頑張ったからこそ
夏休みに入って三度目の週末。 真面目はいつもよりも少し遅めに起きて、朝食を食べるためにリビングに降りる。 洗濯物を干し終えたであろう壱与が真面目に気がついたようだ。
「おはよう真面目。 朝食ならそこに置いてあるわ。」
「ありがとう母さん。 洗濯物出して大丈夫? 今日は雨降るって言ってたけど。」
壱与お手製のフレンチトーストを口に入れる前に天気予報のことを言ったが、壱与は驚く様子は無かった。
「雨って言ったってお昼からでしょ? それまでに乾いていればいいのよ。 それに今日は母さんお休みだしね。」
その事についてはなんの関係があるのかと疑問に思ったが、問題がないのであれば別に気にはしない。
朝御飯を食べ終えた真面目は自室へと戻って早速と言わんばかりに鞄の中からファイルを取り出す。
「よし、課題もこれがまとまれば終わりだ。 今日で全部片付けよう。」
夏休みに入ってから約2週間が経ち、少しずつ進めてきた甲斐があって、課題も目の前にあるものだけとなっていた。 読書感想文の方もお盆休みには1日で完成させる予定になっており大変順調ではある。
「最初に苦手科目を潰しておいて良かった・・・」
最後の課題として残しておいた数学を見ながら、真面目は息を吐く。 最後とはいえ苦手科目を残しておきたくなかった真面目にとって、今の状況は正しくベストな状態なのである。 これが苦手科目なら進まなかったことだろう。
「ええっと連立方程式の解き方は、まず文字がそれぞれどうなっているかを確認して、文字でイコールになっている所はそれを代用して・・・」
ぶつぶつと呟きながら問題を解いていく真面目。 元々得意である数学ではあるためそこまで解くのにも苦労はしない。 ただ頭の中で直感的に計算は出来ても、それを文字で表すとするならば話は別であるため、シャーペンの芯はすり減る一方である。
「よし、連立方程式はこれでOK。 次は・・・」
そう言って次の問題に差し掛かろうかとした時に携帯が鳴る。 MILEの通知相手は岬である。
『おはよう一ノ瀬君。 今は何をしているところかな?』
何気ない会話の始まりだったので特にこだわりもなく簡潔に返信する。
『おはよう朝倉さん。 今は残りの課題を片付け中。 そっちは今起きた感じ?』
時計を見れば午前9時前。 休日かつ夏休みであればこれだけ遅くに起きても文句は言われない。 そんなのをお構いなしに起きている真面目も真面目であったが、すぐに課題の方に移った。 次にやるのはグラフ問題だったので、集中力を途切れさせないように配慮した。
そしてグラフ問題を終えた辺りで一度スマホを見ると岬から連絡が返ってきていたが、返信時間は今から15分程前になっていた。
『そろそろ勉強に一段落着いた? 一ノ瀬君の事だからあんまりすぐに返すと迷惑だと思ったから時間はずらした。 それとこっちも課題に取り組み中。』
そう言うことかと真面目が納得している間に真面目も返信文を入力する。
『僕は数学を終わらせれば課題は全部終わるかな。 読書感想文もお盆休み中に出来るから、あとは自由研究位だけど、もうそれも決めてあるんだ。 そっちの調子はどう?』
ちょっとだけ自信を持ってそう送信した。 どんな言葉が返ってくるか楽しみにしながら最後である関数についての問題を解いていく。
そしてそうこうしているうちに、答え合わせも終わって
「・・・やったぁ~! これで課題は全部終わったぁ!」
背もたれを存分に使って背伸びをする真面目。 背もたれの固い感触も固まった身体には丁度いい刺激になっている。 そして携帯を見てみると、岬からの返信が返ってきていた。
『私も現国で最後。 どっちが早く終わるか勝負。』
そう返ってきていた。 返しているのが今から15分程前。 ペースは分からないが、真面目の方は終わっているので、そのままの流れで返信をする。
『僕の方は終わったよ。 そっちはどう?』
そう返して真面目のお腹が鳴る。 下に降りてお昼がどうなっているのかを確認しに行く。
「あら、終わったの?」
「うん。 課題はね。 あとは自由研究と読書感想文位。」
「へぇ、頑張ったじゃない。 ご飯は食べられる? まあ食べられるから降りてきたんでしょうけど。」
「そんなところ。 お昼はなに?」
「棒々鶏よ。 食パンと一緒に食べな。」
「あれ? 食パンはこれで最後?」
「そうよ。 暑いと食パンはダメになりやすいから、また新しいのを買ってこないとね。」
確かに6枚切りならすぐには無くなるだろうと思っていた真面目であったが、そういえば今朝はフレンチトーストだったと言うことを思いだし、それは確かに無くなるよなと改めて思った。
食欲の落ちやすい夏の日は本の少しでもさっぱりしたものが食べたいと感じていた真面目にとって、玉ねぎドレッシングで食べる棒々鶏はうってつけであった。
茹でられた鶏肉に絡むさっぱりとした味わいが食欲を増進させる。 勉強終わりだと言う事もあって、どんどんと口の中に入っていく。 野菜も取れるので栄養にも困らない。
そんなことをしているうちに真面目の携帯が鳴る。 岬からの返信のようだ
『こっちももうすぐ終わる。 終わったらお昼ごはんだから頑張ってるo(`^´*)』
顔文字付きなので思わず笑みが零れた。
「なに? なにか面白いことでも書いてあったの?」
それを見ていた壱与はさぞ面白そうに真面目の姿を見ていた。 真面目が気がついた時には「忘れてた」と言わんばかりの表情をした。 そして真面目は自分の親には逆らえないと、諦めて先程の岬との会話を見せる事にした。
「これだよ。 朝倉さんからのMILEの事でちょっと面白くなっちゃったってだけ。」
「あら、可愛らしい。 隠すことでもないじゃない。」
「別に隠すつもりも無かったけど、表情でバレちゃったなら隠しても意味ないなって思っただけ。」
「素直じゃないわね。」
「今めちゃくちゃ素直じゃなかった?」
言っても言わなくても変わらないのかと真面目は思ってしまうが、それ以上何を言おうと同じだろうと思い、真面目はそのまま昼食を続けるのだった。
「さてと終わったはいいけれど、まだ本は読みきっていないんだよね。」
それならばとそのままの流れで図書館の本を読む。 内容的にも終わり際に差し掛かっているので、読書感想文の方も書けることだろう。
「来週はお盆休みかぁ。 父さんも母さんも、どういう風に休み取ったんだろ?」
パティシエでお店を兼用している壱与はともかく、本屋で働いている進がどういう風になるのかまでは分からない。 もちろん被ることは大前提であることなのは間違いではないのだが。
それに来週は真面目にとっては欠かせないイベントもあったりする。
「まあそんなに喜ばれることでもないのかも知れないけどね。 それに僕誰にも教えてないし。」
そんなことを思いながらも、誰かには伝えておいた方がいいだろうかと悩みながら読んでいるうちに日も暮れ始めて、そして玄関から進が帰ってくることが分かったので、リビングに降りることにした。
「ただいま、2人とも。」
「お帰り父さん。 来週は仕事どう?」
「ああ。 水木と取れたから、今年も大丈夫だぞ。」
「それなら良かったわ。 真面目、夕飯の準備手伝って。」
「はいはい。」
そうしてまた1日と夜が更ける前に、真面目はMILEのグループチャットにて、ある一文を書き残してそのまま眠りに付いたのだった。




