遠い実家のお墓参り
真面目の誕生日の翌日。 一ノ瀬家は日が昇り始めて間もなくから動き始めていた。
「ふあぁ・・・あふ・・・」
「流石に昨日の今日では真面目も疲れは抜けきらないか。」
「そもそも出るのが早いって言うのもあるんだけどね。 でも仕方無いよ。 それだけお墓のある場所が遠いなら。 ましてや父さんも母さんも実家のお庭でしょ? 2日で行くなら時間は惜しいってやつでしょ。 ふあぁ・・・」
「理解力のある息子で本当に良かったわ。 小さい頃は寝ている間に連れていったから、目が覚めたら全然知らないところで泣いてた時期もあったっけ。 まあその一回だけだったけど。」
壱与が欠伸をする真面目を見ながら、うんうんと頷いて小さき頃の真面目の事を思い返している。 そしてそんなことをしているうちに目的地まで向かうための最初の電車へと乗り込む。
今真面目達が乗っている電車は、どれだけ駅を飛ばしても遅延なしで1時間半はかかる。 しかもその後はローカルの電車に乗り換えるため、どれだけ早く行こうが4時間はかかる。
なので始発に近い電車に乗らなければとてもじゃないが回りきることなど不可能なのだ。
そして1時間半の電車に揺られた後は電車に乗り換えるために、駅に降りて別のホームへと歩いていく。
外はすっかり都会から離れて、片田舎のような場所へとやってきていた。
そして電車に乗り換えて、外の景色から住宅がどんどんと無くなっていくのを見ながら、更に2時間乗っていく。
真面目はその景色を写真に納めつつMILEのグループへと送る。
更にローカル電車を乗り終えて駅を出ると、ここから更に歩くこと30分。
家による前にと、進は適当な仏花を買ってきてから、ようやく進の実家に到着した。
進がインターホンを鳴らして、しばらくすると、1人の老人が現れる。
「いらっしゃい。 今年も来てくれたんだね。」
「ここが僕のお家ですから。」
「そうかいそうかい。 ところでそちらのお嬢ちゃんは・・・?」
「真面目よ。 私達の息子。」
「真面目君? 嘘おっしゃいな。 どこからどう見ても女の子じゃないかい。」
「婆さん。 今や若い子達は男の子と女の子が入れ替わってるんだよ。」
出てきたお婆さんとは違う声が奥から聞こえてきた。 とにかくあがってもらい、真面目達はその声の主と対面する。
「お久しぶりです、七草さん。 今年も家を守ってくださり、ありがとうございます。」
「お前さんの両親との腐れ縁。 燃えた家の代わりに受け継いだんじゃ。 二度も無くしてたまるかいな。」
目の前で喋るお爺さんは進の両親ではない。 昔からの付き合いのあった老夫婦が、亡くなった進の両親の代わりに家を守っていると言う構図なのだ。 ちなみに夫婦の血筋の人達もそれぞれで暮らしているんだとか。
そして後から入ってきた真面目を見て、お爺さんは不思議そうにしながらも、真剣な目で見ていた。
「ワシ達の孫も、今の真面目君のようになる日が来るのだろうな。」
「そうですね。 しかし外見以外はなにも変わっていませんよ。」
「ど、どうも。 真面目です。 こんな姿ではありますが。」
「その不格好な畏まり方。 やはり真面目君で間違いないの。 茶請けを出そう。 甘いものの方が良いか?」
「いえ、どちらでも大丈夫ですので、お気になさらず。」
そう言って畳に座る真面目。 真面目は変わっていない家の状況にどことなく安心感を覚えている。
「それでは私達は。」
「うむ。 いつもの場所にあるぞ。」
そのやり取りで真面目達は次に何をするか決まっていた。 そしてまた外に出て庭に出た上で真面目達はその奥へと進んでいく。
庭の奥に進むと、そこに1つのお墓がある。 2人分の文字が掘られた墓石で、進の両親の名前が刻まれていた。 近くの花屋で買っていた花を添えた後に、水道から持ってきた水を桶から杓でかけてあげて、全部をかけ終えたらそこでお参りをする。
ここには進の両親2人が眠っている。 事故ではなかったものの寿命がそれなりに早かった。 そしてバラバラは嫌と言うことで、庭の一角に墓石を置き、その中に眠らせたのだ。
因みに真面目が産まれて3年後くらいに亡くなっているので、真面目も詳しくは思い出せない。
「僕がこんな姿で来たことに驚いてるかもね。」
「世代は移り変わるものさ。 それに私達が分からなかったことを、ご先祖に伝えるわけにもいかないだろう。」
進の「後は若い者に任せる」精神は、真面目にも安心感を覚えさせる。 仕事に対してあまり厳しさを見せない進ではあるものの、自分が表立つよりも自分の後を継ぐもの達のために動いているのだと分かった。
「進さんも進さんで色々とあるってことね。 私の方は・・・変わらないと思うけどね。」
いつも明るく振る舞っている壱与が少しだけ顔を暗くする。 壱与もこの後から実家まで移動するのだが、別に乗り気が無いわけではない。 ただ毎年会う時の気まずさが残っているだけだ。 何だかんだで壱与は繊細な人なのだ。
「さあ戻ろうか。 七草さんと少し会話をしたら、壱与さんの所に行かないとね。」
壱与の実家も遠くにあり、夜に動けば問題はない。 なので泊まる事はせずにそのままの流れで駅へと向かうことになる。
とはいえここに来るために降りてきたローカル電車は一本線で、乗り換えた駅から終点まで分かれ道がない。 更に言えば本数も限られているため、乗り遅れようものならかなり待たなければなら無いので、2日で行くなら夜行列車のようになってしまう。
しかしまた年に1回しか会えない七草老夫婦の事を考えると、そんなに急いて行く必要は無い。 その辺りを考慮するくらいに進は心は広かった。
「お帰り。 もうお参りはしてきたかい?」
「おかげさまで今回も綺麗なままになっていました。 お手入れまでしてもらい、本当にありがとうございます。」
「言ってるじゃろ? ワシ達の腐れ縁じゃと。 お昼ももうすぐ出来る。 まだすぐには行かんのじゃろ? 夕飯は早めに出しておこうかの。」
「何から何まで本当にお世話になります。」
そうして一ノ瀬一家は大自然に囲まれた家で、七草老夫婦と共にゆっくり過ごした。 もっとも真面目は今までの疲れかお昼を食べたからか、縁側ですぐに眠りについてしまったので、起きたのは夕方くらいになっていた。
「起きたか真面目君。 もうすぐ夕飯じゃぞ。 今日は山菜の天ぷらじゃぞ。」
「・・・あ、完全に寝てた・・・」
「ここに来れば大体は外に出とった真面目君が寝とったからのぉ。 綺麗な寝顔じゃったぞい。」
自分の寝顔を身内とはいえ見られるのは、少し恥ずかしさがあった。 照れ隠しのために携帯を見てみると、いくつものMILE通知が来ていて、どれもこれも景色の良さを表現したものだった。
「そっちでもよい友達に恵まれたようじゃの。」
「・・・そうだね。」
「お爺さん、真面目君。 ご飯が出来ましたよ。」
そう言って夕飯のために移動をする。 そして山菜を堪能した後はそのままの流れで駅へと向かおうとする。
「それではまた来年もお願い致します。」
「この家はワシらが守っておるからいつでも帰って来なさい。」
そうして真面目達は夜の殺風景な田舎道を歩いて、駅へとついて電車に乗りながら、外の月明かりを見ながら次なる場所へと向かうのだった。




