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10.年上の余裕


 ギルドで魔法石を仕入れて聖女用の魔法道具を作ってからというもの、そのおかげもあってかミレイはさらに聖女としての能力を上げていっているようだった。


 ナジェとの魔法レッスンも順調に進んでいるようだ。



 すごいなあ、ミレイは。私なんか、何の役にも立っていないというのに……。



 私、このままでいいのかな。ミレイが聖女として活躍していけば、聖力を持たない仮聖女の私のいる場所なんてあるのだろうか。ふと不安になる。




 せめてもうちょっと勉強しなくちゃ……!


 そんな焦りもあって、私はまた王宮の図書館に来て、ゲルマーさんの本を読み漁り研究に余念がない。



 すると、私が座っている席の近くにある本棚の向こう側から、ヒソヒソと話している人たちの声が聞こえてきた。



「新しく来た聖女、可愛いよな〜」

「しかもすごい聖力を持ってるらしいな」

「ってことは所長の結婚相手はその聖女になるのか?」

「あり得るかもな」

「じゃあこの前の聖女どうなるんだ? 恋人なんだろ?」

「やはり力には抗えないだろうな」

「それなら俺、狙ってみようかな。前の聖女も結構可愛いよな」


 楽しそうにワイワイ話しながら、彼らは出て行った。




 なんかこのパターン聞き覚えがあるんですけど!(怒)



 ほんとにここの若い文官さんたちって噂好きよね……。

 好き勝手言っちゃって。もう!


 もうそんな噂話にいちいち反応しないもん!

 ナジェは私のことちゃんと大切にしてくれてるもの。

 そう自分に言い聞かせて冷静さを保つ。



 …………大丈夫だよね?




 そんなことをぐるぐる考えていると、近くの本棚の陰から突然アーサー殿下が顔を出した。


「ここの者は結構好き勝手言うんだな」

 

 わっっ!!よりによってこの人にも聞かれてたなんて……!


 そういえばミレイのことで頭がいっぱいでこの人のこと忘れてたけど、まだいたのよね。


 色々と交渉内容が多くて、陛下たちが今回の滞在は長くなりそうだっておっしゃっていたっけ。




「ショックだったのか?」

 ニヤッと揶揄うように笑って言う。


「べ、べつに! 全然!」

「ふーん」

「そんなことより、隣国の王子様がこんな所で何してるんですか?」


 口に出してから不思議に思った。本当にこの人何してるんだろ。

 疑問に思い、ふとアーサー殿下が手にしている本に視線を落とす。


 すると、アーサー殿下はその視線を避けるようにサッと本を隠した。


 ?



「新しい聖女は相当な聖力の持ち主らしいな」

「あ、そうですね。かなりすごいと思いますよ」

「ほう、余裕だな」

「いえ、全く。人生でひと回りも年下の女の子にヤキモチ妬く日が来るなんて思いませんでした」


 アーサー殿下はハハッと笑ってからピタッと動きを止めた。


「ん? ひと回り?」


「あ、はい。私30歳だもの」


「そなたは5歳も年上だったのか」

 アーサー殿下は目を丸くしている。


 あら、アーサー殿下はナジェと同い年なんだ。


「はい」



「それにしてはガキっぽいな」


 むっ。


「大人の色気がまるでない」


 っく……。



「あら、あなたがお子様すぎてわからないんじゃない?」

 私はムキになって答える。



「そうか? 俺は割と大人だと思うが」

 そう言ってアーサー殿下は私のすぐ傍までやってきて、片手を机の上に置き、もう片方の手で私の顎をつまみ熱のこもった瞳で私の顔を覗き込む。



 だ、だめだ、この人、色気がありすぎる。

 この美しい顔は、刺激が強すぎる。




「と、ととと、とにかくミレイはすごいってことです」

 私は赤面していることをごまかすように慌てて言った。


「そうか」

 アーサー殿下は少し笑って手を離した。



「私にはそんな能力ないからなあ……」

 私は思わずぼんやりと呟く。


「えっ?」

 アーサー殿下はびっくりした様子で私を見ている。



 あれ?

 ……!!やばい!!!余計なこと言っちゃった…………!!



「あっ、そこまでの、能力はないからなあ」

 私は慌てて言い直した。



「何を言い直してる」

 アーサー殿下は白けた表情で私を見下ろしながら言う。


 彼は少し考え込むような仕草をしてから、ふと私に向かって呟いた。

「そなた……もしかして、聖女の力がないのか?」


「い、いや、」

 

 ど、どどどどど、どうしよう。もう誤魔化しようがない。



 バレちゃった…………。


 私は今後のことを考えて青ざめた。こんな余計なことを言ってしまって、国王陛下に怒られてしまうかもしれない。



 レニやハニカ様からも口酸っぱく言われていたのだ。聖女の情報は国家機密にも値するのだから、やたらに情報を渡してはならないと。


 いくら友好関係を築いているといっても、何がどうなるかわからないというのは、多くの歴史が語っているところよね。


 怒られるだけで済めばいいけど……。わーん怖いよー!




「そうか、そなたは聖女の力がないのか……」


 アーサー殿下は顎に手を当てて、噛みしめるように呟いている。

 その横顔はなぜだか安心しているようにも見えた。



 も、もう。何度も言わないでよ。好きで無能なわけじゃないんだから。強調されるとさすがに落ち込むじゃない……。




 そんな落ち込んだ暗い表情の私と、なぜか嬉々としているアーサー殿下との間にはかなりの温度差があったと思う。


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