32.扉の秘密
初めて来た王宮の図書館は、エメラルド塔の書庫よりも数倍広い豪華な空間に無数の本が広がっていた。その光景は圧巻で思わず息を飲んでしまうほどだ。
ここなら求めている情報が得られるかもしれない。高鳴る胸を抑えて、早速魔法の書が並んでいるエリアへと向かう。
親切な王宮図書館の司書さんの協力もあって、なんとかゲルマーさんに関する本を見つけることができた。が、旧書庫で見つけた本とは異なる本ばかり。確かにゲルマーさんの本なのだけれど……。
膨大な本の量に思わず投げ出しそうになってしまったが、思い直して考えてみれば、旧書庫で見つけた本を後の世代になってからまとめた本だから、構成が異なっているのかもしれない。
私はなんとか必要な情報を見つけようとひたすら読み続け、やっと扉について書いてある章を見つけた。
えーと、なになに?
『聖女様は当時、王都の街に広がった流行り病をその聖なる力で癒し治めたのである……』
ん?流行り病?
『聖女様曰く、それは聖女様の世界で言うと「風邪をこじらせたようなもの」であるという』
ん?風邪をこじらせた?
なんだか私がスピンのお父さんを見たときと同じような感想だわ。薄々思ってはいたのだけれど、前回召喚された聖女様は私と同じ世界から来た可能性が高いように感じる。私はさらに本を読み進めた。
『解決までの道のりはこうだ。エメラルド塔の魔道士と聖女様の聖力で調査をした結果、流行り病の原因は、王都に集まってしまった“穢れ”によるものだということが分かったのである』
本を読み進めると、穢れというのは邪気やネガティブなエネルギーの塊で、通常ならそのものは目に見えない存在ではあるが、何かの拍子にそれが大きな集合体となり、人間に悪影響を及ぼすエネルギーを生み出す亀裂の空間を生じてしまうのだとか。
つまり、今のラガの街には流行り病の発生源である“穢れの亀裂”が存在するということだ。それは聖女の持つ聖なる力でのみ浄化することができる……!
『そうして聖女の聖なる力で亀裂の浄化を行い、見事成功を収めたのである』
私は大きく溜息をついた、思わぬ朗報を手に入れたのに……!!私には聖女の力がない。悔しい……。私にその力があったらスピンたちも街の人たちも助けることができたのに……。
私は気落ちしながらもさらに読み進めた。
『それ以外にも、研究の結果によると王宮の紫の扉を使えば亀裂の浄化は簡単に可能だということが分かった』
!!!
『空間浄化の魔法陣を紫の扉に描き、エメラルド塔の魔道士たちの魔力を利用し穢れをその中に流し込むことで、その穢れはあっという間に浄化空間に送られる』
えっ!?これは超特大ニュースだ!!!!スピンたちがすぐに助かるかもしれない!
『しかし、紫の扉を使用しなかったのは、聖女様が元の世界に戻る手段を残しておく為だったのである。
2巻 完』
えぇっ!?!?ここで終わり?!元の世界に戻るための手段て何!?
3巻!3巻は……?!
積み上げていた本をひっくり返して探しみても、棚に戻って見回してもそのシリーズの3巻だけがどうしても見つからなかった。
私は慌てて受付に戻って、先ほど手伝ってくれた親切な司書さんに調べてもらった。
まさか3巻だけ無いというオチはありませんように……!
そうして祈るように待っている私に返ってきたのは意外な答えだった。
「あ、記録によると数日前から魔法研究所のハニカ副所長が借りているようですね」
え……?!
どういうこと……?!
私は面食らってしまった。なんで……?昨日聞いたときは何も見当がついてないって言ってたのに。この3巻を借りているってことは、扉のこの情報について知っているはずだ。
まさか、ハニカ様は私に嘘をついたのだろうか。どうして?何の為に?
そう思うとすごくショックだった。あんなにも優しく、いつでも私を助けてくれてた素敵な人がなんで……。
そういえば昨日の様子はいつもと違って見えた。いや、待てよ、そう考えてみれば、最近のハニカ様は少し変だったように思う。私があの旧書庫に閉じ込められたときもそうだ。反応が一人変だったような気がする。
そう考えていくと、ハニカ様に対する不信感がどんどん膨らんでいった。
確かめなくちゃ。
なんだか怖い気もするけれど、ちゃんと話さなくちゃ。
私は心を奮い立たせながら、急いでハニカ様の元へ向かった。




