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図書館での意外な出会い

 週末になり真面目は今日もいつも通りに起きて、朝御飯を食べている。 今日は昨日の残りである肉じゃがである。


 と言うのも昨日に壱与が作り置きもかねて人数分以上に作るため、こうして昨日のあまりとして朝御飯にしたり、昼や夕飯にコロッケやカレーとして登場したりと、なにかと肉じゃがは便利な料理だったりするので、忙しくなければ作る程には多く作っていたりする。


「あ、そうだ。 今日はちょっと外に出掛けるからね。」

「分かったわ。 お昼はいる?」

「んー・・・別にいらないかな。」

「そうか。 それなら私達もゆっくりさせてもらおうか、壱与さん。」

「そうね。 今週は忙しかったからね。」

「僕がいなくても休むじゃんか。」


 真面目の一言で全員が笑った。 今日も楽しく過ごせるような一日だと感じた。


「それじゃあ行ってきます。」

「いってらっしゃい。 気をつけて行ってきなさい。」


 家を出て真面目は歩いて図書館へと向かう。 外はまだ8時だと言うのに既に太陽の熱が皮膚を焦がしていた。 いくら薄手にしようとも暑さまでは変えられない。 日傘も持たされているのだが、それでも完全に防ぐことは不可能だろう。


 そんなこんなで真面目は図書館へと到着する。 場所が場所なだけにかなりの距離を歩いたせいか、服が汗ばんでいたので中に入るのはもう少し身体が涼しくしてからにしようと思った。


 そして数分の時間を有して、図書館の中に入る。 中では前に来た時よりも人が多く感じた。 特に奥の部屋の「自習室」には多くの学生が見えたのでわみんな夏休みの課題をやっていることだろう。


 そんな事はもはや無縁となった真面目は一旦自分の借りていたものを返却口へと置いておく。 そして新たな本を見るために図書館の中を歩く。


 それなりの広さを有しているこの図書館は所々で座れる場所もある。 利用者も多くなれば立ちっぱはしもツラいだろう。 そのための椅子なので、真面目はよほどでない限りは利用しない事にした。


「どんなジャンルで絞っていこうかな?」


 本を闇雲に探そうとしてもよい作品には会えない、とは誰が言った言葉だったろうか。 しかしどんな本があるのか分からないし、表紙やタイトルだけで内容が読めるわけでもない。


 どうしたものかと考えていながら推理のジャンルの棚へと入っていった。


「シリーズものの方が分かりやすく書かれているかな?」


 そう思いながら真面目は一つの本を手に取ってみる。 一番左にあった本なのでおそらく最初だと思われる。


 真面目はその本を近くにあった椅子に座って最初こそ読んでいったものの、途中から何故殺されてしまったのか、どうやって犯人は被害者に近付いたのか等を考えるようになり、推理小説らしい読み方をしていたのだが、最後の方になって犯人の心境を考えれば「そんなことで?」と思っても、犯人にとっては重要な事だ理解しないといけない部分があったりと、結局要所要所でしか見れなかったので、内容の半分も覚えていなかった。


「んー、推理物はダメなのかなぁ? いやでも、それは流し読みしたからであって、ちゃんと読めば理解できるようになるかも。 でも結構シリーズありそうだし・・・」

「なにかお困りごとですか?」


 真面目が本を戻して悩んでいると、左右にそれぞれ三つ編みを用いて、丸眼鏡をしている女性に声をかけられる。 服装からしてここの職員のようだ。


「ああ、いえ・・・」


 真面目は職員に迷惑をかけないようにと遠ざけようと思い声を出したが、少し考えてから、また口に出してみる。


「あのー、もし差し支えなければでいいんですけれど、なにか読みやすい小説とか無いですか? 最初から推理小説は難しいような気がして・・・」

「確かに推理小説は慣れていないと、途中で飽きてしまうでしょう。 だからと言ってライトノベルなどにすると、それはそれで慣れてしまって、普通の小説が読みにくくなります。」


 そう言いながら歩き出す職員の後ろを何となくで着いていく真面目。 ついたのはエッセイ集の集まる棚だった。


「エッセイ本ですか。」

「ええ。 これならば表現は作者の自由ですし、興味の示せる本が必ずあると思います。 例えば数字が好きな方ならば、方程式の独特な解き方を書いている人のエッセイを読んだり、流行に敏感な人にはこういった流行りに乗るためには、等と言う個人の感性を書いたりしているものもあります。」


 そう言って何冊が取り出して流し読みをする職員。 真面目もエッセイ集の棚から興味がありそうなものを探そうとする。


「エッセイで少しずつ見るのに慣れてきたら、ライトノベルの中でも冒険物を読んでみることをオススメします。 先の読めない展開を絵ではなく文字で表現するのは、言うが易し行うは難しと言った具合に、作者の癖が現れたりしますから。」

「随分と読み込まれているのですね。」

「私も本を読むのは好きですから。」


 そう言いながら真面目は職員にお礼を言った後に、自分の読めそうなエッセイ集を手にとって、読んでみることをした。 先ほどの推理小説で流し読みでも30分はかかった。 エッセイ集になるので少し短くはなるものの読みきれると判断していた。


 そして1時間後。 真面目は数冊の本を図書館のカウンターに持っていっていた。 本の厚さはそれぞれではあるが、真面目にとっては興味を示す要因には十分だった。


「良き本に出会えましたか?」


 そしてそんな真面目が持ってきた本を見て、先程の職員が座りながら問いかけてきた。


「おかげさまで夏休みは退屈しなくて済みそうです。 ありがとうございました。」

「お客様を助けるのも図書館の職員の役目なので。」

「そう言えばおいくつなのですか? かなり若く見えますが?」

「これでも四年制大学は卒業していますよ。」

「あ、ってことはその姿は」

「元に戻った姿、と言うことになります。」


 目の前に真面目達の置かれている状況を乗り越えた人間がいる。 それだけ今の真面目にとっては十分に興味を惹かれていった。 得流の姉の恵も貴重な話を聞けたが、大学生から社会人になった話は聞いていない。 そう言った意味で聞いてみたいと思ったのだ。


「あの、お名前、聞いてもよろしいですか?」

「ナンパならお断りしています。 それに仕事柄そう言うのは受け付けてないので。」

「あぁ、いえその、これからを生きていく上で、大学生になって性転換ぎ元に戻った時の話を聞きたくて・・・」

 その言葉を聞いて驚いていたが、すぐに元に戻り、ネームプレートを見せた。

「樋野口。 樋野口 辰巳(ひのくち たつみ)。 それが私の名前です。 ここには今年就いたばかりなので、夏休みが終わっても在職はしています。」

「樋野口さん。 お時間があれば是非聞かせてください。 あ、本の貸し出し手続きもお願いします。」

「本来はそちらが目的だとおもうのですが。 君、少し変だって言われたことありませんか?」


 そう言われつつも貸し出し手続きは行って、そのままの流れで家に帰る事になった真面目。 日はまだ高い。 帰るまでが勝負だと思いながら、本を借りるために持ってきた手提げカバンを下げながら家へと帰っていくのだった。

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