みんなの水着姿
真面目は目を開ける。 カーテンは閉められている。 おそらく有流が眩しくないようにと閉めてくれたのだろう。
携帯にて時刻を見てみると午前6時になっている。 朝食の開始は7時からなので少しだけ早い。
他の人がどのくらいに起きるか分からないので朝風呂も難しい。 しょうがないので真面目は目覚めてしまった時間をどうするかを考えて、とりあえず顔を冷たい水で洗い、その後にカーテンを少し開けて借りてきた本を読むことにした。
ただ読むだけでは味気がないので、適当なラジオと共に朝の時間を過ごそうと考えた。
そして時間が少し経ったところで奧の布団が動き始める。
「・・・ん。 ・・・おお。 おはよう一ノ瀬君。 随分と目が覚めるのが早いんだね。」
「おはようございます。 早起きは日課みたいなものですから。」
寝起きの有流に対して爽やかに真面目は返す。 これ以上は邪魔にならないようにと、有流もそれ以上は追求することもなく、先程の真面目と同じ様に洗顔をしに行った。 まだ時刻としては朝食の時間ではないので、真面目は本を読み直す。
「一ノ瀬君。 そろそろ木山君も起こしてあげられないかな?」
本を読むことに集中していたためか、時間が来ていることに気が付かなかった真面目は、有流の言うように本を閉じて、隆起の布団から身体を揺さぶる。
「隆起君隆起君。 朝になってるよ。 朝御飯食べに行こうよ。」
「んん・・・まだもう少し・・・」
「駄目だよ。 ここは家じゃないんだし、朝食の時間だって限られてるんだから。」
真面目がそんな風に言うと、隆起も渋々と起き上がった。
「なんだよ・・・まだ寝てても良いじゃねぇか・・・休みなんだし。」
「これからプールに行くんだよ。 時間はあるんだから準備をしようよ。」
「ううー。 おかんかお前は・・・」
そう言いつつも隆起は顔を洗いに行く。 その様子を見て有流は真面目を興味深そうに見ていた。
「君は教育に厳しいが、その裏ではしっかりとした優しさがある。 それに気が付くのは君と言う存在がいなくなってから、と言ったところかな。」
「急にどうしたんですか? 教育論はまだ早いですよ?」
「すまないね。 少し気になってしまって。」
真面目は何を言っているのか良く分からなかった。
「それにしても朝からビュッフェって豪勢だよな。 仕込みとか絶対大変じゃね?」
「朝に提供しないといけないし、この時間帯だからねぇ。 これから来るって考えると、揃えるだけでも大変だろうね。」
「でも一ノ瀬君達みたいな人もいるから、頑張ってくれてる証でしょ。」
食事処で集まった真面目達は、岬達とも合流して朝食を食べている。 真面目が和食で隆起が洋食ではあるものの、量としては2人とも朝に食べる普通の量をあっさり越えている。
「これを食べ終えたらもう一回温泉行こうよ。 朝風呂だよ朝風呂。」
得流の言うようにこの旅館は朝からお風呂を使用できる。 朝風呂も悪くはないだろう。
「それじゃあ朝食を食べ終えたらお風呂に行こうかな。」
「そのまま出ることを想定して、荷物も持っていこう。 大きなロッカーも入っていたはずだしね。」
「これから騒がしくなりそうね。」
愛生の言うように、朝食を終えた真面目達(その後入れ替わりのように別の団体客が入ってきた)は流れるようにそのまま出られる準備をした後に温泉に入り、そしてチェックアウトをした。
「さらばだ。 俺を癒してくれた旅館よ。」
「どうしたの? 木山は?」
「多分色んなものに感謝してるんだよ。 きっと。」
別れを惜しんでいる隆起を置いていかないように連れていき、今回の目的地である大型プール行きへのバスへと乗る。
バスに揺られること20分。 真面目達はついに目的地に到着した。
「うへぇすげぇ行列。 前の遊園地の時もそうだったけど、みんな動くの早くね?」
「それだけ楽しみだったってことでしょ。 多分。」
「私達も並びましょう。」
「みんなはぐれないようにね。 ロッカールームまでが勝負だよ。」
有流のいう勝負とはなんのことだろうと思ったが、チケットを使って入るや否や、あれよあれよと人の波に流されそうになった。
「うわっ、うわっ、うわっ。」
「だ、誰かに足踏まれた!」
「しっかり地面を踏みしめるんだ! ロッカーまでもう少しだぞ!」
そうしてロッカールーム近くまで来ると、ようやくみんな解放されるのだった。
「なんでこんなにひしめき合うんだよ・・・ 一方通行の筈だろ?」
「みんな一斉に行きたいんじゃないかな。 後は着替えるだけだし。」
「凄い、人の波、でしたね。」
「でもこれで着替えられるからいいじゃん。」
「そうね。 それじゃああなた達はあっちの更衣室ね。 私達はこっちを使うから、またそれぞれで合流しましょ。」
そうして得流以外の近野一家は普通のロッカールーム。 真面目達は「性転換用」のロッカールームが用意されており、そこで着替えることにした。
「こんなの出来たのって本当にごく最近だよな。 俺達が小さかった頃こんなの無かったのにな。」
「それだけこの国が順応してきたってことじゃない? 良いことだと思うよ?」
「そうかも知れねぇけどよぉ・・・」
隆起は着替えながらに目は周りを見ている。 何故か視線がちらほらと感じるのだ。 しかもその目線は隆起ではなく真面目に向けられているので、微妙に居心地の悪い隆起であった。
そしてとうの本人である真面目はと言えば、首元で支えるタイプの水着にしたので、胸は横側からしか見えず、下もパレオで覆われているので、清楚ながらも大胆な格好になっていた。
「良いよなぁ、そのプロポーションだもんなぁ。」
「隆起君だって、フリルなんて着けてこないと思ったのに。」
隆起が来ているのはフリルの付いた水着を選んできていた。 色もオレンジで活発さが表れているようだった。
「いいんだよ。 これが一番動きやすいんだ。 とっとと行こうぜ。 男子の方は早いだろうからな。」
元々が男子なだけあって、その辺りの理解は早い。 そして更衣室を出てみんなと合流するように歩いていった。
「お、あれじゃね?」
隆起が手を振ると向こうも手を振り返してきたので、どうやらそうらしい。
岬達の着ているのは割と何処にでもある海パンだった。 後はパーカーかライフセーバーか位の違いである。 男子の水着は種類はそこまで多くないのだ。
「ごめんね。 待たせちゃった?」
そう真面目が返すも、岬達は返事がない。 不思議がった真面目は更に近付いた。
「あれ? みんなどうしたの? 何かあった?」
「真面目、それ以上近付いてやるな。 お前の今のプロポーションは思春期にはツラすぎる。」
そう隆起に言われて、ようやく喋らない、否、喋れない理由が分かった。 彼ら、いや彼女達は真面目の姿を見てなんとも言えない感情を抱いているのだ。 かなり刺激が強かったらしい。
「はっはっはっ。 青春してるねぇ。 あたいが性転換したときはこんなことは無かったもんだよ。」
「そうなんですか?」
「みんな自分の事を受け入れるので必死だったからね。 こうして遊んでる余裕はあんまり無かったのさ。」
そう言われると確かに隆起の言う通り、時代の流れなのかもしれないと真面目は思ったのだった。
「ささっ、ここで立ち止まっても邪魔になるから、そろそろプールの方に入っていこうじゃないか。」
有流の一言でみんなが移動する。 そしてシャワーを抜け出して、いよいよ真面目達は大型プールの全貌を目にすることになったのだった。




