この姿でもあり得るのか
お昼近くまで遊んだ真面目達であったが、不意に真面目からこんな言葉が出てくる。
「たくさん動いたからかな、お腹が空いてきた。」
その言葉にみんなは柱にくくりつけられている時計を見てみる。 時刻は午後1時。 お昼にしては少しだけ遅い気もするが、あれだけ朝をしっかり食べていた真面目から出たのだから、多分本当なのだろうと思った。 そう言われれば誰かからお腹が鳴る音がした。
「一度ママ達と合流してご飯にしよ。 この時間帯なら食べ物屋さんも空いてるかもしれないし。」
得流の意見で一度近野一家を探すことになった真面目達。 朝よりも人混みが多くなり、その中で3人を探すのには苦労がいることだろう。
「あ、ようやく見つけた・・・」
結局見つけられたのは探し始めてから15分ほど経ってからであった。
「お帰り得流。 なんだか疲れてるようね。」
「ママ達を探してたからね・・・というかもしかしてほとんど動いてない・・・?」
「そんなことはないぞ。 私達も楽しんではきた。 だがここが落ち着くだけさ。」
場所が空いていれば誰かしらは座る筈なのだが、雛鳥が巣に戻るような感覚なのだろうか、誰もいなかったので、そのまま座れたらしい。
「それよりもそろそろお昼を過ぎるから、なにか買ってきたらどうかしら?」
「その為に探してたの。 もうお腹ペコペコになっちゃったよ。」
「はっはっはっ。 それはすまなかったね。 恵、一緒に行ってあげなさい。」
「はいはーい。 それじゃあ私の引率でお店に行きましょうか。」
そう言われて真面目達は恵に連れられるままに屋台のある方に歩いていく。
お昼を少し過ぎたくらいではあるものの、その人だかりは減る様子はなく、待っている人達が多く見受けられた。
「さてと、みんなどれにする?」
恵がメニューの書かれたモニターを指差して、何を食べるか促す。 もちろんその中には恵も含めて両親の分も入っている。
「それなら僕はあのいか飯を食べたいです。」
「またお前は渋いとこを行くよなぁ。 あ、俺たこ焼きが食いたいっす。 塩ダレ味。」
「隆起君も人の事言えなくない?」
そんなこんなでお昼ごはんを購入した真面目達は、有流達のいる場所まで戻り、お昼ごはんを堪能するのだった。
そしてお昼時を過ぎて、太陽が西に傾き始めた頃子供達も多い中で、真面目と隆起はプールサイドを歩いていた。 他のみんなとは少し離れている。
「こうしてお前と遊ぶ機会が増えるって、なんか悪くない気分だよな。」
隆起は真面目に向かってそんなことを言う。
「どうしたのさ急に。」
「いやよぉ。 友人とこういった場所で、ワイワイやるのなんて、去年の俺じゃ想像が付かなかったからよ。 余計にそう感じるんだよ。 特にお前とは、何だかんだで中学から知っていたからな。」
「その辺りは僕もビックリしたよ。 まさか同じ中学出身だなんて思わなくてさ。」
「そりゃそうだよな。 んでもって同じ中学の奴らは何人か見つけられたぜ。 まあ容姿が変わっちまってるから、流石に向こうも分からないだろうがな。」
「それは言えてるかも。」
そんな会話をしながら、真面目達は歩いていると、隆起がどこか落ち着かない様子になっていた。 それを隣で見ていた真面目は不思議そうに見ていた。
「どうしたの隆起君。 さっきからあちこちを見て。」
「いや、なんつうか、感じねぇか? こう、見る視線って言うのかさ。」
真面目は目配せしながらも、確かに視線を感じてはいたが、そこまで気になるようなものでもないと思っていた。
「そんなに変なことじゃないと思うよ? これだけ人が多いんだし。」
「いや、そうじゃなくてな。 この目線ってよぉ」
「ねぇねぇそこのお姉さん達。」
いきなり声がしたので何事かと周りを見渡す真面目と隆起。
「いやいや、お姉さん達だって。」
その声を頼りに振り向くと、数名の男性がそこには立っていた。 肌もこんがりと焼けているのが分かった。
「お姉さん達もしかして暇? だったら俺達と遊ばない?」
「え? いや・・・」
そう手が伸ばされる前に自分の体を引っ込める真面目。 確かに優先的に狙われる可能性があったものの、まさか本当にこんな場面に遭遇するなんて夢にも思わなかった。
とはいえ言われる前に言っておかないといけないことは分かっていたので、そのままの流れで、返事をすることにした。
「すみません。 僕達まだ高校生なんです。 ここで僕達に手を出したら、あなた達はしょっぴかれてしまいますよ?」
そう真面目は宣言した。 今のご時世、真面目達のような性転換した高校生がこういったナンパに誘われることは無いわけではない。 だがそれを承知の上で触る人もそうそういないだろうと言う考えがあった。 なぜなら学校からの通達もあり、不純異性交流は現在は厳しくなっているからである。
「えー、高校生ー? なんだよー。」
そうがっかりする目の前の男性達。 どうやら向こうは高校生よりも上の年齢、なんだったら恐らくは成人は迎えているだろう。 そうでなければこのような反応はないと真面目は思っていた。
これで向こうが諦めてくれる。 そう真面目は思っていたし、隆起も同じだった。 だが
「お持ち帰りは出来ないけど、俺達と遊ぶことだけは出来るよね?」
そう言って男性の中の1人が真面目の腕を掴んできたのだ。
「なっ・・・!?」
流石の真面目も諦めてくれると思っていたので、掴んでこられることは想定外だったのだ。
「真面目!」
「おっと、君もちゃんと遊んであげるから、心配しなくてもいいよ。」
隆起も隆起で別の男性に小柄ゆえに捕まってしまう。 このままでは本当に連れられてしまうと考えてはいるが、想定外の行動をされたせいか、真面目は足に踏ん張りが効かなかった。
「なにさ、そんなに嫌がらなくても良いじゃないか。 お兄さん悲しいよ。」
「離してください! 不純異性交流はしないにしても、無理矢理は良くないでしょ!」
「まあね。 でも少しくらいいい思いさせてよ。 こちとら去年まで女だったもんだから、ちょっと動きづらかったんよね。」
「だったらなおさらこんなことをしたら不利になることくらい分かるでしょ!?」
「だから遊ぶだけなんじゃんか。 見た目は女なんだから、俺達を楽しませるくらいはいいだろ?」
一歩も引かない男性にどうするかと思っていると、いきなりホイッスルが鳴り響いた。
「こら! そうやって無理矢理連れていこうとするのは許されませんよ!」
ホイッスルを鳴らしたのは女性のプール警備員だった。
その後男性達は厳重注意を受けたものの、プールからの出禁ではないので、また会うかもなぁと思いながら、真面目達も戻っていくことにした。
「お帰り一ノ瀬君。 ちょっと騒がしかったけど、何かあったの?」
そう岬に聞かれて、真面目と隆起は顔を見合せた後にため息を付いた。
「まだああいった人って残ってたんだなって思ったよ。」
その真面目の言葉を、岬は理解することが出来なかったのだった。




