1.いつもの4人
「ねえリシャ、この前言ってた王都の新しいカフェに行こうよ」
レニが書類を手早く整理しながら目を輝かせてはしゃいでいる。
「うーん、そうねえ」
私は慣れない書類の整理に気を取られて、つい上の空で返事をしてしまう。
毎月あるこの書類整理の時間だけは、未だに慣れなくて奮闘しているのだ。
「もうっ、リシャは所長がいないと遠出しようとしないからなー」
レニはぷくーっと頬を膨らませながら、つまらなそうな様子で言った。
「「え?」」
書類を片手に話し込んでいたナジェとハニカ様が同時に声を出し振り返る。
最近気づいたけど、この2人って物凄く息ぴったりだ。やはり、小さな頃から一緒にこのエメラルド塔で切磋琢磨してきただけはある。
そんな二人に向かって、レニは怪しげな笑みを浮かべて言う。
「所長と離れるのが寂しいんだそうですよ! ふふ」
「ちょ、ちょっとレニ!」
いや、そうなんだけど。
なんかそうはっきり言われると恥ずかしい。
「そうか……」
ナジェは照れるわけでもなく、ふむふむと頷いている。
ハニカ様は普段と変わらず穏やかな笑顔で私たちを見ている。
いつもと変わらない私たち4人の風景だ。
ナジェは納得した様子でぶつぶつと呟いている。
「確かにそうだな。あの時のように、また何かあったら……」
多分、彼が言っているのは、ティナ様に捕まって鞭で打たれそうになったあの時のことだ。
「いくら保護魔法をかけたアーティファクトをつけてるからといって安心はできないからな」
「アーティ……?」
「この前のネックレスは魔法をかけてたんだ」
あ、あの時、図書館でくれたサファイアブルー色の宝石のネックレスね。
「何かあったときにすぐ傍に行けるように、異変を感知したときは俺に信号が送られてくるように記憶させていた」
なるほど!だからあんなに早く来てくれたのね!
「しかしあんなに簡単に壊されるとは想定外だった。王宮内だからと油断していたな……」
考え込むナジェに、レニはすかさず向き直って、なにやら意味深な口調で語りかける。
「じゃあもっとしっかりしたものじゃないとダメですね!」
すると、レニとハニカ様とナジェは声をひそめて話し始めた。
「簡単に取れなくて、例えば指にはめられるような」
「なるほど、それはいいですね」
「いや、俺だって考えてはいたが……」
3人はボソボソと話していて、内容が聞こえない。
何を話してるんだろう。
気になるけど、早く書類を片付けないと今日の分が終わりそうにないので諦めて手元に集中する。
そう私が気合いを入れ直した瞬間、研究室の扉が開いて王宮の制服を着た人が入ってきた。
「ウォード所長と聖女様はいらっしゃいますか?」
えっ?なんだろう。
「国王陛下がお呼びです」
?!
私とナジェはびっくりして顔を見合わせた。
陛下からこんな急なお呼びがかかるなんて、何事だろう。ナジェだけならまだ分かるけど、私も一緒って……?
状況がいまいち飲み込めなかったけれど、私たちはとにかく急いで謁見の間に向かうことにした。




