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遠い実家のお墓参り2

今度は母方のお墓参りです。

 終点まで乗っていて時刻は日を跨ごうとしているほどだった。 この時間では新幹線も通ってはいなかった。 普通ならばここでホテルなどを探すのだろうが、駅を出た真面目達はロータリーに向かっていた。


「なんか、いつもこうやって迎えが来てくれるって、なかなか無いことだよね。」

「いいのよ、こう言うときは使えるものは使う精神でいけばいいのよ。 向こうだって娘の里帰りだと思えば苦じゃないでしょ。」

「召し使いさんは別じゃない?」


 そんなことを言いながら待っていると、一台の車が真面目達の前に止まる。 そして後部座席のドアが開いたと思えば今度は運転席が開き、中年の男性が降りてきた。 熱帯夜に近いにもかかわらず燕尾服に身を包んでいる


「長旅お疲れ様で御座いました。 どうぞお家までごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」


 この行為に関して誰も驚きはしない。 何故ならこの迎えを用意したのは壱与が連絡したからであり、これは壱与の家からのやり方なのである。


 そうして車に乗せてもらった真面目達は、朝から動いたこともあり、眠気が襲ってくるのだがここまで来たのだから家についてから眠りに付こうと思っていた。


「今年も来てくださり誠に感謝いたします。」

「私位だものね。 わざわざ家に残らないだ外からこうしてお出ましするのは。」

「引き継ぐ人がいたからこその自由ではありませんか。 縛られること無く生きられることも人生には必要だと私は思いますよ。」

「こうして迎え入れてくれるのなら、私も別に勘当されてた訳じゃないって事だものね。」


 そうして車に揺られること1時間。 外からでも分かる程に建てられたデザイナーズマンションの駐車場に車は入っていく。 ゲートを潜り抜けて車は指定の位置に止まった。


「それではこちらがご家族の鍵になります。」

「いつもわざわざ用意してくれてるのよね。 もう母さんは寝てるでしょ? どうせ会うのは明日にしようと思ってるから、このまま行くわね。」

「長旅の疲れをゆっくりとお取りください。」


 そう言って頭を下げる男性を後ろに見ながら壱与の後を付いていく真面目。 エレベーターに乗り真面目達が借りる部屋の所まで登っていく。 そして付いた上で部屋の鍵を使って部屋に入り、そのままそれぞれのベッドで眠ることにしたのだった。


 翌朝。 真面目達はまだ眠っている。 昨日は一気に動いたので、起きるのもいつもなら既に起きている時間でも今回は眠っていた、いたのだが


『おはよう我が娘と旦那さんとお孫ちゃん! 今日の里帰りをあたくしは楽しみにしていましたのよ! 朝御飯は用意されているから、21階のレストランフロアにいらっしゃいな!』


 モーニングコール用のスピーカーから部屋に響くほどの活気溢れる声にいきなり叩き起こされた一ノ瀬一家。


「・・・相変わらず煩いわねこの母さんの声は。」

「・・・うっ、ちょっと頭痛くなった。」

「まあまあ2人とも。 準備をしつつ向かおうじゃないか。」


 耳に響くほどの声量を出されて気分はあまり良くはないものの、呼ばれたからには行かないのは失礼と、顔を洗って着替え直してから、荷物をもってレストランフロアへとやってくる。 そして昨日の執事の人に招かれて、大きなテーブルクロスの奥に待っていたのは


「今年も来てくれたのね壱与。 相変わらず元気そうで良かったわ。」


 既に食事をしているきらびやかな妙齢に見える女性。 何を隠そう彼女が壱与の母である。 その両隣にはまた別の女性がそれぞれ座っているが、顔付きは壱与にそっくりである。


「どうしたのですか壱与姉さん。 お座りになられてもよろしいのですよ?」

「ごめんね弐那(にな)。 もう少しだけこの感覚を思い出させて。」


 壱与から見て右側に座っている弐那と呼ばれる女性はこの場に相応し過ぎる程の服装を見に纏っていた。 どこかの女優と見間違えてもおかしくはないほどに。


「・・・ふぅ、ようやく落ち着いたわ。 さ、私達も座りましょ進さん。 真面目。」


 壱与の言葉に同じ様に固まっていた進と真面目も動き出す。 すると左側に座っていた女性が真面目を凝視するように見ていた。 化粧で大きくしているであろう目元が更に大きく見開いたように見える。


「・・・ねぇ壱与お姉様。 今この子の事を真面目って言ったよね?」

「そうよ。 今年から例の性転換・・・」

「壱与お姉様! お食事が終わったらこの子をお借りしてもよろしいでしょうか!? これだけの逸材! 是非とも美しくさせて下さいまし!」

(さん)、はしたないですよ。 許可なら後でお取りなさい。」


 はーい、と聞き分けのいい返事をした後に食事に戻った参。 どちらも壱与にの妹であり、母の仕事のサポートと跡継ぎとなっている。


「しかし本当に男の子が女の子になってしまうなんて・・・今の状況は肩身が狭いですわね進さん。」

「ははは。 そうかもしれませんね。 でも真面目は男の子ですから。」

「あの人が生きていれば、気持ちは楽だったかも知れませんけれど。」

「そうでなかったらお墓参りに出向いてはいません。 良きも悪きもあってこその人生ですよ。 千代(ちよ)お義母様。」


 優しく悟らせる進を見ながら真面目は用意されているホットケーキを食べていた。 自分の事を言われているのは分かっていても、会話に介入するつもりは無かった。


「どうかしら真面目君。 女子になった気分は?」


 そして話を千代に振られた真面目は、口に含んでいたホットケーキを飲み込んでから、答えることにした。


「そうですね。 最初こそ戸惑いはあったものの、慣れれば自分の体なので、段々と気にはならなくなってました。 まだ不便な部分とか視線を感じる部分はありますが。」


 素直な感想を述べる真面目。 その答えに千代も弐那も参も頷いていた。


「なるほど。 前向きな意見ね。 全員が受け入れている訳じゃないけれど、やっぱり現役の答えは必要ね。」

「あれ? もしかして今仕事のアンケートされました?」


 そんなことを口にしたが、それ以上口を出しても意味がないと感じて、サラダに手を掛けたのだった。


「皆様方、お食事はいかがだったでしょうか?」

「今日も美味しい料理でしたよ。 壱与のご家族も満足しているようでしたし。」


 あれだけの料理をだされて満足できない方がむしろおかしい話だと思いながら、真面目達は用意された車に乗る。 もちろんその車は全員が乗れる程の広さを持っていた。


「あの人もわざわざ遠くにお墓を置かなくても良かったのにね。」

「父さんにも色々と考えがあったんでしょ。 別荘を欲しがってもなかった訳だし。」


 これから向かうのは壱与の父の墓のある霊園へと向かっている。 その霊園は都内にあるわけではないので、更に言えばこうして車でしか動けない場所にあるので、易々とはいけないのだ。


 そして車が走ること30分。


「皆様方、ご到着致しました。 旦那様の霊園になります。」


 架け橋を下ろして見えた景色は、外国人がやるような霊園であった。

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