お墓参りのその後は
前回の続きです
欧米や米国式の霊園は日本のように場所に敷き詰められたようなお墓ではなく、所々に通路のような空間が存在し、目的のお墓まではそれ相応に距離を有した。
「あの人への献花は?」
「既にご用意しております。」
「それならいいわ。」
そして目的の墓の前に全員が立つ。 墓石には「桁棟 萬」の文字が掘られていた。 それが大黒柱だった人物の名前であり、壱与達の父である。
花を添えて、皆で黙祷を捧げる。 その中にはしっかりと執事の姿も存在していた。
「あなた。 今年もみんなで来たわ。 そして紹介するわね。 この子、誰か分かる? 壱与の息子の真面目君よ。 最後に見たのは5年前だから分からないのも無理はないわよね。 あなたが生きている内に、変わった彼をその目で見せてあげかったわ。」
真面目を前に出してそう語る千代。 病気で亡くなった萬に見せられなかったことを、悔やんでいるようだった。
「でもね父さん。 彼のお陰でまた桁棟ブランドは成長出来そうだよ。」
「そうそう。 アイデアも掴み取れそうだし。」
弐那と参は自分の仕事の成長を報告する。 それを聞いた真面目は、人形にされると悟っていた。
「父さん。」
壱与が自分の父親の墓の前で膝をついた。
「父さんが私に跡継ぎをさせないでくれたお陰で、こうしてパティシエになって、婚約者を見つけて子宝にも恵まれた。 私のやりたいことをやらせてくれて、本当に感謝してる。 ありがとう。」
壱与からの感謝の言葉。 そして続いて進も膝をつく。
「お義父さん。 自分のような田舎出身者を迎え入れてくれて、今の生活があります。 認めてくれてありがとうございます。」
感謝の言葉を述べる進。 そんな両親の姿を真面目もいつか見習わなければならないなと、内心では思っていた。
「この場所は相変わらず殺風景ね。 もっといい場所があったはずなのに。」
「父さん、静かな場所好きだったから仕方ないんじゃない?」
帰りの車の中で思い出を語りつつ、お墓参りはこれにて終了した。 そうして元の場所に帰るだけかと思われたのだが
「・・・あれ? マンションはこの交差点じゃ無かったでしたっけ?」
何度も通ったことのある道だったのでマンションに戻る場所も分かっている真面目が疑問に思ったその時、参の目がキラリと光った。
「お姉様から許可は既に取っているわ。 さぁ真面目君。 私のメイクで女の子になった男の子の感想を聞かせて貰いますわ。」
「そう言うことなら力を貸すわ参。 本格的に性転換高校生へのファッションの変化を見せたかったのよ。」
弐那と参。 この二人の眼光は正直怖かったのだが、断る理由もないし、あのお墓の前で話していたことに釘を刺したく無かったので、真面目は諦めた様子でそのまま座席に座り直したのだった。
「真面目、嫌ならもっと本格的に嫌がってもいいのよ?」
「別にそこまで気にするほどでもないし、最近似たような目にあったから、まあいいかなって。 あ、参さんはメイクって言ってましたよね?」
「そうですよ。」
「なら僕が使った後でもいいので試作品みたいなのをいくつか欲しいです。 うちの友人でそう言うのを欲しいって言う子がいるので。」
「もしかしてあんたの誕生日会に来てくれた下って子?」
「そうそう。 もしかしたらブランドとしても知ってるかも。」
そう話ながら「桁棟ブランド」の事務所にやって来て、早速と言わんばかりに真面目をメイク台へと座らせた。
「元々が男の子だったし、ピンクとかも悪くないけどチークは赤よりの方がいいかな。 アイシャドウも黒より灰色の方が見映えはいいだろうし。」
真面目の後ろで色々と準備をされているのは分かるものの、何が用意されているのか既に分からない状態になっている中で、真面目は自分がどうなるのか分からなくなりそうだった。
とりあえず今の現状を受け流しつつ、今朝から送っていたMILEの確認をする。 すると何だかんだでとんでもないくらいに反応が来ていた。
内容としては「昨日と今日のギャップ」についてだった。 昨日が完全に田舎の写真だったのに対し、今度は富豪の朝食の写真を送ったので、向こうでもパニックを起こしているらしい。
そしてそんな時間も顔に付けたパウダーによって中断される。 そして目を瞑って5分ほどで終わりを向かえて、真面目が目を開けると、そこには見違えるほどに変わった真面目の顔があった。
「素材の良さで私の商品を語りたくはないけれど・・・元をしっかりと活かすことが出来るのも化粧のいいところよね。」
「そっちは終わったかしら?」
化粧台より後ろから声がかかった。 振り替えると既に何かの用意をし終わった弐那が立っていた。
「次は私ね。 まだまだ同性の服でしか基準が無かったからね。 男の子が女の子として着るなら、女の子が男の子として着るならという観点をそろそろ見定めないといけないと思っていたの。 試作はあってもそれを着てくれる子がなかなか見つからなかったからね。 ちょっと付き合って欲しいかな。」
そう言われて真面目は文字通りの着せ替え人形と化した。 どの服を着ても魅力的で、自分という存在を忘れそうになる。
とはいえそうなってしまうのも無理はない。 「桁棟ブランド」は幅広いファッションデザインを手掛けていて、流行からモダンまで、少しでもファッションを齧っていれば、大手ほどではないにしても避けては通れないほどに有名だったりする。
そして現在その運営を服飾部門では弐那が、化粧部門では参が担っているのだ。 真面目が実験体のように扱われようともお構い無しなのだ。
その着せ替えはお昼を越えた辺りまで続き、お昼を食べる時の真面目は目が半分程虚ろの状態になっていた。
「弐那。 さすがにやりすぎ。」
「あそこまで完成させられてると色々と試したくなっちゃって。」
「来年からはこちらのお墓参りからにしようかな。」
進が疲れきっている真面目の姿を見て次のことを考えていた。
お昼を食べ終えてから少しした後にまた執事の方が現れる。
「一ノ瀬御家族様。 本日は萬様のお墓参りにご参加いただき誠にありがとう御座いました。 こちらにお乗りしてご自宅までお送り致します。」
そう説明を受けた後に、千代の方を見る。
「いつもの事でしょ? 来年も来なさいな。」
「あ、そうそう。 さっき言ってたやつね。 この辺りが試作品だから渡してあげてね。 商品については・・・まあ名前は知ってるでしょ。 その子によろしく言っておいてね。」
そうして車に乗り込む真面目達は、千代達に手を振ってからその場を後にした。
「毎年の事かも知れませんが、3時間も高速道路で車を走らせて大変じゃないですか?」
「真面目様はお優しいですね。 ですがご安心下さい。 私は皆様のために動いておりますゆえ、この程度ならば問題はありません。 ですので私の事は気にせずにごゆっくりなさってください。」
そう言われて真面目は同じ様にくつろいでいる進と壱与にならい、真面目もゆっくりとまぶたを落としたのだった。
「一ノ瀬一家様。 そろそろご自宅近くになります。」
執事の言葉にそれまで眠っていた真面目達が目を覚ます。
「あぁ。 ありがとうございます。 はぁ、2日離れていたのに懐かしさを感じるのは何故だろうか。」
「執事さん。 良かったら私達とお食事しない?」
「お誘いありがとうございます。 ですが私は千代様の召し使いですので、そのお誘いは受けられません。」
「それなら仕方ないわ。 私達を送った後は休んでから帰りなさいね?」
「承りました。」
そして家の前に止めて貰い、そのまま車が去っていき、我が家へと入った後は、夕飯を食べる様子もなく、疲れがかなり溜まっていたのかすぐに付いてしまったのだった。




