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旅の夜はゆっくりと過ぎ行く

 受付の人に言われたように中に入った真面目達は暖簾をくぐれば、確かにもう一つ暖簾を見かけたのでそこのドアを開ける。


「どうなってる?」

「・・・普通の温泉よりは小さいけどちゃんとしてる。」

「他に人は?」

「いないみたい。」


 その一室を確認した後に、真面目も隆起もロッカーを使って自分達が持ってきたものと衣類を脱ぎ始める。


「・・・前にも見たことあったが、相変わらず凄いな。 お前のそれ。」

「・・・なにも言わないで・・・」


 隆起の目線は真面目の性格には似つかわしくない2つの水蜜桃。 何度も見られてるわけでない真面目も流石に嫌気が指される。


「よくよぅ、「胸のデカい女は馬鹿だ」って言われるけどよ、実際どうなんだろうな?」

「胸のちいさい人が嫉妬で言った言葉なのか、皮肉なのか。 どっちみちそんな確証の無い話をしても意味はないよ。 科学的根拠もないんだし。」

「それもそうだな。 別にそれで人生どうにかなる訳じゃないしな。」


 そんな会話をしつつ、仕切りのドアを開けるとそこにあった光景は、ザ・温泉だった。


「うおお。 狭いのなんか関係無い位綺麗じゃねぇか。 十分過ぎないか?」

「確かに。 これから心から楽しめそうだよ。」


 そう言いながら真面目達はかけ湯を浴びた後に、身体を洗うために洗面台へとやってくる。 おあつらえ向きに身体を洗うためのスポンジも用意されていた。


「真面目は身体だったらどこから洗う派だ?」

「その質問なに?」

「いや、女子ならこう言った会話もしてるかなって。」

「隆起君ってたまに女子に対する偏見を持ってない?」


 下らない会話もこの場でなら問題ない。 身体を洗って、真面目は更に髪の毛を丁寧に洗って(旅館だからかシャンプーとリンスも良いものがあった。)から湯船に浸かる。 温度計を見ると40.4度。 女性にしては少々熱い温度な気もするが、真面目達には関係無かった。


「ぬぁー。 たまんねぇ・・・ ここに来ただけなのに何もかもが抜けていく感じがある・・・」

「良いお湯だよね。 あ、見て隆起君。 この入浴剤疲労回復と安眠効果があるんだって。」

「へぇ。 それなら今日はぐっすり眠れそうだな。」

「明日はかなりはしゃぐだろうからね。」


 2人ともゆっくりと湯船の中に入っていく。 そうしているうちに別の女子が入ってくる。 辺りを見渡しているので、他に人がいるのかを確認しているようだ。 そして真面目達の姿を見ると、一礼だけして洗面台へと向かっていった。


「僕、この旅館がなんで人気なのか分かった気がする。」

「どう言うことだ?」

「だってこう言った区分ってまだそんなに多く無いと思うんだよね。 だから「今」に合わせた形がある方が、僕達にとっては安心出来ると思うんだよね。」

「確かに、俺もこう言うのがあってホッとしたもんな。」


 そして2人は露天風呂に行ったり、サウナに入って整ったりと、本人達なりに温泉を堪能していた。



「ふぅ・・・さっぱりしたぜぇ。」

「本当に良いお湯だったね。 こうやって人の目を気にしないで温泉に入れるって良いものだよね。」


 ホカホカの状態の2人はそのまま前の休憩所まで歩いていくと、そこに仁王立ちで風呂上がりのミルクを飲んでいる恵の姿があった。


「恵さん。」

「うん? やあ一ノ瀬君に」

「木山って言いますッス。」

「木山君ね。 2人の話は得流から聞いてるよ。 ゲーミング仲間なんだってね。」

「そうッスね。 まあ近野・・・得流さんがあれだけやってくれているのは想定外でしたが、楽しくやらせてもらっています。」


 隆起は珍しく得流の名前を言うので少し戸惑ってしまう。 しかし目の前にいるのは得流の姉であるため、そうなるのは仕方の無いことである。


「そうだ。 恵さん。 姉妹として性転換した後の生活ってどうだったのですか? 僕は一人っ子なので、その辺りの感覚を聞いてみたくて。」

「ここに来る前にも言ったけど面白くないわよ? 単に得流に少しの時間警戒されるようになっただけだし。」

「警戒?」


 家族の一員である姉に対して何を警戒する必要があるのだろうかと思ったが、考えてみればいきなり知らない男が家にいるの光景を見れば、それは幼い子供に取っては恐怖に値するのかもしれない。


「それで、得流さんが恵さんを認識したのは?」

「そうねぇ・・・1週間は受け入れてくれなかったわね。 ショックもあったけど、やっぱり嫌われるって思ったのが1番かな。 あれはツラかったなぁ。」

「年の離れた肉親がいるからこその苦悩って事ですか。 なんだかツラい思い出を語らせてしまって申し訳ありませんでした。」

「いいのよ。 今となっては笑い話だし、得流も自分がなった時は大層驚いてたしね。」


 それでもどこか罪悪感を真面目は感じていた。 もちろん家族間の問題ではあるものの、ツラかったと本人が言っているのであれば、それは謝りたくもなるものだ。


「良いお湯、でしたね。」

「うんうん。 しかも朝もやってくれてるみたいだから、チェックアウトする前にもう一回いかないとね。」

「あ、一ノ瀬さん。 木山さんも。」

「そっちも良いお湯だったと見える。 肌にほんのり赤みがあるし。」


 恵との会話をしているうちに、岬達も温泉から出てきたようだ。 なによりも肌のつやが違う。


「ふぃー、やっぱり温泉はいいなぁ。 お? みんな集まってるのかい?」


 そして別の声が聞こえてきたと思ったら、男湯から有流が出てくる。 真面目達よりも先に入り、後から出てきたので、かなりの長湯だったと見える。


「それじゃあ私達は先に戻ってようかしら。 同じ年代もの同士仲良く話でもしていなさいな。 あ、そうそう、ここは牛乳とかは買わないといけないけど、あそこのドリンクサーバーは無料みたいだから、使っちゃいなよ。」

「一ノ瀬君か木山君。 どちらかカードを持っていると思うけれど」

「あ、返した方が良いッスよね。 どうぞ。」

「ありがとう。 帰ってくる時はノックをしてくれ。」


 そうして有流と恵は先に自分達の借りている部屋へと戻っていった。


「いよいよ明日だねぇ。」


 話を切り出したのは得流。 明日はこの旅館から離れ、大型プールへと足を運ぶ。


「みんなどんなものを持ってきた?」

「そんな持ってくるものか? とりあえず水着とサンダルだな。 コンクリートは焼けるからな。」

「僕は帽子も買ったよ。 日焼けも対策は必要だよ。」

「それなら日焼け止めも持ってきた。 アロエの入ってるやつだからかなり肌に優しいものを選んだ。」


 何だかんだで明日のプールのことで華を咲かせる6人。 性別は逆転しようとも、こうした青春の1ページだけは変わらないのだ。 楽しさだけは作れないものだ。


「それじゃあそろそろ戻って寝ないとね。」

「えー? まだ早くない? これからじゃんか。」

「駄目ですよ、明日も、早い、ですから。」

「それに朝はビュッフェらしいから、早くいかないと無くなっちゃう可能性もある。」

「それは流石に無いんじゃない? 最初の分はともかく、無くなって追加される分は作ってくれるでしょ?」

「それは旅館側次第だろうな。 ま、明日のために英気を養おうぜ。 また明日な。」


 一番夜更かしをしそうな隆起からそんな言葉が出たことにみんなが驚いていた。 とはいえこれ以上の反対は無いため、みんなそれぞれの部屋に戻った。


「お帰り2人とも。 どうだったかな?」

「ええ。 明日のことを話していました。 なので僕達もそろそろ眠ります。」

「そうか。 私はもう少しだけ起きているから、電気は消さなくても良いよ。 お休み2人とも。」


 そうして真面目と隆起はベッドに潜って眠りにつく。 明日に起こる楽しみのために。

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