41.異国から来た聖女様
突然の国王陛下からの問いかけに、私は一瞬まごついてしまう。が、ふと思い直す。
いいのかな、私なんかがこんなこと言って。
でも、これはチャンスだ。
「そ、それでは、今回お招きする医師と魔法師たちで作るその魔法病院を王都の中心地ではなく、ラガの街に建ててください」
その場にいた皆、一様に驚き動きを止めた。
私はその場の緊張感を振り払うように夢中で口を開いた。
「皆様ご存知の通り、ラガの街は困窮しています。治安は悪いし、街も綺麗ではないです。それでも貴族も通う病院を建てるとなれば、道を整備しなくてはならないし、清潔さを保つことも必然となるでしょう。それを徹底的に支援して欲しいのです。病院を建てたら街の人々を雇い、その福利厚生として医療補助をしてあげる制度を作ってください。雇用も生まれて、街が活気を取り戻すきっかけになれると思いますし、」
話しているうちについつい熱がこもってそこまで早口で捲したてると、最初はみんなと一緒に驚いて動きを止めていたナジェが、突如プッと吹き出した。
「本当にお前は変わり者だな」
えっ……?
ヴェルナー侯爵やティナ様たちを責め立てていた研究所のみんなや王宮の重鎮たちの唖然とした顔を見て気づいた。
あ、そうか、この世界の常識だったら、この場面では彼らの罪をどのようにするかを追求するのが普通なのよね、きっと。
でも私は――――
「恐れながら、国王陛下に申し上げます。私はこの世界の住人ではございません。よってこの世界の常識も知らずに不躾なお願いかもしれませんが、どうか、私の世界の常識で罰を与えることをお許しください」
「ふむ、そなたの言う“それ”が罰か」
「はい」
「しかし、ラガの街に建てるとは」
「穢れの亀裂は紫の扉によって浄化されましたが、ラガの街をこのままにしていれば、いつまた穢れが発生するか分かりません」
私は息を飲んで続ける。
「王都に建てたところで、結局ラガの住人達が病院を利用することはできないでしょうし……まずは街全体の風通しを良くして、徹底的に綺麗にするという根本的解決が大切なのではないでしょうか。ヴェルナー侯爵家にはそれに尽力して頂きたいのです。罰を受けるというならばその分、国民の助けになることをしてください」
…………それらしい感じで言ってみたけど、や、やっぱりダメかな……。
「やはり、異国から来た聖女様は面白いことをおっしゃる」
内心、冷や汗をかいている私に向かって、王太子殿下はまるで称え励ましてくれるかのように片目を瞑って言った。
殿下はそう言ってるけど……勢いであれこれ言っちゃったけど、だ、大丈夫かな……。
私が恐る恐る国王陛下を窺い見ると、陛下は溜め息をつきながら笑って言った。
「あぁ、母上もまさにそうだった」
そう言って私を見た国王陛下のお顔はとても優しくて、どこか懐かしいものを見るような瞳だった。
そうか、聖女様は昔、王太子殿下と恋に落ちたのだ。そのお二人の愛の証が現在の国王陛下なんだ。
「そのように取り計らおう」
国王陛下は私を優しい瞳で見つめながらそう言った。
良かった!
これでスピンたちの生活が、より安全で豊かなものになるはず。
すぐにとまではいかなくても、確実にその一歩を踏み出せる気がする。
私は聖女様に思いを馳せながら、国王陛下と王太子殿下に向かってゆっくりと心を込めて、覚えたてのカーテシーをした。




