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13.守ってあげたい


 私は仕事が終わってから、食堂のメイドさんに頼んでナジェの好きなお茶を用意してもらった。


 今日は遅くまで仕事してるって言ってたから、これで気分転換してもらおう。


 用意してもらったお茶のセットを、こぼさないように慎重に抱えて執務室の前まできた。


 ノックをしようとすると、ちょうど扉が開く。

 そこにはナジェが立っていた。



 驚く私に彼は優しい笑顔で言う。

「リシャの足音がした」



 ナジェは私を招き入れて、ソファに座るよう促した。


 机を見ると、書類が山のように積み重なっている。



 うわ、出発までにこれ全部片付けないといけないんだ。

 改めて、ナジェの置かれている責任や立場を再認識する。



 私はソファを断り、ナジェにそのまま仕事を続けてもらうよう言った。



 お茶だけ淹れて帰ろう。こんなに大変なのに、邪魔するわけにはいかない。


 仕事を続けるナジェの傍でお茶を注ぎ、カップをそっと机に置いた。


 ナジェの座っている椅子の隣に立ち、仕事している様子を眺める。彼はサラサラとペンを動かし綺麗な字を書き続けている。



「すごいね、これ全部やるの?」


 ナジェはちょっと笑って言う。

「手伝うか?」


 う、難しそう……。


 私は愛想笑いをしてごまかした。



「3日後の出発までに片付けないといけないからな」



 そうだ、3日後にナジェは出発してしまう。

 たったの1ヶ月ほど会えないだけなのに、私は急に寂しさを感じた。




「1ヶ月って長いね……」

 書類を見下ろしながら、思わず声に出てしまった。


 ナジェはペンを持つ手をピタッと止めて私の顔を見上げる。

「そうだな」


 今の私たちには1ヶ月という時間は長すぎる。



「一緒に連れていきたかったけど、聖力のないお前には危険が伴うからな」


 そう言ってナジェはペンを置き、クルッと椅子ごと私の方へ向き直り、私の顔を見上げて手を取った。


「少しの間、我慢だな」

 そう言って、寂しそうに笑っている。



「変な男には気をつけるんだぞ」

「ん、大丈夫」

「リシャは隙がありすぎるからな」

「そんなことないよ!」

「そうか?」

「ナジェこそ天然女子に気をつけてね」

「俺は問題ない」

「だって、男の人は年下の女の子に弱いっていうから……」


 私がごにょごにょ言っていると、ナジェはキラッと目を光らせた。


「誰がそんなこと言ったんだ?」

「い、いや誰ってわけじゃないけど」

 私は目が泳ぐ。


「……あいつの言うことなんかいちいち真に受けるな」

「ち、ちょっと心配になっちゃっただけ」



「俺のことだけ見てくれ……」

 そう言ってナジェは縋るように私を見上げる。



 こんなに弱気になっているナジェの姿なんて初めて見るかもしれない。



 物凄い実力があって、高い地位と権力を持っていて。

 自信に溢れて堂々として、何をしても完璧で、いつも先回りして私のことを考えてくれる彼が、こんなに不安になっている。



 

 私は、いつも守ってもらうばかりだったよね。


「今度は私が守るからね」

 なぜだか口から自然とそんな言葉が溢れて、座っている彼をそっと抱き締めた。


 彼は一瞬ビクッと体を震わせてから、私に身を預けるようにそのままじっとしていた。


 少しの間、そうしてからナジェは立ち上がり今度は私を抱き締める。

 私はあっという間に彼の大きな胸に包まれた。



 こんなに大きな身体なのに、ナジェは不安を抱えてるんだ。

 いつも私を守ってくれる逞しい彼が、それほど怯えている様子を見て愛おしさが湧いて来る。



 守ってあげたい。

 それには私だって、もっともっと強くならなければ。


 私は彼の大きな背中に手を回し、心の底からそう思った。


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