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真面目の夏休みの送り方

 終業式が終わった週末。 真面目は何時ものように起きる。 昨日もビーハンをやって、ようやく上側に行くための準備が整った所で就寝して、今に至る。


「朝からカンカン晴れだぁ。」


 既に全体が昇りきっている朝日を見ながら細めた目を開ける。 そして階段を降りてシャワーを浴びる。 ルーティングは変わらない。


 だからこそ朝食にもありつけるし、なにより力が出ないのだ。


「おはよう真面目。 相変わらず早いわね。」

「あれ? 何時も和食なのに今日は洋食なの?」


 リビングに入った真面目の目に入ったのは、平日の朝食のような光景だった。 週末は和食にしている一ノ瀬家にとっては珍しい光景である。


「最近暑くなってるでしょ? お客様からさっぱりと食べられるデザートが欲しいって言われてね。 思い付いた物を作ったのよ。」

「あぁ、試作品のために違和感を無くしたのね。 確かにケーキの前に味噌汁は不釣り合いだね。」


 理由が分かればあとは普通の朝御飯なので、並べられたトーストとスクランブルエッグを食べる。 そして最後に用意された土台まで白いタルトを口にする。 口の中にやってくるのは酸味。 だが嫌な酸味ではない。 レモンとヨーグルトのそれぞれの酸味が調和されて美味しさを増している。 そして土台のクッキー部分の白さの理由は焼いた基盤の上から牛乳と卵の白身で作ったメレンゲ。 口当たりもよく、何も飲まなくても喉につっかえることはない。


「うん。 めちゃくちゃ美味しい。 甘さが控え目なのも女性受けしやすいかもね。」

「砂糖なんて使わなくても甘さは引き出せるのよ。」

「それにしても、なんで同じお店の人に作らせないで、母さんが直接試作品を作っているのさ? いないわけじゃないんでしょ? パティシエの人。」


 壱与が経営している洋菓子店は壱与が引き継ぐ形で継続はしているものの、事実的な店長である壱与が直接作ることも多くない筈なのだ。 


「まあ任せて見ても良いんだけどねぇ。 お客様の要望としてはやっぱり私が作ったものの方が食べたいんだって。 好かれるのは良いんだけど他の子達にも修行のために頑張って貰いたいのよね。 困ったものだわ。」


 やれやれと首を横に振る壱与。 どうやらそれだけ信頼されているし、期待には答えたいらしい。 身体を壊しそうな勢いを見せる壱与の頑張りではあるものの、本人にとっては良いらしいので、なにも言わない真面目であった。


「さてと、始めますか。」


 朝御飯を食べ終えて部屋に戻った真面目は、まず終業式のタイミングで貰ったファイルの中から1つを取り出して、更にその中からプリントを取り出す。

 当然学校側としても、ただ生徒が休みを取るだけでは、教育の面で良くない。 なのでそれぞれの教科から課題用のプリントがある。 真面目は小さい頃からそう言ったプリントなどの提出物は日程を分配しつつ終わらせる性格であるため、すぐに取り組むことにしたのだった。


「まずは苦手な歴史を処理してっと。 地域大会が火曜日の午前中だから、それまでには歴史と英語は終わらせておこう。 3日もあれば終わるかな? プリント的には2枚ずつだし。」


 そんなことをいいながら課題を取り組もうとする真面目。 自分が苦手な科目であるため、時間が掛かるのは分かっているので、面倒なものを残して苦しむよりも、楽なものを残して少しでも夏休みを楽しみたいのだ。 特に今年は予定が満載なので、早めに終らせることが正義であると真面目は思っている。


「ええっと一学期で習った歴史は・・・歴史の系列は縄文から弥生。 土器の模様が縄のように見えたからその名が付けられた時代。 ・・・ここに入る文面は・・・」


 歴史がそこまで得意ではない真面目は、教科書を見ながら穴を埋めていく。 やり方については追求はされていないためこうしてカンニング紛いなことをしても怒られはしない。 担任としては課題をやったことが重要なので、例え優秀なを持つ生徒でもカンニング紛いなことで終らせていても関係はないのだ。


「・・・・・・」


 真面目は集中する。 課題とは言え今までの復習箇所でもあるため勉虚も予てプリントの空欄を埋めていく。 ドアは閉められているので外部からの情報は遮断された状態。 スマホにも触っていない。 暑さは扇風機を「強」に設定してなんとかやり過ごしている。


「・・・よし。 全部埋められた。 次は英語。 この辺りはアドリブだけど単語と単語を繋げばある程度は・・・」

「真面目。 お昼出来たわよ。 一度降りてらっしゃい。」


 壱与の声に真面目は時計を見てみると、針が正午前になっていた。 それだけの時間やっていたのかと考えると、かなり集中していることが分かる。 実際にこれから英語の文を構築しようと取り組んだプリントの隣には、先ほどまでやっていた歴史のプリントが置かれていた。


 そしてリビングに入るとクーラーの効いた部屋となっていて、食卓の上にはおあつらえ向きに素麺の入ったボウルがあった。


「あんな暑い部屋で籠ってるんだから、少しくらい声をかけなさいな。 熱中症になっても助けられないわよ?」

「一応扇風機は回っていたんだけど。」

「そんなものでこの暑さを耐えられるわけ無いでしょ? 特に日中はせめてここで勉強はしなさい。」


 真面目の部屋自体はそこまで暑くはないものの、外との温度差などを考えればリビングの方がよい。 壱与なりの無茶をする息子への忠告だった。


「女性の体温は男性よりも低いって言ってたから大丈夫だと思うけどさ。」

「部屋の中でも熱中症にはなるのよ。」


 こうなった壱与の説得は不可能だと思った真面目は素麺を啜ることにした。 金属のボウルに入っているのは面倒だからではなく、ボウル全体も冷えるので冷たさが増すのだ。


「別に全部を終らせるつもりでやる必要は無いんじゃないの? まだ始まって1日目よ?」

「そうは言っても、やり終えてない方がなんか気分が悪くてさ。 まあ自由研究と読書感想文だけはどうしようか考えないといけないけど。」

「それは中盤くらいからやりなさい。 読書感想文は今のうちから図書館に行って目星付けてくればいいんじゃない?」


 確かにそれだけは読む必要があるので、時間はかかるだろう。 器の中に入っためんつゆを飲み干して、お昼を終えた真面目は、リビングを出て自室に戻って次にやろうとしていた英語のプリントと教科書と共に入ってくる。


「我が息子ながら休むことを知らないんだから。」

「それはワーカホリックの両親にだけは言われたくない話なんだけど。」


 そうは言いつつも片付けをする壱与の傍らで真面目は課題に取り組む。 そんな真面目の姿を見ながら、壱与は自家製シロップ漬けの準備をしていた。


「・・・ふぅ。 ようやく終わった・・・」


 お昼を食べて終えてから約2時間程。 途中で喉の乾きを潤しつつ真面目は英語のプリントを終らせていた。 自分の苦手分野であるものの、達成感はすごいものであった。


「お疲れ真面目。 ほら、冷やしたおしぼり。」

「ありがとう母さん。」


 おしぼりを手に取った真面目は、それを広げて目元全体を覆った。


「他の科目もそんな感じでやっていくつもり?」

「この二つよりは楽に出来るだろうけどね。 このペースならなんとか8月に入ってすぐ位には大きいの以外は終わる計算なんだよ。」

「あんまり無理してやるんじゃないよ。 1ヶ月以上は休みがあるんだから。」

「今年は忙しくなりそうだから、悠長なことも言ってられ無さそうなんだよね。 そっちも稼げるときは稼ぐでしょ?」

「学生が仕事事情に首を突っ込まない。 夕飯まではゆっくりしなさい。」

「はーい」


 真面目は気の抜けた返事をして張りつめた力を抜いていく。


 そして進が帰ってくる時間になり、何時も通りの日常を過ごす。 これが真面目の夏休みに置けるルーティングになる。


 とはいえ今年はそんなことは無いんだろうなと、寝る前に思っている真面目であった。

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