々とあったけれど。」


 装飾のきらびやかさで言えば確かに「曙」にはそれはない。 むしろきらびやかにしてしまえば、「曙」の良さが失われる可能性もある。


「じゃあ他のお店に、お客さんの目が取られてるってこと?」

「でもこの店にしかない長所がある。」

「それは?」

「他の店はほとんどがお持ち帰り用。 容器代も入れた金額設定。 このお店の値段設定は材料費。 少しでも良い材料で勝負してる。 それに容器代も食器にしてるから経費が浮いてる。」


 そんな説明を岬から受けている間に、先程入っていたお客さんが出てくる。


「美味しかったね。 お好み焼き。」

「塩焼きそばも良かったよね。」

「皿洗いの人めっちゃカッコ良かったよね! 歳上というか、高校生だったから残念だったけど。」


 どうやらあの女子達は中学生だったようだ。 最近はああ言った見た目でも高校生に見えるのでものは見ようである。


「そして座って休憩が出来るから、商品を買ってくれればお客さん。 相当混まない限りは机と椅子は使える。 それを利点として動かすのはおかしくないと思う。」

「確かにね。 他のお店とは違う点を挙げるならそうなるよね。 少しでもお客さんを呼べるように頑張るよ。」


 まだ営業自体はまだ始まったばかりなのでこれから海の家「曙」はどう運営していくのか、真面目達は考えながらお店を動かそうとするのだった。

書いてみて思ったのですが、かなりの長編になる予感がしてきました。


お付き合いどうぞよろしくお願いいたします

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