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18.親心と子供心


 その日は気持ちのいいお天気で、私とレニとミレイの3人は庭園のテラスでランチをすることにした。


 正直言って、今の私にはミレイといるのは少し気が重い。

 だけど、そんなことを言ってレニにこれ以上心配をかけることもしたくない。


 今日も、他の用事を理由に断ろうとしていたら、ミレイが悲しそうな顔を向けてきた。


「たまにはリシャさんとお話ししたいです〜」


 そんな風にウルウルした瞳で懇願されるとどうにも断れない。

 私が避けていることに少し気がついているのかも。


 しかしなんで、いつもこの子のペースに飲まれちゃうかなあ、私……。




 私たちは食堂から仕入れて来たサンドイッチと飲み物をテーブルに広げて席についた。


 ピクニックみたいでなんだかちょっと楽しい。

 ナジェとハニカ様も誘えばよかったかな。


 あれからナジェとはなんとなくぎこちなくなっていた。


 というよりも、彼が忙しいことを理由に私が避けているだけなのだけど……。



「所長たちも誘えばよかったね」

 レニは気持ちよさそうにぐーっと伸びをしながら同じようなことを言う。


 みんなで和やかに笑いながらサンドイッチに手を伸ばした。




「そうですね〜、お父様も最近はやっと忙しさが落ち着いてきたようですからねえ」

 ミレイはサンドイッチを手に取って、いつものようにキラキラとした瞳で言った。



「「おとうさま??」」

 私とレニがサンドイッチにかぶりつこうと口を開いた瞬間に、聞き慣れない呼称が聞こえてきたので、びっくりしながら思わず同時に聞き返していた。


 い、今、ナジェのことを言ったの?!



「はい、色々と私が相談に乗ってたことも、ほぼ整ってきたようですから……」

 言いながらミレイはチラッと私の顔を窺うように見てから、ぽっと顔を赤らめて言葉を濁す。


 ん?ナジェがミレイに何かを相談してたの?

 それにこの反応って一体、な、何……?



 レニが片方の眉を上げて、不審な表情で尋ねる。

「相談?」


「ええ、私が専門学校で勉強していたことが、お父様の役に立つようで〜」



 ナジェが何を相談していたのかはとても気になるところだけど……それより『お父様』って何?!?!



 レニも訳がわからないといった風に頭を抱えながら言う。

「あ、あのさ、それで『お父様』って何?」



「はい〜、パドラス国を移動する道中で色々話していて思い出したんです〜。私の父はナイジェル様にそっくりなんです〜」


「「えっ?!?!」」


 また同時に叫んで、私もレニも握っていたサンドイッチの具をぽとりと落としてしまった。

 料理長渾身のスペシャルサンドだったのに……!




 そうして、ミレイの両親が小さな頃に離婚したことや、お父さんがハーフだったこと、その影響から幸せな結婚に憧れてウェディング関係の専門学校に通っていたことなどを聞いた。



「それで、ナイジェル様が気づいたんです〜。私はナイジェル様を父の面影と重ねているのだろうって」



 !!!



 なるほど!確かにナジェって落ち着いているからものすごく年上に見えるときがあるものね。




 ていうか私、ミレイのお母さんとの方が年が近いのね……。

 その事実に若干の衝撃を感じつつも、私はものすごく腑に落ちた。


 確かに、ミレイって何言われても、どんな行動を見てもどこか憎めなくて、なんだか危なっかしくて、時々心配で…………そう!スピン!


 スピンに対する感情と似ていた!


 3人でギルドに行ったあの馬車の時間は、なんだか家族感があって楽しかったんだ。

 

 私がミレイに対する感情も、彼女が私に向けてくる好意も、私に敵意を持たないナジェに対する距離感も、色々なことが腑に落ちた。




 あ!それが分かったから、ナジェはミレイに怒らなくなったんだ……!


 ってことは、最近私がショックに感じていた、ナジェのミレイに対する言動は全て子供に対するような慈しみ的な行動だったということ……?!



 それに気づいた瞬間、私はすごく恥ずかしくなった。

 と、同時に、心の底からホッとした。


 年下の可愛い女の子に落ちてしまったわけではなかったんだ……!





「あ! お父様〜」


 ちょうどそこへ、ナジェがやってきた。


「楽しそうだな」

 ナジェは私を気遣うような優しい瞳で言う。



 レニが興奮したような様子でナジェに言った。

「今、ミレイのご両親の話を聞いてたんです!」


「ああ、母上もさぞ大変だっただろう。俺も親の気持ちがなんとなく分かった」


「なるほど、所長も子供だと思ってたんですね。それなら納得」

 レニはうんうんと深く頷いている。


 私も思わず同意する。

「確かに私もそんな気持ちだった……! 子供がいたらこんな感じなのかな?」


「いや、子供なら俺はお前に似、」

 私にそう言いかけてから突然口を押さえて、ナジェは顔を赤くしている。


 『お前にに』ってなんだろう?

 


 あ、あれ?!ナジェの顔が赤い!

 何でこんなに焦ってるんだろう。こんな反応珍しい!

 しかも、可愛い……!



「い、いや、なんでもない。じゃあな!」

 そう言って彼は慌てて何処かへ行ってしまった。

 なんだったんだろう。




「お前に似た子供が欲しいって言いたかったのね。ふふ」

 レニはぶつぶつ呟きながら微笑んでいる。


「レニ?」

「あ、はいはい」



 レニはふふふ、と笑ってまたぶつぶつ言っている。

 そういえばレニの呟き、最近見てなかったなあ。


 そんなことを思いながら、私は久しぶりに穏やかな気持ちでサンドイッチにぱくっとかぶりついた。


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