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36.紫の扉

 ラガの街で亀裂の確認をしてから、あれよあれよという間に準備が整い、いよいよ紫の扉によって亀裂の浄化を執り行う日となった。


 ハニカ様を筆頭として、ラガの街にある亀裂を紫の扉に送り込む作業を行う魔道士のチームが朝出発し、すでに配置についていると連絡を受けた。


 私はナジェやレニたちと一緒に、紫の扉に魔力を送るチームに加わるため王宮へと移動してきた。と言っても私の魔力では役に立てることもなく、見守るだけなのだけど。


 神々しさを感じさせる紫の扉に、ナジェが空間浄化の魔法陣を魔法で描いた。周囲には多くの貴族男性が集まってきている。制服を着た人も多く、王宮の重鎮たちであることが一目で分かる。



 私は邪魔にならないよう少し離れた場所に立っていると、金髪の高貴な感じのする美青年がやってきた。


「君があいつを変えた聖女様だね。ナイジェルをよろしく」


 彼は優しい雰囲気のする笑顔を浮かべ、片目を瞑って私に合図した。


 ナジェのことをそんな風に呼べる人といえば……!


 その物言いで、彼がナジェと絆の深い王太子殿下だということに気づいた。


 か、変えたって何のことだろう……。いや、それより『よろしく』って言われてもどうしたら……。

 私はどう答えていいのか分からず、曖昧な笑顔で頷いてからお辞儀をした。




 今日のレニは、ここに集まる王宮の重鎮たちへの対応をする役目のようで、年配の貴族男性に囲まれて話をしている。さすが侯爵家の令嬢らしく、優雅に対応している。話を聞いているとどうやらその中の一人の男性は魔法省の大臣であるらしいことが見て取れた。


「ノイラート侯爵令嬢のお噂はかねがね伺っておりますぞ。大変に優秀なご活躍ではないですか! このままウォード所長と力を合わせてエメラルド塔を引っ張っていってくれますかな」


 そう言ってがはは、と笑う大臣をレニは上手にあしらっている。さすがだ。


 しかし……やっぱり文官さんたちの言っていたあの噂って本当なのね……。大臣の口ぶりは暗に二人の結婚を仄めかしている。


 ノイラート侯爵家の力を得ることでその地位はさらに盤石なものとなるのだ。私だって社会経験を積んできた大人だから、その意味と重要性はもちろん分かる。この世界の貴族社会では尚のこと重要な意味を持つだろう。でも、こんな風に現実を目の当たりにしてしまうとさすがに心が痛い。


 そんな風にぐるぐると考えを巡らせて重い気持ちになっていると、いつの間にか近くに来ていたナジェが私の肩に手を回し、庇うように端へと移動を促した。


「危ないからここにいろ」

 そう言ってまた紫の扉の前に戻り、魔道士たちと浄化の作業を始めた。みんなの魔力が扉に吸い込まれていくその様子は圧巻だ。



 そんな私の様子を一部始終見ていたレニが笑顔でそばにやってくる。


「ほんと所長ってリシャのこと甘やかしすぎ」

 屈託無く笑うレニが、なんだか今は眩しく見える。


「そんなことないよ……。私には隣に並ぶ権利なんてないもの」

 私は笑ってそう答えたけれど、思ったよりも力が入らなかった。

 この世界で貴族の家に生まれていたら、私もそんな可能性を手にできていたのだろうか。


「リシャ?」


 レニが不思議そうな顔をして私の顔を見た瞬間、扉の方から歓声が湧き上がった。どうやら浄化の作業が終わったようだった。さすが、王国随一の魔道士率いる優秀な所員たちの活躍により、大成功を収めたようだ。


 レニと私の間に大臣が割って入り、レニを扉の前に連れて行った。王宮の重鎮たちも歓喜している。大臣はナジェとレニに「これでエメラルド塔は安泰だ」と言いながら、彼らの肩を叩いている。


 私はその様子を見ながら、これからはこうして彼らを傍から眺めていくのだろうとぼーっと考えていた。



 とにかく、これでみんなの健やかな日々が戻ってくるんだと思ったら、清々しい気持ちだ。スピンも元気に暮らしていけるだろうと思うと本当にホッとした。


 満足そうな顔をしている大臣たちと一緒にいるナジェやレニの笑顔を見て、私も穏やかな気持ちになる。それと同時に、何か寂しい気持ちが心の隅に芽生えたことは否定できない。 


 そうして私は、喜んでいる人々の輪からそっと抜け出した。


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