ようやく会えた友人
アーケード街から帰ってきた真面目は、夕飯の準備をして、家族が揃ったところで食事を取り、テレビを見ていると不意に母である壱与に声をかけられる。
「今日は嬉しいことでもあった?」
「なんで?」
「真面目が珍しく気分が良いみたいだから、学校でなにかあったのかなって。」
母の壱与はパティシエであるため、細かいところはしっかりと見ている。 お菓子作りに妥協しない性格が、育成にも養われているのだ。
「んー・・・まあ確かに楽しいことがあったと言えばあったかな。」
「良かったじゃない。 高校生活は一度きり。 どんな形であれ楽しまなきゃ損よ。 肉体が変わってもね。」
変に勘繰りを入れないのも母らしい配慮だと思った。いい親を持ったものだ。
お風呂に入り自分の部屋に戻った真面目は、自分が学校で使っている鞄の中から今日撮ったプリクラを見た。
「青春してるよなぁ。」
そんなプリクラ内の自分の姿に、元々の姿じゃ出来なかっただろうなと思いながら、机の上に置いてから寝ることにしたのだった。
そして翌日。 昨日までと同じ様に朝を迎えて、朝食を食べて家を出て、通学路を歩いていると、昨日と同じ時間に岬と細道から出会う。
「おはよう一ノ瀬君。」
「おはよう浅倉さん。」
挨拶を交わして、同じ道で登校する。
「そういえば浅倉さん。 なんで行きはこの細道から来るの? 大通りからでも帰れるならそこから来ればいいのに。」
「あそこからの方が家からまっすぐ来れる。 帰りは流石に街灯がないから大通りから帰るけど。」
「なるほどなぁ。 ・・・昨日怒られなかった?」
「高校生にもなってそんなことでは怒らない。 それにまだ昼だったし。 夜なら連絡入れないといけないけど。」
そう考えるとある意味補導されなくて良かったと心から思った真面目であった。
そして学校に着いて下駄箱から上履きに履き替えて教室に向かう。 自分の教室くらいは流石に分かるようになってきているので、すぐに来れた。
「今日はなにやるんだろうね?」
「合同で行うって言ってたし、大きいホールみたいな場所でやるのかもね。」
「フルーツバスケットとかやるのかな?」
「それだと人数多すぎない?」
そんな他愛ない会話をしている内にクラスメイトが入ってくる。
「おはよう二人とも。 今日も早いね。」
「おはよう。 あ、ここの辺りちょっとだけ跳ねてる。」
「オッス一ノ瀬。」
「おはよう。 あれ? 昨日は髪留めしてなかったよね?」
クラスメイトであるがゆえに距離が縮まるのはそんなに遅くはなかった。 とはいえまだ互いに深くまでは踏み込んでいない辺りは、手探り状態なのだろう。
そして担任の古寺が入ってきたところで、教室は静けさを取り戻す。
「本日は体育館にてレクリエーションを行う。 対した準備は必要ないので、各自トイレ等を済ませてから体育館に来るように。」
そう告げてから古寺も体育館へと向かうために教室を出る。 それに習う形でクラスメイトも動き始める。 それは真面目も岬も例外ではない。
そして体育館に着くと結構な新入生が集まっていた。 1つのクラスで40人。 それが5クラスあるので200名弱がこの体育館にいる計算になる。 それだけこの体育館が広いということもあるのだろう。
「えーそれでは皆さん、クラスメイトとはそれなりに交流をしたと思いますが、今回は一学年の人達との交流を深めていこうと思います。 勿論その中には同じ学校だった生徒との再開も含まれています。 自分がどんな姿になったのか。 また相手もどんな姿になったのか。 それを知るきっかけにもなると思っております。」
体育館のステージの上で先生がメガホンを使って説明をしている。 これだけの人数なので、一人一人に説明をするわけ事は出来ないからだ。
「しかしいくら合同と言っても全員が動くのには無理があります。 そこでまずは男子と女子に分かれて、自分の趣味に近い議題をこちらで用意します。 自分だったらこの議題だと思うところの円に行って、その中で交流を深めて下さい。 時間が経てば男女混合で行います。」
それってかなり非効率なのでは? と真面目は思ったが、そもそも中身は性別が逆なのでこのようにしないと話しにくいのかもしれない。 先人の知恵だと思い、自分を切り替えた真面目であった。
そうして作られたお題のところに真面目は行く。 行ったのは「アニメ・漫画」のグループ。 胸元にはフルネームの名札を付けているので、名前は覚えてもらえるだろう。
「そもそも僕の中学の時の友人って誰がいたっけ?」
真面目の記憶の中で探ってみてもどうだったか覚えていない。 悪い友人を作った記憶も無いが、親しくしていた人間も数多くはない。 こんなことならもう少し友人を作っておくべきだったかと真面目の中で後悔した。
とはいえそんな嘆きは無駄なことだと考え直し、集まったメンバーに目を見張る。 真面目のクラスにもいたのだが、髪色が黒ではない生徒も多くいた。
普通の高校ならば当然禁止になっていた頭髪の着色も、今の世の中になっては、本人の意思とは関係無く色が変わるため、そこは些細なこととして、校則を緩めて最終的には無しにした。 髪色くらいで変わると揶揄されていたのは日本くらいなので。
そのグループに集まった面子を見てみると、何となく真面目と雰囲気が似たり寄ったりな生徒が多かった。 髪色や背丈、性格や表情が違えど、結局は「類は友を呼ぶ」言葉が似合いそうな感じではあった。
そんな中で中身は男子でも見た目は女子の面子に、何処から話していこうかと、みんながみんな迷っている時に、真面目は同じグループ内のメンバーの1人と目があった。
背丈は真面目の一回りほど小さいが、オレンジ色に白が入ったような髪色のショートヘアー、運動部に所属しているようなスポーティーな身体をしている女子だった。
それを見てここに来るのは意外と言うか、半ば場違いなのではと思っていた真面目だったが、そんな彼女が真面目に近付いて、真面目の胸元に付いている名札を見ていた。
「一ノ瀬 真面目・・・ もしかしてあの一ノ瀬か?」
あの、と言われても真面目は誰なのかが分からない。 真面目が首を傾げていると、相手もそれを察しようで
「俺だよ。 俺。 木山だよ。」
そう言って同じ様に向こうも名前のプレートを見せてくる。 そこに書かれていたのは「木山 隆起」という名前があった。
「木山 隆起・・・あ! そうだ! あの木山君だ!」
「思い出してくれたか?」
「うん! まさかこの学校にいるとは思わなかったよ!」
そう真面目はテンションが上がっていた。 というのも真面目にとっては数少ない中学時代の友人であり、唯一無二と言っても差し支えない程の理解者であった。
「いやぁ、実際心細かったぜ。 中学の奴らはこの高校には通おうと思っている事は少なかったもんなぁ。」
「そうだよね。 他には見つけた?」
「いや、俺とお前以外ではまだ見つけてないぜ。 女子もいるんだろうがそもそも趣味が違うからなぁ。」
「そうかもねぇ。」
2人で盛り上がっていると、他のグループ仲間からの視線が集まる。 友人と再開するのも目的ではあるが、それ以前に交流を深めるのが真の目的であるため、ここで交流を深めるのはまた別にしようと思い、真面目も隆起も声をかけ直したのだった。
とはいえ真面目も隆起も、相手とどのくらいの話をするべきか迷っていた。 漫画やアニメ、ゲーム等を語る上では色々と気を遣う部分もある。 一歩踏み間違えれば相手の地雷を踏み抜く可能性もあるので、言葉を選ばなければならないのが、苦悩するところだ。
そんな感じで付かず離れずと言った具合に話を進めていると、唐突に笛がなり始めた。
「話をすることは出来たかな。 では次は男女混合で交流を深めてもらいたい。 勿論ただ会話をしようと思っても難しいと思う。 そこでグループで混合して、こちらから出す議題で話をして欲しい。 同じグループで統合して話し合うので、話しやすいのではないかと思う。」
そう言うものかと思った真面目である。 しかし学校側が決めたことなので意見を出すわけではない。
そんなわけで同じ趣味でのグループを統合した。 ちゃんと話を出来るか疑問になりつつある真面目であった。
同性の友人登場。
全員替わってるんで、まあそうなりますよね。




