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8.王国随一の魔道士


 その日はいつもと同じように、朝早くから研究に没頭していた。


 分からないことや迷うことがあると、その都度レニに相談して助けられながら魔法道具の作成は順調に進んでいたのだ。



 そうして机にかじりついて集中していると突然、声を掛けられた。


「熱心ですね」


 声のした方をパッと見ると、私の顔のすぐ横で微笑むハニカ様を見つけた。


 美しいその顔のどアップに衝撃を受けて、思わず声が裏返ってしまう。


「あ、今作ってる道具が、も、もうちょっとで完成しそうで……!」


 もういい大人だけど、こんな美青年の顔が間近にあるようなシチュエーションにはさすがに慣れていなくて赤面してしまいそうになる。


「そうでしたか。でもあまり無理はなさらないでくださいね」

 私の慌てぶりに気づいていないハニカ様がにこやかに言った。


「え、ええ。でも、私も何か少しでも役に立てることが嬉しくて」


「リシャ様……」

 ハニカ様は何か眩しいものでも見るかのように私をじっと見つめた。



 えっ??

 私何か変なこと言っちゃったかな……?


 困惑していると、研究室の扉が開いた。


 ハニカ様がハッと我に返るように扉を見てあっという顔をする。

「所長。おはようございます」



 所長?



 目を向けると、ハニカ様の視線の先にいたのはすっかり見慣れた顔。

 いつもあの庭園で会うナジェだった。


「……!!?」


 ナジェが所長……?!

 そういえば、ハニカ様は副所長って言ってたっけ。



 顔にハテナを浮かべた私を見て、ハニカ様は首を傾げた。


「あれ? まだお会いしていなかったですか? ナイジェル・ウォード所長です」


「い、いえ、会ってますけど……」


「そうですよね、リシャ様をここにお連れしたのは所長ですし」


 ?!?!?!


 ここにお連れしたって…………あ!!


 私の脳裏に、この世界に来てしまったあの夜の街が思い浮かんだ。


 あのとき、街で会ったローブ姿のフードを深く被った長身の男性はナジェだったのか……!



 そうだ、サファイアブルー色のあの瞳!

 やっぱり勘違いじゃなかったんだね。


 ここに来てからというもの、色々ありすぎてもうすっかりあの出来事を忘れてたよ。


 点と点が繋がり納得する。




 所長ってことはつまり、ナジェが唯一この国で光魔法を使えるという王国随一の魔道士――――


 そんなに凄い人だったのね。

 あ、それじゃやっぱり敬語使わなきゃダメだよね。


「えーと、ウォード所長様」


「……これまで通りでいい」



 あ、よかった。

 いまさら敬語使わなきゃいけないなんて、すごく変な感じだもの。


 ホッとして思わずいつもの調子で話しかける。


「ナジェが所長だなんてびっくりした。てっきり変わり者の研究者だと思ってたから」


「お前には言われたくないな」


 まったく、もう。相変わらずやさぐれてる。


 でもナジェとのこんなやりとりが不思議と落ち着くのがなんだか可笑しい。



 ハニカ様は私たちのやりとりに少し驚いた表情を浮かべている。


「所長とそんなに打ち解けていらっしゃるとは思いませんでした」


「あ、よく庭園で魔法道具について相談に乗ってもらったりしているので」


「そうでしたか……」


 笑顔の中に戸惑っているような、少し寂しげで複雑な表情を浮かべているハニカ様を不思議に思いながら見つめた。


 なんだか様子がおかしいけど、どうしたのかな。

 さっきも思ったけど、やっぱり今日のハニカ様は変だ。



 そう思案していると、ふとナジェと視線がぶつかった。


 ふむ、ナジェの表情もまた複雑だ。


 ナジェもハニカ様のこと変だと思ってるのかな。

 私よりも長く一緒にいるんだからわかるはずよね。



 その日、私たち3人の間に漂っていた空気を、私はなんと説明していいのか分からなかった。


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