20.本物の求婚
「リシャにプレゼントがあるの」
レニはそう言って、仕事終わりに3階にある客間へ私を連れて行った。
そこには王宮のメイドさんもいて、部屋の真ん中には美しいドレスが用意されていた。
「えっ? 何これ?」
「ねっ! 素敵でしょ? ちょっと着てみて!」
レニは嬉々とした様子でてきぱきと私を誘導するものだから、なんとなくそのペースに飲まれてしまった。
王宮のメイドさんが、慣れた手つきでドレスを着せてくれる。
「うんうん! 髪型もこれに合わせてハーフアップにしたいね。あ、メイクも整えて」
レニは満足そうに頷きながら手早くメイドさんに指示を出す。
あっという間に飾り立てられた私は、ぽかんとしたまま姿見の前に立たされた。
なんて、素敵なドレス……!!
繊細な白いレースが幾重にも重なったこのドレスは華美すぎることもなく、儚げな印象が引き出されて美しさが際立つ。
小さなサファイアブルーの宝石が繊細に施されているので、動く度にキラキラと角度を変えて輝いた。
すごい……。白が基調となったドレスに施された宝石は、まるで夜空に浮かぶ星みたい。
「すごい素敵……!」
「ふふ」
「……でも、こんなに高価なもの頂けないよ」
「まあまあ、そう言わずに。とっても綺麗よリシャ」
感激しつつ鏡の前でクルクルと動きながらドレスを眺めていると、突然ノック音がしてハニカ様の声が聞こえてきた。
「リシャ様いらっしゃいますか?」
メイドさんが扉を開けると、ハニカ様が急いだ様子で入ってきた。
「所長が少し具合が悪いようで、リシャ様をお呼びです」
えっ?少し前に執務室で王太子殿下と大きな声で元気に話していたような……?
頭が『?』で一杯になっていると、レニとハニカ様が「早く、早く」と促し、私は客間を出て廊下を少し歩いた先の部屋に連れて行かれた。
あれ、この薄暗い空間は見覚えがある。
二人に手を引かれて、見覚えのある石の円盤の中央に立たされると同時にハニカ様から魔力が発動した。
あっ、と思う間もなく石の円盤はスーッと上階へと向かう。
徐々に登って行く瞬間に下の方からボソボソと呟いている音が聞こえてきた。
「副所長……さっきの芝居は流石に無理があるんじゃ」
「レニこそ、今からそんなに涙ぐんでいてどうするんですか」
ゆっくり登っていくその空間に「ふふふ」と二人の笑う楽しそうな声が響いた。
またいつものレニの呟きタイムだったのかな。
私はなぜだか心がくすぐったくなった。
最上部について、扉まで歩くと解錠されているのが分かった。
扉を開けると綺麗な夜空に浮かび上がるようにして、ナジェが立っている後ろ姿が見えた。
近くまで行った私を、彼は振り向き優しい笑顔で迎える。
普段着ているローブではなく、正装用の金色のローブを着込んでいる。
王宮の特別な儀式でほんの数回しか見たことがなかった衣装だが、とても美しくて、神々しくて、彼の強さも繊細さも全てが引き立ち、私はこれを着ているナジェが大好きだった。
そんな感動を悟られるのが少し恥ずかしくて、私は彼の隣に並び夜空を見上げてはしゃぐ。
「今日も綺麗……!」
ここから眺める満天の星は、本当に息を呑むほど美しい。
「お前の方が何千倍も美しい」
ナジェはそう言って、私を揶揄うような甘やかな瞳で見つめながら、私の髪を一房掬い取り唇に当てた。
あ、ちょっと揶揄ってる。
いつかの夜会やお茶会の日のことを思い出す。
「もう」
私は照れ笑いをしながら少し咎める。
「本当だ、よく似合ってる」
そう優しい笑顔で囁かれると、ときめきの感情で包まれた私はもう何も言えない。
彼は続けて、美しく少し真剣な顔で私に告げた。
「空に一番近い場所で、幾千もの星が見える場所でお前に伝えたい」
ああ、そうか、と私は納得した。
サファイアブルーの綺麗な宝石がさりげなく施されたこのドレスは、ナジェがレニに頼んで用意してくれたんだ。
この大切な時のために。
そう思った瞬間、ナジェは私の前に跪き美しいサファイアブルーの瞳を輝かせながら私を見上げた。
その顔はいつもに増して、精悍で美しい。
私は息も止まりそうなほど、心が震えた。
ナジェは袖からサッと小さな箱を取り出しそっと開ける。
そこには一粒の宝石が乗った指輪があった。
宝石は美しく透き通り、まるで空に浮かぶ星のように輝く。
“お星さまみたいな宝石の指輪”
「俺はこれまでお前の色々な顔を見てきた。その全部が愛おしい。だけど、一番好きなのはお前の笑顔だ。これからも、その笑顔を俺が守りたい。一生をかけてと誓う」
彼のサファイアブルーの瞳に宿った熱が煌めく。
「リシャ、俺と結婚してほしい」
「……はい!!」
感極まった私は、なんとか声を振り絞って精一杯の笑顔で答えた。
すると、ナジェは立ち上がって私の手を取り左の薬指に指輪をはめて、私を胸の中に優しく抱き寄せた。
彼の優しい顔を見上げると、私は堪えきれずに涙がぽろぽろと頬を伝う。
「もう絶対に泣かせないとあの時誓ったんだが……」
珍しくナジェはオロオロした様子で、私の目元を壊れ物に触れるかのように親指で優しく拭う。
「これは嬉し泣きだから大丈夫」
私たちは顔を見合わせてふふっと笑い、自然と近づいた。
彼は一度軽く唇を重ねてから、私の存在を確認するかのように優しくそっと私の顔に触れて、また深く口づける。
私はこみ上げる愛しさと幸福感に包まれて、彼からの愛情を受け続けた。
ずっとこうしていたい。
私は彼の背中に手を回し身を預ける。
そんな私の思いを読み取ったのか、同じ気持ちだったのか、彼も私を決して離さず、そのまま長い長い口づけを交わした。
そのまま、夜の星に溶けてしまうほど長く、甘く。
☆ここまでお読みいただき本当に、本当に、ありがとうございました!
お読みくださった全ての皆様に感謝申し上げます。
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