帰りも楽しく
ちょっとしたトラブルはあったものの、みんなでのプールは夕方位まで遊んでから退園する事となった。
「いやぁ、すげぇ楽しかったよなぁ! またこういった場所に来たいものだよな。」
「今日は、本当に、ありがとう、ございました、得流さん。」
「あたいのおかげじゃないよ。 でも楽しんでくれたならあたいも嬉しいな。」
バスに乗りながらそう話し合いをしていた。 帰りのバスということもあってか、すし詰め状態なのには変わり無いが、それでもちゃんと乗れているので、安心している。 荷物の方は既に上の荷物置き場に置いてあるので邪魔になることも無いだろう。
そうして真面目達の1拍2日もこれにて終了。 新幹線に乗って帰るわけなのだが、まだそれだけでは終わらないようだ。
「こうして遠出したのだから、なにか名物でも食べてから帰ろうか。 この辺りだと・・・あれとかどうかな?」
有流が指差したのは都内には相応しくないようなステーキハウス。 そこの旗に書かれているのは羊だった。
「ここは羊肉が食べられることでひっそりと有名だったりするんだ。 さあ入ろうか。」
みんなの意見を聞くことは無かったが、誰も文句を言うものはいない。 ほとんどの人が羊肉は初めての体験だったからだ。 滅多に食べられるものでもないと考えると興味が湧いてくるものだ。
流石に9人は1つのテーブルだけではどうしようもなかったので、なんとか左右の2席を使って座れるようにした。
「見て。 ラム肉の他にマトンっていうのがある。」
「違いはなんなのでしょうか?」
「ええっと、調べてみたんだけど、ラム肉は生後1年未満の仔羊、マトンは2歳以上の羊だってさ。」
「栄養価は高いってなんかで聞いたことあるぜ?」
みんな羊肉に興味が尽きないようで、どれにしようか迷っていた。
そしてようやく決まり、しばらく待つこととなった。 周りを見てみれば、量は多くは見えなかった。
「なあ、基本的に肉の量って何で決めてるんだ? やっぱりおもりか?」
「多分そうじゃない? ポンドっていうアメリカとかで使われる単位だと正確なグラム数は違ってくるし、日本人に分かりやすいならポンドはよっぽど使わないんじゃないかな?」
「今回は羊肉だから、部位的にもそんなに多くはない。 牛や豚とは違う。」
そうして話し合っている内に注文が到着する。 どれがいいのか分からなかったので、量は違えど全員が食べ比べセットにしていた。 人気メニューではあるため、ハズレではないだろう。
「これがラム肉かぁ。 なんか焼いてある割には赤い場所多くね?」
「焼き加減の問題かもね。 固すぎると美味しくなくなるのかも。」
そう言いながら真面目はフォークで身を指してから口に運ぶ。 既に切り分けられているものを頼んだので、そのままの大きさで口に運んだ。
口の中に広がる羊肉独特の風味。 牛とも豚とも違う味は、その場にいる全員が「美味しい」と感じるには十分だった。
「羊肉ってこんな味がするんだ! ちゃんと美味しい!」
「羊肉は臭いがキツいと言われてましたが、下処理もしっかりとしています。」
「本当に、美味しい、です。」
「本当に旨いよな! な、真面目!」
「確かに。 都内で有名になるのも頷けるよ。」
思い思いの感想を聞いて、有流も連れてきて良かったと心から思ったのだった。
「ふう、旨かった。」
「ご馳走さまでした。 本当に何から何まで。」
「いやいや、いいってことさ。 それよりも新幹線はもう少し後に来るから、お土産を買いに行こうか。」
そう言われながら余韻に浸りつつ駅に向かい、駅ナカのお土産屋さんに着いた。 そしてみんなが思い思いにお土産屋さんで品定めをしていた。
「ええっと、母さんにはこれがいいかな。 この味のジャムは知らないだろうし。 父さんは・・・好きっていう程甘いのは食べている訳じゃないから、こっちのコーヒー味とかにすれば食べてくれるでしょ。」
家族の事を考えながら足早にお土産を選ぶ真面目。 もちろん個別ではなく自分も楽しめるように大きい箱を選択している。 真面目の買い物はとりあえず終わりなので、すぐにお会計を済ませるためにレジに並んでいると、その後ろに岬が並んできた。
「そっちももう決まったの?」
「うちは甘いものよりこっちの方が好きだから。」
そう言って岬が見せてきたのは有名銘菓のあられ三昧だった。 どうやらそう言ったところまで和風らしい。
「一ノ瀬君も来るときに米菓買ってたから、好きなのかなって思って。」
「この買い物はお土産でしょ? まあ確かに甘いものばっかり食べていると、口の中をリセットさせたい気分にはなるけれども。」
別に食べるわけでもないので特に気にはならなかった。
そんなこんなで真面目と岬は買い物を済ませて、お土産屋さんの前で待機する。
「まだ時間が掛かりそうかな。」
「そうかもね。 一ノ瀬君。 あれ食べない?」
そう言って岬が指差したのは饅頭屋さんだった。
「あれくらいならいいかもね。 なに味にしようか?」
「私あのヨモギあんこがいいかな。」
「それなら僕は白あんのやつにしようかな。」
真面目と岬はお土産屋さんから少し離れたところにあった饅頭屋さんに歩みを寄せる。
「いらっしゃいませ。」
「あ、店員さんは若いんだね。」
「意外でしたかね。 とはいえここにあるのは作り置きですがね。 流石にご老人達をこの時間帯まで居させるわけにはいきませんから。」
「なるほど。 あ、ヨモギあんと白あんの饅頭を・・・ここに有る分下さい。」
「ありがとうございます。 それぞれ3つ。 6つで600円になります。」
「あれ? 値段が・・・」
「まあ朝からあるものですし、売れ残るよりは安く売った方が良いんですよ。」
そう言うことならと安くなった饅頭を購入してお土産屋さんに戻ると、既にみんなが買い物を終えていた所だった。
「お? なんか買ってきたんか?」
「新幹線に乗ってる時に食べるようの饅頭を買ってきたの。」
「あれ? そうだったっけ?」
真面目が岬にそんな事を言ったことに疑問を思っていたが、それ以上のことは言わなかった。
「さあ、帰りの新幹線に乗るよ。 みんないるかい?」
そう言いながら有流がチケットを渡して、新幹線乗り場のホームへと入っていく。 次の発車はまた10分後になるが、既に新幹線内の清掃は終わっていたようなので、並んでいた人達に紛れて真面目達も乗り、席を確保するのだった。
「帰りも座れて良かったね。」
そう言いながら席に着くと、その座席の柔らかさが全身を包み込む。 そして真面目と岬は饅頭を食べる。 6つあるのでみんなで分けあったところで真面目は大あくびを見せるのだった。
「もしかして眠たいの?」
「あぁ・・・今日は沢山動き回ったからかも・・・」
「あとは帰るだけだから、ゆっくりするといいわ。 疲れたのなら寝てもいいのよ。 私が起こすから。」
そう言う愛生の言葉に真面目は出発前に眠りについて、目を覚ましたのはそこから2時間後の事だった。
「あれ? みんな大分静かだね。」
「皆さん、疲れて、眠ってしまった、ようですよ。」
真面目の疑問に和奏が答えた。 どうやら和奏だけは本を読んでいたようだ。 それに見習って真面目も図書館から借りた本を降りるまで読んでいたのだった。
「ようやく帰ってきたな・・・ふあぁ。」
「さあさ、帰るまでが旅行だよ。 頑張って家まで帰るんだよ。」
「今回はありがとうございました。」
「「ありがとうございました。」」
そうしてみんなが近野一家にお礼を言った後に別れ、そのまま家まで帰る。 真面目は両親に帰りの挨拶をした後に、すぐに部屋に入り、そのまま眠るのだった。
今回で夏休み2週目の「プール編」は終わりです。
次のまとまった話の方は間話を入れてからの始まりになります。




