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時が止まったような朝

祝! 100話目投稿!

 真面目は着替えを済ませてから岬と浅倉家内で合流をする。 岬は動きやすいようにかジャージ姿をしていた。


「本当は僕もそう言った服に着替えられたらよかったんだけどなぁ。」

「そこまでは用意していなかった、と。」

「いきなりの事だったからねぇ。 着替えなんて持ってないよ。 元々は勉強をしに来ていただけなんだし。」


 それは仕方の無いこと。 2人は浅倉家の廊下を歩いて玄関に到着し、それぞれの靴を履いて家を出た。


「浅倉さん、いつもこの時間に起きてるの?」

「違うよ? でも今日はなんでか目が覚めちゃって。」

「不思議なものだね。」


 2人が歩いている時間帯は休日なので、コンビニ以外はどのお店もやっていない静かな時間である。 忙しなく歩くサラリーマンもいなければ、仕入れを行っている業者のトラックもまだ見当たらない。


「浅倉さんのご両親はこの時間帯はまだ寝てるの?」

「仕事の開始がそもそもそんなに早くない。 でも忙しいから身体は保たれない。 だから休日は家で過ごしていることの方が多い。 名瀬さんもそれは同じ。」

「あの人もあちらこちらに行って忙しそうだもんね。」


 大人になるとはそういうことなのだろうかと、いつか自分達にも降りかかってくるんだろうという、しんみりとした気持ちになった。


「期末試験が終われば夏休み、かぁ。 あの2人程じゃないけど、やっぱり楽しみなのには変わり無いかもね。」


 真面目は変な空気になったことを悟って、無理矢理話題を変える。 岬も意図が分かったようで、話を続けた。


「一ノ瀬君がそんなことを言うなんて、ちょっと新鮮。」

「そう? 去年までは地元のお祭り行ったくらいしかしてなかったから、高校生になって行動範囲が広がるからね。 本当に楽しみなんだ。 あとは母さん達に「連れていって」って言わなくてもいいからかな。」

「・・・なるほどね。」

「そういう意味合いじゃ、浅倉さんも同じなんだと思うんだけど。」


 そう指摘された岬は、驚きつつも先程の話を聞いたらそうもなるかと思いながら、真面目と会話を繰り返した。


 あまりにも静かな場所。 喧騒とまではいかずとも賑やかさは残っている普段の光景とはまた違う風景。 まるで今は真面目と岬の2人しかいないのかと思うくらいに、日の光が照らし始める。


「流石にこの時間帯になると暑くなってくるね。」

「もう少しで梅雨明けらしいし、これからどんどん暑くなると思う。」

「既に衣替えは済ませてあるけど、日焼けしないようにしないと。」

「太陽光は敵にも味方にもなる。 注意した方がいい。」


 そして周りは頃合いかと言う具合に動き始める。 子供の声、朝御飯の匂い、車を動かす音。 止まっていたように静かだった町は、賑わいを取り戻す。


「一ノ瀬君、このまま帰る?」

「それもいいんだけど、父さんも母さんも出社してるんじゃ、流石にこの時間に帰ってもね。 また勉強するだけだと思うし。」

「それなら朝御飯でも食べに行く? 喫茶店ならどこかはやってると思うけど。」


 その提案に真面目は少しだけ思考を巡らせるが


「それもいいかもね。 澄んだ空気で朝を迎えられたわけだし、ちょっといつもとは違うことをするのも、悪くはないかな。」

「ふふっ。」


 その言いぐさになにかおかしな事があっただろうかと、真面目は岬を見る。


「ごめん。 笑うつもりは無かった。 ただ一ノ瀬君らしいなって思って。」

「僕らしいってなにさ。」


 よく分からないまま笑われたのが癪に触る真面目であったが、岬は先へと進んでいった。


「さ、行こう。 早くしないと席が無くなっちゃう。」


 そう言って振り返った岬の姿は、どこか神秘的な雰囲気がした。


「そんなに慌てなくても、席は簡単には埋まらないでしょ。」


 それでも急いでいかないと行けないと思った真面目は、岬の後を早足で追いかけるのだった。


「いらっしゃいませ。 二名様ですか? それではこちらのお席にお掛けください。」


 入った喫茶店で、真面目と岬は1つの机で対面式の席へと案内される。 周りを見てみれば既にマダム達が数組席を確保しているのが見えた。


「後数分遅れてたら待ってたかもね。」

「だから言ったはずだよ。 早くしないとって。」

「その通りだったね。」


 そんな風に周りを見渡しながら、真面目達はゆったりとした空間で過ごしていた。


「そうだ一ノ瀬君。 喫茶店に来たならなにか注文しないと。」

「それもそうだね。 ちょうど今の時間なら朝のサービスもあるだろうし。」


 メニューを開いて飲み物の所を真っ先に開く。 そうしていると店員がお水とおしぼりを持ってきた。


「本日はご来店ありがとうございます。 ご注文はお決まりですか?」

「あ、それならウィンナーコーヒー2つで。」

「それと朝のセットも両方お願いします。」

「かしこまりました。 それでは少々お待ちください。」


 そう言って注文を受けた店員は注文のメモ用紙と共に奥へと向かっていった。


「なんでウィンナーコーヒーだったの?」

「これと言って理由はないよ? 強いて言えば僕が飲んでみたかっただけ。」

「私の意見は?」

「同じものでいいよって言いそうだったから、そのままの流れでつい。」

「ふーん・・・」


 岬としても思うところはあったようだが、真面目が時間をかけずに注文をしたので、岬は文句は無かった。


「お待たせしました。 ウィンナーコーヒーと朝のセットでございます。」


 持ってきてくれたコーヒーの上にクリームが乗っており、パンの入っているバケットにはゆで卵も付いてきていた。


「それじゃあ食べようか。」

「そうだね。 いただきます。」


 そうして2人はウィンナーコーヒーの大人の味を堪能しながら、真面目の「女の子の日」の事の対策だったり、逆に男子になったことで気を付けなければならなくなった事などを話し合っていると、不意に誰かが入ってくるのを確認して、知り合いでないことを確認してを繰り返しながら時間を過ごして、喫茶店を後にするのだった。 外は既に暑さが激しくなっていた。


「うわぁ。 部屋との温度差スゴいなぁ。」

「一気に暑さを感じる・・・早く帰った方がいいかも。」

「それもそうだね。 それじゃあ僕はこの辺で。 昨日はありがとうね浅倉さん。」

「気にしないで。 ツラそうだったから助けた。 それだけの事。」


 それだけじゃないと思うんだけどと思いつつ、真面目は岬と分かれて家へと帰る。


「誰もいないから気楽ではあるんだけどねぇ。 もう少しこの痛みとは戦わないといけないし。 助けがいるっているのは、ありがたいことなんだよねぇ。 それは浅倉さんだけの仕事じゃないけどね。」


 昨日の会話や雰囲気を思い出しながら、真面目はああ言った空間も悪くはないなと思い始めている。 そしておもむろに立ち止まり振り返る。 岬の姿はないものの、やはりどこか気になり始めているのではないかと考えている。 岬の事を何故だか考えるようになり始めた。


「・・・まさかね。」


 自分がそんなことをと自分を否定するかのように思い浮かんだことを霧散させて、帰路へと歩みを進めたのだった。


 しかしこの時こそが、真面目を始めとする日常の変化を感じる瞬間だったのであることは、誰も知るよしもないだろう。

皆様のお陰でこうして100話目を向かえることが出来ました。


彼らの物語はまだまだ始まったばかりですが、作者の気力が残っているのも、皆様の暖かい、細かな声援があってこそです。


いつまで続くか分かりませんが、今後ともよろしくお願いいたします

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