とんでもない場所からの訪問者
お墓参りを終えたにも関わらず、朝起きても疲労感が残っている真面目は、流石に今日ばかりはお昼まで寝てしまおうかと考えていた。
時刻はまだ6時半。 真面目ながら時間に対してはぴったりすぎる程に正確である。 このまま目を瞑ればまた夢の中、そう思っていたもののそれを遮ったのは腹の虫だった。
「そう言えばお昼を食べ終えてから何も口にしてなかったんだっけ?」
家族全員が倒れるように眠ったような記憶が甦ってきて、とりあえずこの腹の虫を止めるべくリビングに降りるのだった。
「おはよう真面目。 やっぱりお腹が空いていたかい?」
「おはよう父さん。 僕もってことは」
「全員同じ気持ちよ。 トーストが焼けたら出すから少し待ってなさい。」
それならと既にメインのお皿(ハムエッグと千切りキャベツ)はあったので、トーストを待つ。 そしてそのテーブルの上に真面目の買ってきたジャムが未開封のまま置かれていた。
「まだ使ってなかったんだ。」
「昨日は食べる前に出たからね。 それにこう言ったのは独り占めしないのが私なのも知ってるでしょ。 はいトースト。」
そう言いながら壱与はトーストを3枚のせた皿を食卓に乗せた。 どうせ全員で食べるのだから洗い物は少なくした方がいい。
真面目が買ってきた緑色、キウイジャムを塗ってトーストを齧る。 ジャム独特の甘さとキウイの潰された粒から放たれる酸味がトーストに馴染んでいた。
「うん。 このジャム美味しい。」
「酸味のある果物をジャムにするのって難しいのよね。 ただ砂糖に浸けるだけじゃなくて、その果物の風味を殺さないようにしないといけないからね。 手作りは大変なのよ。」
壱与が同じ様に食べながら味を確かめている。 もちろん作れないことはないのかもしれないが、それは試行錯誤が必要で、おそらく一朝一夕で出来るものでは無いだろう。
「ご馳走さま。」
「ああ、私がやるわよ進さん。」
「これぐらいはさせてくださいな。 少しでも壱与さんを楽にするためにね。」
「洗うのは僕がやるよ。 どうせ夏休みで出掛ける予定は作ってないからね。」
家族内で役割分担することによってそれぞれの負担を減らしていく。 そして進が出勤していき、壱与も出勤していく。 そして真面目も部屋に戻り、ようやく読み終えた読書感想文用の本を横に置きながら真面目は読書感想文に手を付ける。
完全に覚えているわけではないため、所々読みながら読書感想文を完成させていく。 これを終えた後にはお昼を作りつつ今日は家から出ないように考えているのだ。
来週から数日はアルバイトのための準備なども入ってくるため、今週の疲れを持ち越したくないのだ。 というよりも色々と動きすぎたこともあってかゆっくりしたい気分になっていたのだ。
「この時代にあった恋愛のあり方を表現しつつ、普通に生きようとする男女の仲を話し合った内容でした。 しかしただ2人の話だけではなかったのです・・・」
読書感想文を言葉を綴っていく真面目。 その中には自分が本を読んだ上で考えていたことも綴られている。 読書感想文というものはそう言うものだと認識している真面目は、とにかく貰った原稿用紙を埋めていく。
「自分にもそういった異性が出来た時は、この本の事を思い出しながら、お互いの事を思い出しながら、2人で歩んでいく道を考えてみたいと思いました・・・ ふぅ。 書けた・・・」
ずっとにらめっこしていたためか、目頭を触り目の疲れを取ろうとしていた。
「お昼には少し早いような気がするけれど、何を食べるか冷蔵庫でも覗いておかないと。」
そう言ってスマホを持って降りようとした時に、丁度スマホが鳴り始める。 どうやら電話のようだ。 着信相手は下だった。
「もしもし?」
『もしもし一ノ瀬君? ちょっと駅まで来てくれるかな?』
「別にいいけど・・・どうしたの?」
『なんだか君に会いたがってるらしいんだよね。 男の子っぽいから女子なんだろうけど・・・関係が分からないからとにかく来てよ。』
そう言って電話は切られる。 真面目は外に出る予定ではなかったのだが、呼ばれたからには仕方ないと、服を着替え直してから誰かいたっけ?と思いながら家を出ることにした。 ついでに下に渡すために参から貰った試作化粧品も持ちながら。
そして駅前に着くと、確かにそこには下とその隣に、褐色肌でタンクトップ姿の少年がいた。
「あ、来た来た。 ほら、この子が一ノ瀬 真面目君だよ。」
そう下が説明をした後に、その少年は真面目に近付いて、そして
強く抱き付いた。
「・・・へ?」
「・・・うわぉ。」
目の前の光景に真面目も下困惑していた。 少ないながらも人の目があるのにも関わらずその行為を行った少年に目を向ける。
そしてその少年は抱き付きながら口を開いた。
「酷いじゃないか。 あの家にお墓参りに来る時は毎回顔を会わせていたのに・・・」
「おやおや? これは訳ありかな?」
「それは笑い事じゃない・・・ってお墓参り?」
下のちょっかいを誤解だと言おうとした時に、少年の喋ったことを思い返す真面目。 何かを思い出したかのように抱き付いていた少年の身体を剥がしてじっと見つめてみる。 そしてある仮定にたどり着く。
「もしかして・・・江城 鳴子さん? 父さんの実家の近くの川で散歩していると良く話しかけてくれた。」
「・・・ようやく思い出したか。 性別が変わっても根は変わってないようで安心したぞ。」
「やっぱり知り合いだったんだ。」
「それはそうなんだけど・・・まさかあそこからここまで一人で来たの?」
「もう高校生だぞ。 それくらい訳無いんだからな。」
「あー、っと。 ぼくはお役御免かい?」
もう一人の当事者である下は、2人を邪魔してはいけないと会話に入ってこなかったが、流石に居たたまれなくなったのか、その場を離れようとした。
「ああ、ごめんね。 それならこれ貰ってよ。 鳴子さんを見てくれたお礼。 元々渡す予定だったけど、きっかけとしてね。」
そう言って真面目は下に化粧品の入った袋を手渡す。
「ありがとう・・・ってこれ! 桁棟ブランドの化粧品!? しかも試薬品じゃないか!」
興奮気味の下を見て、やっぱり有名なブランドなんだなと改めて真面目は思った。
「まあ理由は聞かないで。 とにかくありがとう。 また来週はよろしくね。」
「う、うん。 なんだか人助けして良かったって本気で思ったよ。」
「というかそもそも何しにこの辺りまで来ていたんだ?」
「ちょっとしたお店巡り。 新商品とか出てないかのね。 でもこういったのが手に入ったからには早速試さないと! それじゃあね!」
今までの下のテンションとは打って変わって上機嫌になりながら帰っていった。
「さてと、それにしてもまさかあそこから1人で来るとは・・・ どうし・・・」
「ぐぅ~」
どうするか悩んでいるも鳴子のお腹がなった。
「・・・もしかして何も食べてきてないの?」
「真面目に会うためだったから、いち早く会えることを考えてた。」
「・・・家に行く前に食べに行こうか。 こうなったらついでに話もしてこようかな。」
真面目は少し歩かせることに嫌気をさしつつ、真面目は鳴子を引き連れるのだった。
お墓参りの時に出そうかと考えたいたのですが、無理やり組み込ませるのは後味悪くなりそうだったので、別の形で登場させました。
下君は今回はこのために出てもらいましたが、次はもっと活躍の場を出させる予定です




