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8.年下の女の子


 ミレイが来てからというもの、研究室では聖女の聖力がどれほどのものかを日々検証していた。


 すると、ミレイは相当な魔力量を保有した聖力の使い手だということが判明したのだ。



 実際に私も近くで見て感じたその聖力は、並々ならぬものであることを肌で感じ取ることができた。


 彼女の力は70年前に召喚された聖女様に匹敵するほどのパワーの持ち主であることが、魔道士たちの力によって確認されたのだ。




 す、すごい……。




「これだけの力をお持ちならば、魔法の扱い方をきちんと習得しないといけませんね」

 ハニカ様は真剣な面持ちで呟く。


「私が彼女にレッスンをいたしましょう」

 ハニカ様は私とナジェを見ながらそう言う。彼は、ミレイの振る舞いを見て、私たちを気遣ってくれているように感じる。いや、きっと私を、だ。




 それにしても懐かしいなあ、ハニカ様の魔法レッスン。

 私もここに来たばかりの頃は、初歩の初歩を習っていたのよね。


 いつからか、その役割はナジェが担ってくれて、さらに今となっては「俺の傍にいるんだから、お前は魔法を使うことなんてしなくていい」って言って、それすらなくなった。


 確かに、私の魔力量では要請道具を作るお仕事で手一杯だから、それ以外は彼に甘えっぱなしだ。





「私はナイジェル様に教わりたいです〜」

 ミレイは瞳をキラキラと輝かせてナジェを見つめる。



「う〜ん、そうですね、副所長。聖女様に魔力の扱いを指南できるのは、唯一の光魔法の使い手である所長しかいません……」


 そう言ってレニは、続けて「私に光魔法が扱えれば……」と呟きながら、うっ、と悔しそうな表情をしている。




「確かにそうだな。こればかりは俺がやるしかない」

 ナジェは頭を抱えながら、仕方なさそうに呟いた。



 それを聞いたミレイは、ナジェに近寄り嬉しそうな顔で言う。

「はい! よろしくお願いします!」


 浮かない様子で話し始めるナジェの言葉に嬉々として耳を傾けるミレイを尻目に、私は自分のブースへ戻り通常業務を続けた。



 潤んだ瞳でナジェの顔を見つめながら、嬉しそうに彼にひっついているミレイの様子を見ると、その若さがなんだか眩しく感じたのだった。




◇◇◇




 それからというもの、訓練の成果もあり、ミレイは聖女としてのスキルを順調に上げていっているようだった。天然だけど、さすがに頑張り屋なだけはある。




 だが、それ以外に関しては、あまり褒められたものではないようだった。



 ナジェは私以外の女性に触れられることを極端に嫌がる。そのため、うっかり彼に触れてしまうミレイがよく怒られているシーンを目撃した。


 それでもミレイはいつもニコニコ笑って堪えている様子はない。


 あの子って実は結構、忍耐力のある強い子なのではないだろうか。



 何かというとナジェの傍にひっついているミレイは、今やエメラルド塔でもそのキャラクターが受け入れられつつあり、ナジェの隣にいることはもうすっかり当たり前になっていた。





「若い子って積極的ね」

 私はぼんやりと呟く。


「リシャ、そんな言い方」

 レニは思わずといった感じで苦笑いをした。




「大丈夫、分かってる。ナジェにだって立場というものがあるもの」


 聖女を……しかも、あれだけの力を持った能力者を無下に扱うなんてできるわけがない。


 恋愛目当てにアプローチしてくるその辺の貴族令嬢とはわけが違う。



 分かってる。だからイライラなんてしないよ。

 私は年上だもの。

 ヤキモチなんて妬いてないよ。


 悲しくなんてないよ……。



 それに、ミレイには悪気なんて一切ないことも分かっているもの。


 そこにあるのはただ純粋な好意で、なぜかミレイからは、私に対する嫉妬心とか、私から奪ってしまおうとか、そういった邪な気持ちが全く感じられないのだ。




 う…………。


 でも正直、さ、さみしい…………。




 レニは困ったような、慰めるような表情で私を見つめる。


 そんな顔を見ていると、なんだか少し反省してしまう。

 あんまり心配かけちゃダメだよね。


 やっぱり、こんな風にいつも私のことを気にかけてくれる彼女には、不安な胸の内を見せてはいけない。

 



「ふふ、大丈夫!」

 元気におどけて見せて、私は止めていた手を動かした。


 今日もノルマがまだまだ残ってるし!頑張るぞ〜!







 そうこうしている内にあっという間に夜になり、気づけば今日も最後まで残っていたのは私だけだった。ああ、もっと有能になりたい……。



 疲れ切って思わず机に突っ伏した。



 あー部屋に戻らなくちゃ。甘いものでも食べたいなあ。料理長に何かおねだりしてみようか。


 そんなことを考えてそのままぼーっとしていると、2つの足音が聞こえてきてその足音は研究室の中に入ってきた。


 片方の足音はナジェだと分かったけど、もう一方は誰だろう。



 私は机に突っ伏しながら、ミレイかもしれないと思う。

 今は二人の並んでいる姿を見たくないな、と思いそのまま寝たふりをしてしまった。



 ナジェは眠った格好の私に気づいたようで「疲れたんだな……」と呟いたのが聞こえてくる。




 次の瞬間、ハニカ様の小さな声が響いてきた。


「所長、リシャ様をこれ以上不安にさせたら私も黙っていませんよ」




 あ、一緒にいたのはミレイじゃなかったんだ。



 そーっと目を開けて二人の様子を窺い見ると、ハニカ様は相変わらずにこやかだけど、少し鋭さを感じさせる雰囲気が漂っている。


「私は、お二人のそんな姿を見るためにこの心を諦めたわけではありません」


 ナジェがいつになく気圧されているようだ。


「ああ、ユリウス。分かってる」




 気まずい沈黙が辺りを包む。

 う、どうしよう、起きるタイミングを失っちゃった。


 悩んでいるうちに、私は体力的にも精神的にも疲れが溜まっていたせいか、本当にそのまま眠ってしまったのだった。


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