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 夏休みもまだ序盤だと言うのに、真面目は悩んでいた。 それも物凄く悩んでいた。


「最大の難関だよねぇ。 この2つだけは。」


 机の上に置かれているプリントの内容。 それは「自由研究」と「読書感想文」である。


 この難題に関しては真面目だけではなく、どんなに賢い生徒でも悩ませる要因だろう。 生半可な物は作れないし、何より夏休みの間が長いとは言えある程度は内容を固めておかなければならない。 ビーハンの上側クエストや生徒会の仕事よりも頭を悩ませるのだ。


「自由研究はともかくとして、読書感想文は今のうちに目処は立てておいた方がいいかな。 読む本さえ決まればそこからは借りるなり買うなりして一度私物化してしまえばいいし。」


 悩んでいるとは言え卑屈にはならない真面目は、今一度日時を確認する。 終業式からまだ1週間は経っておらず、まだ太陽が真上に来ていない午前の11時を少し過ぎた頃。 本日の予定していた目標課題は大体終っている。 行くならば今がいいだろう。


「ぐぅぅぅ。」


「・・・その前に腹ごしらえしよっと。」


 出かける準備をしつつ、リビングに行ってお昼を済ませてから家を出るのだった。


「そんなに大きくなくても、図書館にならいっぱい本はあるんだよねぇ。」


 真面目の家から歩くこと30分。 都内から少し離れた場所にある図書館は、小さい子どもはもちろん、お歳を召した人でも利用できる場所で、必ず誰かしらは利用している。 もちろん真面目もその1人だ。


「あ、そう言えば僕今は性別が変わってるから、受付の人に貸出カードを新しく発行して貰わないと。」


 真面目がこの図書館に来たのは半年前。 つまり真面目が性転換する前に一度来たきりである。 同一人物だと証明できなければ本を借りることはおろか、図書館に出入りすることも出来なくなる可能性は0ではない。

 とはいえそんなことを忘れるわけではなかった真面目は、性転換前の写真の入った学生証も持ってきていた。 抜かりはない。


 図書館内に入るとまず感じるのは涼しい風だ。 暑い外から歩いてきた真面目にとっては、気持ちよさを感じながら受付へと入る。


「すみません。」

「はい、いかがなさいましたか?」

「貸出カードの更新をしたいのですが。」

「かしこまりました。 それでは貸出カードと身分の証明できる物をお出しください。」


 そう言われて真面目は財布の中に入れていた貸出カードと学生証を取り出して受付の人に見せる。 それぞれを確認して受付の人は貸出カードを更新をするための機械へと差し込み、そして取り出してから真面目に返した。


「どうぞ。 内容は変わっていますが更新されたのが去年でしたので、また3年は更新手続きは行わなくても大丈夫です。」


 やってくれた受付の人に会釈をして真面目は図書館内部に入ると、夏休みだからか子ども達や宿題をしに来た学生達の姿が目に飛び込んでくる。 真面目もその一人なのだが、今回は本の下見として来ているので、そこまで長居をしようとは思っていない。


「さてと、どんな本を読書感想文に使おうかな?」


 読書感想文で使われる本をまとめたコーナーを見つけて、そこの本をまずは軽く見る。


「高校生用ともなると、やっぱり普通の小説は読まないよね。」


 目の前に置かれている「高校生用のおすすめ」と書かれている場所には小学生や中学生が読むような、漫画調のタイトルや表紙ではなく、どの本も今の高校生に伝えたい、メッセージ性の高いものとなっている。 その中から真面目は選ばなければならないと思うと、悩むのも無理もない。


「僕にとってのおすすめはどれだろうか。 表紙のタイトルだけじゃ分からないんだよねぇ。 だからこそ中身を読んで欲しいって気持ちは分かるんだけども。」


 著者の意図を汲み取ると本は読みやすくはなるだろうが、その感想を書けと言われても、言葉に出来るか怪しいものだ。


「あとはあれかな。 ちょっと有名な著者の本は避けようかな。 なんか誰かとダブりそうだし。」


 そう考えながら見ているが、どれもこれもいまいちイメージの沸かない作品ばかりで、読書感想文を書くには苦労をしそうなものばかりである。


「うーん。 「夢を掴むために必要な事」、「あなたの想いはちゃんと本物か」、「ペンは剣よりも強しだけど」・・・題材がなんていうかよく分からないんだよねぇ。 こう言ったのって多分話が途中から刷り変わりそうだし。」


 読書感想文にそこまで本気になるのは、真面目にとってはしっかりと著者の想いを汲み取りたいからなのだが、著者の疲れか話すことが無くなるのか、話が脱線してから戻ってくるパターンがあるのだ。 少なくとも真面目はこれを中学生の時にやられて、途中で頭が混乱した経験がある。


「んー、どれにしようか・・・」


 下見とはいえ次に来る時のためにセーブはしておきたい。 ここの図書館の貸出期間は2週間なので、みんなとの旅行の前に借りれば、移動中や宿泊中は読むことに集中できるかも知れないからだ。


「・・・ん。 これは・・・」


 そう言って真面目が手に取った本のタイトルは


「恋愛はどこまで越えることが出来るのか」


 そんなタイトルで書かれている。 内容もパラパラと見た限りでは現代日本の生活における恋愛観を書いたものだった。


「読書感想文として読むのには悪くない・・・かも?」


 今までに選んだことの無いジャンルであるため、どう言った内容なのかは未知なのだが、少なくとも今の真面目には必要な内容だと思ったので、確認だけはしておくことにした。


「借りるのは来週かな。」


 今日はあくまでも下見なので今は借りることはない。 真面目はその他にも図書館で色々と確認をした上で何を読もうか考えていた。


 学校の図書館には特に無い本もあったりするので、ただ来るだけでも色々と発見はあるものだ。


 そして図書館を出た真面目は、先程まで感じていた涼しさの欠片の無い外へと戻るのだった。


「流石に暑さは・・・いや、図書館にいたこともあって滅茶苦茶暑く感じる・・・ 家に帰る前にアイスでも食べていこうかな?」


 そんなことを考えながら真面目は家へと帰る。 そしてその間にコンビニに寄って、アイスを食べようとアイス売場に足を運ぶ。


「大きいアイスにしようかな? でも歩きながらは食べにくいんだよなぁ。 棒アイスは足りない気がするしなぁ。 なら少しでも食べ応えのあるものにしよっと。」


 そう言って真面目はチョコレートがコーティングされている棒アイスを購入して、歩きながらアイスを食べる。 溶け出す前にアイスを食べ尽くして、残った棒を持ちながらそのまま歩いていく。


「来週から本格的に夏がはじまるなぁ。」


 真面目はそんなことを思いながら家に帰るのだった。

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