桃源生徒会長は雑技がお好き
「良かった。 まだやっていたな。」
商店街から離れ、東吾に連れられて真面目がやってきたのはカラフルなテントだった。 その外では入り口から既に並んでいるのが見える。 入り口にはピエロや着ぐるみといったキャストの人達が、入場へのおもてなしをしていた。
「これは・・・サーカス?」
「サーカスを見るのは初めてかい? それならなおのこと丁度いい。 ここのサーカスは移動式だから、期間がかなり限られるんだ。 さあ、早速観に行こうではないか!」
そうしてウキウキ気分の東吾を後ろに付いていく真面目は、同じ様に付いてきている歴に声をかけた。
「東吾さんってああいったのが好きなのは少しだけ意外に思いました。」
「あの方は自分が「面白い」と思ったことには全力で取り組むお方ですから。 資金提供にもお力添えしていますし。」
「それってあのサーカス団にですか?」
「強いていえばその通りです。 我々も行かなければ置いて行かれてしまいます。」
そうして入場券を手に入れた真面目達(支払いは全部東吾持ち)は真ん中くらいに陣取ってサーカスが始まるのを待っていた。
「最前列にはしないんですね。」
「我はお客の立場であるし、楽しむのなら、最前列よりも後ろからの方が見易い。 それに・・・」
そう言って東吾は最前列、柵に手が届くか届かないか位の場所で家族連れの観客が今か今かと待ちわびていた。
「我はああいったお客を見るのも好きなのだ。」
その一言で真面目は東吾の事が少しだけ分かったような気がした。 中崎 東吾という人物はただ上を目指す人間ではない。 上を目指した上で、更に積み上げた物を見ているのだ。 だからこそ不純物になりやすいものにも目に止まるのだろう。
紫藤の件についてもだ。 銘生徒会長が言わなかったら、いや、そもそも真面目が明るみにしなければここまでの事を被害者に近い真面目にここまでの事はしないだろう。
「さあ、始まるぞ。 団長の挨拶だ。」
サーカス会場の真ん中に立ったのはマジシャンのように赤と白のストライプの帽子とタキシード姿の男性が登場した。
「さあ、今回も我がサーカス団ZoomZooへ! 我々のサーカスはなんと言っても様々な動物達の鍛え上げられた演技になります! 彼らは我々と同じ様に喋ることは出来ませんが、理会し合うことは出来ます。」
そう語っている団長の奥の暗闇から光る眼光が見えて、そのまま飛び出して団長に襲い・・・かかること無く、飛び出して来たライオンは団長の肩に手を乗せて顔を舐めていた。
「ほらね? そんなわけで彼らの頑張りを存分に楽しんでいってください!」
そう言いながら団長はライオンの顎をゴロゴロと触りながら後ろへと掃けていった。
「ハハハハ。 相変わらず凄い信頼関係だ。 躾が徹底的にされている。 何度見ても驚愕だ。」
「あれを出し物としてやってるんですか?」
「初めて来てくれた人へのパフォーマンスだろうと睨んではいるが、最初の数回は驚かされたな。」
ケラケラと東吾は笑っている。 そのパフォーマンスをするにしても、一体どれだけの年月動物と触れ合えば可能なのだろうかと気の遠くなるような付き合いを動物達とする上で、ショーとして出せるようになるのにも彼らの理解もしなければならない。 真面目は笑わずに真剣に考えていた。
その後から始まったショーはどれもこれも普通の調教では絶対に出来ないであろう曲芸ばかりだった。
犬猫の玉乗りは勿論、猿とピエロ達のアクロバティックなジャグリング。 虎の輪投げなども色んな形で観客を楽しませてくれた。
「さぁいよいよクライマックスのお時間です! ここにいますのはメスのライオンのラメちゃん。 彼女が行ってくれるのは、なんと火の輪くぐりです!」
観客は「おおー」と歓声が上がる。 ショーの目玉に相応しい見世物だからだ。
「動物というのは基本的に炎を嫌います。 それは百獣の王であるライオンも例外ではありません。 そんな彼らが火の輪をくぐれるのか。 是非応援して上げてくださいね。」
盛り上げ方の上手な団長。 その後ろで輪くぐりの準備をしていた。 大掛かりな為に団長が気を逸らすためにやっているのだろう。
「さあ後ろで準備が出来たみたいだ。 さ、ラメ。 今日も頑張っていくよ。」
先程までじゃれていたラメと呼ばれたライオンが団長とは逆の階段の方に向かって行き、そのまま階段を上った。
「さあまずは普通の輪くぐりだよ。 GO!」
その掛け声でラメは輪くぐりをする。 それを何度か繰り返した後に、団長はラメを止める。
その瞬間に先ほど普通の鉄の輪に油を使って、その後に火が付けられる。 鉄の輪から炎の輪になり、ラメは足を止める。 その様子を観客全員が固唾を飲んで見守る。
「ラメ、 フレイム、フレンズ、GO!」
その言葉と共に、もう一度後退りをしようとしたラメは、勇気を振り絞り、火の輪をくぐった。 その行為に観客全員がスタンディングオヴェーションで拍手を送った。
「さあさあ皆さん! 今回頑張ってくれた私達のショーのみんなにご飯をあげてみよう。 触れ合いたい方はこちらにどうぞ。」
火の輪くぐりを終えた後に後ろで控えていたショーの役員の人達がバケツ一杯の野菜を持ってきていた。
「ライオンさんにもあげたーい。」
「ごめんねぇ。 まだライオンさんには危ないの。 近くで撫でることは出来るから、それで我慢してね?」
そう子供達を宥めてから人参やらキャベツの端やらを渡す。 それらを猿や象に食べさせてあげる。 そう言ったエンターテイメントも踏まえているのはなかなかにお客の事を考えていると真面目は思った。
真面目も人参を渡されて、一緒に移動していたシマウマに人参を口に運んだ。 するとシマウマもその人参を食べ始めた。
「さぁたんとお食べ。」
それは東吾も同じ様で、食べさせることを楽しんでいるようだった。
「サーカスは初めて見ましたけど、なかなか良いものですね。」
「気に入って貰えて何よりだ。 そう言うわけで我達はこれにて失礼するよ。 貴重な時間を悪かったね。」
「いえいえ、良き時間でしたよ。」
「それではまたどこかの機会で。」
そうして真面目は東吾と歴と別れて商店街を避けてから家への帰路を歩く。
「目標をどちらに置くかな・・・」
2
人の生徒会長を見て、真面目は考える。 威光を掲げて皆を導く銘生徒会長と立つものは1人で皆のここを見る東吾生徒会長。 異なる人の導き方をする2つの柱。 どちらのやり方を参照するかによって、今後の身の振り方は考えておかなければいけなくなるだろう。
「・・・あつ・・・」
だがそれは暑さによって全部吹き飛んだ。 その話はまた時間がある時にしようと思った真面目は、早く家に帰りたい気持ちにかられて、急いで行くことにしたのだった。
「ただいま。」
「お帰り。 シャワー浴びて来なさい。」
「うん。」
家に帰ってきた真面目は、部屋に戻ってからシャワーを浴びて、リビングに入る。
「気分転換はどうだった?」
壱与に聞かれたので少しだけ思い返した後に
「うん。 いい気分転換になったよ。 とてもね。」
「それなら良かったわ。 夕飯まではまだ時間があるから、それまでテレビでも見てなさい。」
そう言われながらリビングのソファに座り、テレビをつけて、その日をゆっくりと過ごしたのだった。




