40.断罪
いつの間にか来ていた研究所の魔道士さんたちが、ティナ様と侍女たちを縛り上げて連れて行った。
ナジェは残りの魔道士さんたちに何か指示を出しつつ、縛られた私の両手を解いて治癒魔法を掛けてくれた。
口早に「謁見の間へ…」とか「証人と証拠を…」なんて言っているのが聞こえたような気がしたけれど、今の私に耳を傾ける余裕はない。
こ、怖かった……。助かった……。
私はナジェが魔法を掛け終えてくれてからすぐに、思わず彼の首に抱きついた。ナジェが来てくれなかったらどうなっていたか……!
彼はビクッとして、すぐに私を強く抱き締めた。その温かさに深い安心感を取り戻す。
だけど、人目もあるしあまり甘えすぎるのもよくないよね。私はふーっと息をついて落ち着きを取り戻し、口を開いた。
「ありが、」
最後まで言い終わらない内に、ナジェは私を抱き上げて歩き出していた。
「も、もう大丈夫だよ!」
私は焦って訴える。ひ、人が沢山見てるよ。
「ダメだ」
こういう風になったナジェは絶対に譲らない。有無を言わせず歩いていく彼に、もう何を言っても無駄だと思い諦めた。なんだかドッと疲れたし、もう甘えちゃおう。私は観念して彼の胸にこてっと頭を預けた。
しばらくすると、なんだかとんでもなく豪華な扉の前に着いた。ここはどこなんだろう。近くにいた護衛騎士らしき人物が扉を開けてくれる。
中に進むと、玉座に座る高貴な年配の男性と、紫の扉で会った王太子殿下がいた。
…………!! 国王陛下と王太子殿下……!!!?
周囲には穢れの浄化の時にいた大臣や重鎮たちも顔を揃えている。私は血の気が引いたようにナジェに必死に訴えて、やっと降ろしてもらえた。
なんでこんな場所に連れて来たのだろう。頭の中は衝撃と?でいっぱいだ。
そんな私を見かねてナジェが口を開く。
「これまでお前がヴェルナー令嬢に受けて来た仕打ちに関して調べはついていたんだ」
「ここで決着をつけよう」
私の髪を優しく撫でてそう言い、厳しい表情を作って前を向いた。
ナジェは声を張り上げ、この場にいた皆に語りかける。
「今回はお時間を頂き感謝いたします。この度は聖女へ与えた危害に対するヴェルナー侯爵令嬢の処遇についてご相談があってお集まり頂きました」
大臣や重鎮たちはざわついている。その中から、年配の貴族男性が青い顔をしてナジェに訴えかける。
「ウォード所長殿、これは一体どういうことだ……! 我が娘の処遇とは」
あれがティナ様のお父様なんだ……!人の良さそうなお顔立ちなのに、娘さんはあんな性格なのね……。
ナジェは青ざめるヴェルナー侯爵の前で、白の扉の件に始まりエメラルド塔の旧書庫へ私を閉じ込めた件、ナジェに媚薬を盛ったこと、そして先程の私への危害を皆に説明した。
レニやハニカ様を含めた魔道士のみんなが、続々とそれらに関する証拠や証人を引き連れてやってきて、全てが白日の下に晒された。ついでに縛り上げられたティナ様と侍女たちも皆の前に連れ出された。
ヴェルナー侯爵家の執事は項垂れながら、
「あの夜会の日、ティナ様から緊急事態だから白の扉を解錠するようにと仰せつかりました」
と証言し、
旧書庫で突然愛想が良くなった受付の男性は、私を見ながら、
「あの女性を旧書庫に閉じ込めるよう、ヴェルナー侯爵令嬢に指示されお金を受け取りました」
と白状した。
全てが明かされ、ヴェルナー侯爵はガクッと膝をついた。
「私は……娘の教育を間違ってしまったのかもしれません……」
さらにナジェは厳しい口調で続ける。
「ヴェルナー侯爵には隣国から魔法師や医師を招く計画がありますね。それはエメラルド塔の解体が目的か?!」
ヴェルナー侯爵は慌てて立ち上がり、弁明する。
「まさか! 医師や魔法師を呼ぶことにしたのは以前から国王陛下と話し合っていたことです!」
「流行り病への対策として、王都に新たに魔法病院を作り国民に最善の治癒が行き届くようになればと……!」
国王陛下や王太子殿下の証言により、その件については本当にそのような計画が進んでいたらしく、偽りはないことが証明された。
ヴェルナー侯爵に罪はなかったが、ナジェはあの夜会の日、その件を理由に恋人のような振る舞いをするようティナ様に脅されていたことを話してくれた。
もう、本当になんて人……!
ここまで静観していた王太子殿下が静かに口を開いた。
「侯爵に罪はなくとも、その娘の聖女に対する行いは国として見過ごす訳にはいかない。侯爵家にもその罪は問われることとなるだろう」
王宮の重鎮やエメラルド塔の魔道士のみんなが一斉にヴェルナー侯爵とティナ様たちを責め立てる。
ティナ様と侍女たちは、青ざめた顔で観念したように項垂れている。
ヴェルナー侯爵は蒼白の顔で跪き、震えた声で言った。
「はい、聖女であるリシャ様に我が娘が危害を加えたとなれば、言い訳の仕様もございません。いかなる罰でもお受けする所存でございます」
すると、これまで黙っていた国王陛下が私を真っ直ぐに見て、静かに言った。
「侯爵はそう申しているが、そなたは何を望むのだ?」
えっ……?




