目移りするほどの
目の前に広がるのは市民プールではあり得ないほど巨大なアトラクションの数々。 波の出るプールはもちろん、流れるプールやウォータースライダーも数多く存在する。 どれもこれも初めてのものばかりで、どれから行こうか迷ってしまう程だ。
「おおー! まじでデカイなぁ! 本当にこれを1日で回れるのかよ!」
「本当に凄いよねぇ。 景品として出た時は驚いたものよ。 これだけの数だもの、回りきれないかもね。」
ふふふと笑って見せているのは愛生。 その肌の白さはまるで太陽の光を反射しているようだった。
「とりあえず流れるプールから・・・」
『みなさん。 プールに入る前に、準備体操を行いましょう。 両手を広げて、他のお客様との距離を取り、十分に手を広げられるようにしましょう。』
得流が行こうとした矢先に、柱に付けられているスピーカーからそんな声が聞こえてきた。 どうやら準備体操の時間らしい。
「あー、残念。 入りたかったのに・・・」
「まあまあ、終わったら入れるんだから、気にしない気にしない。 さ、準備体操するよ。」
そうしてスピーカーから流れるラジオ体操と共にみんなが準備体操をしている。 そして終われば一気にプールへと走っていく人達を、後ろからゆっくり追いかけていた。
「流石にあそこまではしゃぐような子供じゃないぞ。 俺達は。」
「まあそうだよね。 一気に行ったら怪我するからね。」
「流れる、プール、は、すし詰め、状態に、なっちゃって、ますね。」
やいのやいのと進んでいた人達を見て、隆起達も一度には入らないように足を踏みとどめたのだ。
「それならちょっと並んでるのから行こうよ。 あれとかどう?」
そう言って真面目が指を指したのは大型スライダーだった。 浮き輪もファミリー用のものがあり、それにみんなで乗って楽しむのが売りらしい。
「まあ人が多いところにはちょっと遠慮したいよな。 それにああいったのって、乗るのが遅れれば遅れるほど長蛇の列が出来るだろうからな。 先に行っちまって正解だろ。」
隆起の答えに満場一致で頷いたので、その場所に移動することにしたちなみに近野一家はもう少しゆっくりしてから楽しむとのことだ。
「最後尾までそんなに並んでないね。」
「最初に来る場所じゃ無いからかもね。 そのお掛けであたい達はすぐに乗れるんだけどね。」
上へと続く階段を登りながら真面目達は今か今かと順番を楽しみにしていた。
「うわぁ。 本当に大きいや。」
得流が後ろを振り向いたのを見て、真面目達も後ろを振り向くと、そこに広がっていたのは、見渡す限りのプール施設だった。 あれもこれも人混みではあるものの、やはり楽しそうなことには変わりはなかった。
「これが終わったら次は何処に行くよ?」
「今度は個別用のウォータースライダー行こうよ! それかペアで乗るとかさ。」
次に乗るものも決めたところで、いよいよ真面目達の番になる。 並んで大体30分程ではあるものの、それでも乗れるとなればワクワクが勝ってくるものだ。
「それではみなさん。 この大きな浮き輪の出っ張りをしっかりと掴んでくださいね。 浮き輪は激しく揺れますのでしっかりとお持ちくださいね。」
係員のアナウンスと共に真面目達は浮き輪へと捕まる。
「それでは大型スライダー、楽しんだきてくださいね!」
そうして係員の力で押し出された真面目達を乗せた浮き輪は、最初に急降下から始まり、その勢いを増させるのだった。
「うわっ、うわっ、うわわっ!」
「南須原さん、大丈夫!?」
「な、なんとか、頑張ります!」
そして最大の目玉である左右に揺られながら進むゾーンへと突入して、ゆらり揺られてスライダーを下っていく。
「すげぇ揺れるな! これ!」
「あ、あたい、ちょっと酔いそう・・・」
隆起も得流も慣れない揺れに四苦八苦はしているものの、なんとかしがみついてはいた。
最後に「どばっ」と言う音と共に終わりを向かえるのだった。
「お疲れ様でした。 浮き輪はこちらで回収しますので、そのまま降りていただいて大丈夫です。」
下にいた係員に降りることを促されて、真面目達はゆっくりと降りる。 そして足が地に付いたにも関わらず、みんなフラフラしていた。
「うへぇ。 流石に良く耐えたものだぜ。」
「ちょっと、さっきはこの後スライダー行こうって言ったけど・・・流石に今は無理・・・」
「流れるプールが空いてるみたいだし、そっちに行こうか。」
「「賛成。」」
真面目の答えに隆起と得流が完全に力尽きているのを感じた真面目であった。
「やっぱりそんな簡単には流れないよねぇ。」
流れるプールは空いているとはいえ、やはりそれなりに低速なので、流れている、という感覚にはならないようだ。
「というか朝倉さん、それ足付いてる?」
「付いているかいないかと言われれば・・・ギリギリ・・・」
この時真面目は思った。 「あ、これ爪先立ちしてるな」と。
「あれだったら僕の背中貸すよ?」
「大丈夫。 泳げないわけじゃ・・・」
岬がなにかを言おうとした瞬間に別のお客からぶつけられて、そのまま流されそうになっている岬の手を急いで取った真面目であった。
「いや変に流れに逆らいたく無いんだけど。」
「強がりは良くないよ。 無理したら駄目だからね。」
「無理はしてない。」
「そう言うことにしてあげる。」
岬はメンバーの中でも軽い部類に入るため、油断すると流れるプールではすぐに流されてしまい、はぐれる可能性を感じた真面目は、とりあえず岬の手を取って、手を繋いだまま流れるプールを楽しんだ。
「そっちは大丈夫だったか?」
「なんとかね。 隆起君の方はどうだったのさ。」
「こっちも大丈夫だったぜ。 よくよく考えりゃ、俺らの中で背が高いのって真面目だけだよな。」
「確かに言われてみればそうかもね。 あたいも高い方かもしれないけど、一ノ瀬には負けてるもん。」
改めて気付かされることもあると言うことを知った真面目は、また休憩時間に入るかもしれないと、早めに引き上げて大型プールの日陰へとやってきた。
「日陰でもアチいな。 これだけで焼けちまうよ。」
「ちゃんと日焼け止め塗った?」
「それはもちろんだぜ。 な? 真面目。」
「プールに入ったから、もう一回塗らないといけないかもね。」
そんなことを考えつつも、次にのるアトラクションの混み具合を見ていた。
「次こそはウォータースライダー行こうか。 多分今なら並ぶのもそんなにかからないだろうし。」
「そうだな。 まだまだ日も高いし、楽しむだけ楽しもうぜ。」
そして少しの休憩を挟んだ後に、スライダーへとやってくる。 2人乗りのものもあったが、真面目や得流が「1人用で行きたい」と言ったため、それぞれで分かれた。
「浮き輪を使うのも良いけど、全身を使ってスライダーを楽しみたかったんだよね。」
「一ノ瀬も意外とアクティビティだよね。」
そして順番になり、真面目と得流は別々のスライダーの入り口へと案内された。
「どっちが先に着くか勝負しない?」
「ほとんど同じだと思うんだけど・・・」
そんなことを言いながらスライダーへと入っていって、かなり勢いが強くなってきたところで一番下までやってきた。
「やった! あたいのほうが一ノ瀬よりも早かった!」
「あ、それ有効なんだ。 じゃあアイスくらいなら・・・」
「ほんと!? やった!」
それくらいなら構わないだろうと思った真面目は、他のみんなを下で待ち、またプールサイドへと歩くのだった。




