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5.予兆


「つ、疲れた……」


 私は思わず独り言を呟く。


 ここ最近は、アーサー殿下が公式訪問していることもあって王宮中が慌ただしく、その影響でエメラルド塔も毎日多くの魔道士が駆り出されている。


 ナジェはもちろんのこと、レニとハニカ様は貴族という立場もありいつもの倍以上、忙しく動き回っている。



 おかげで研究室に残った魔道士たちは、日々増える要請道具の作成に追われているため、毎日のノルマがかなりきつい。


 いつものように、ついつい他の魔法研究に夢中になっていたら、今日のノルマを達成するのに時間がかかってしまい、気づけば研究室にいるのは私一人だった。




 机に突っ伏してぼーっとしていると、研究室の扉が開いた音がした。


 あまりの疲れに起き上がれずにいたが、こちらへ近づいてくる足音に私は安心感を覚える。


 この音はナジェの足音だ。



 ここで魔法の研究をするようになってから、自然と五感が研ぎ澄まされたのか、最近の私は物凄く耳が良くなっていた。


 遠くで鳴っている音を聞き分けたり、集中すれば特定の音だけを拾う、なんていう芸当もできるようになりつつある。



 そんな私だから、ナジェの足音だけはしっかりと聞き分けられるようになったのだ。


 これは愛の力かな♡



 なんて考えていると、突っ伏している私の視野に入るようにナジェが顔を覗き込んできた。


「大丈夫か?」


「うん、疲れた〜」


 甘えたことを言う私にナジェは思わず顔を綻ばせて、私の頭をぽんぽんと撫でる。

 私はすぐさま安心感に包まれる。





「少しデートしないか?」


 えっ?デート?

 一緒にいられるの?


「するする!」


 私は嬉しくなってバッと顔を上げて起き上がる。

 ここのところ忙しいナジェとは、一緒にいられる時間がろくに取れていなかったのだ。



「では行こう」

 ナジェは私の手を取って優しくエスコートしてくれた。



 どこに行くんだろう。


 ナジェは私の手を引いたまま廊下をしばらく歩き、ある扉に入った。

 中は薄暗くひんやりとしていて、何もない。


 見上げると薄暗い空間が続いているだけで、なんだかぽっかりと穴が空いているようだ。



 私が不思議に思っていると、ナジェは私の手を引いて少し歩いてから、ここが定位置だという風に制止した。


 よくよくみると、そこは大きな丸い円盤のような石の中心だ。



 あ、なんか魔法陣みたいな模様が描いてある。


 そう思った瞬間、ナジェから魔力が発動したのが分かった。

 すると、その石の円盤は私たちを乗せてスーッと上へ動き出した。


 あっそうか、これはエレベーターのようなものなのね!

 上の階に向かっているんだ。




 そういえばエメラルド塔の上層の階にはあまり行ったことがなかった。



 私が普段自分の部屋として使っている客間は、数少ない女性魔道士の寮部屋が並ぶ3階にある。


 研究室や魔法のレッスン室、食堂や娯楽室その他諸々、日常を過ごす大抵の場所は1階と2階に集中しているから、それ以外のフロアには立ち寄ったことがない。


 とはいえ、1階から3階だけでも相当な広さがあるため、まだ行っていない場所もあるくらいだ。





 最上部らしき場所について少し歩くと、現れた扉にナジェは手をかざし解錠の魔法を使っているようだった。


 魔法で鍵も掛けられるんだ、なんだか便利だな〜。




 扉を開けると、冷たい風がぴゅうっと吹いてきた。

 外なんだ!ここはエメラルド塔の屋上なのね。




 初めて登ったエメラルド塔の屋上は、とても空に近くてそれは絶景だった。


 視線を下ろせば王都の街が広がり、街の明かりが煌々としている。

 上を見上げれば、もうすっかり暗くなった夜空に満天の星が輝く。



 わ〜〜!綺麗な星空!


「すごい綺麗!!」



 ナジェは感動している私を見て優しく笑いながら言う。

「考え事をしたいときはいつもここに来る」


「そうなんだ。素敵な場所だね」

 私はもうすでに、お気に入りの場所となっている。




 絶景だけど、夜風が少し冷たいな。

 私は無意識に手を擦り合わせていた。



 そんな様子を見ていたのか、ナジェは私を後ろから抱きしめるように引き寄せて、羽織っていたローブの中に私をすっぽりと包み込んだ。


 ああ、こんなに穏やかで幸せな時間は久しぶりかもしれない。

 私はナジェの温かい体を背中に感じながら、幸福感に包まれた。





 そうしてのんびり星空を眺めていると、ふと思い出した。


 そういえば聖女がやって来るときは、ここで予兆を受け取るってこの世界へ来た時に聞いた気がする。



 私はなぜか気になって、何気なくナジェに問いかけた。


「ねえ、聖女が来る予兆ってどんなの?」




 いつまで経っても返事がないことを不思議に思い振り返ると、ナジェは固い表情をしていた。


 彼は空の一点を見つめたまま動かない。



 どうしたんだろう??





「…………あれだ」


 ???


 あれって?




 言っている意味が分からず彼の視線を辿ると、その先にはひときわ大きく輝いている星があった。



 すごい綺麗!

 しかも、よくよく見てみればその星は煌めく度に色を微かに変えていて、七色に輝いている。


 珍しい星だ。元いた世界でもあんな星見たことない。

 この国特有の星なのかな?



 そう思いながらナジェに聞こうと顔を見上げると、彼は今にも倒れそうなくらいに蒼白な表情をしている。


 やだ、大丈夫かな。





「あれが、予兆だ」


 ?!?!


「いや、実際に目にするのは初めてだが……。話に聞いていたものとほぼ違いない」

 ナジェは冷や汗の感じさせる表情でそう言った。




 え?!あの星が予兆なの??


 そっか、すごい綺麗なんだね~!




 って………あれ?!?!


 じゃあ、また新しい聖女がやって来るってこと……?!


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