30.温まろう
それから、私はみんなにお礼を言って、ナジェの付き添いで部屋まで戻った。
自分が思った以上に身体は冷え切っていて、筋肉が固まってしまっていたのか歩きづらかったが、ナジェはそんな私の背中を歩きながらさすって温めてくれていた。
部屋に着きナジェがソファにそっと座らせてくれると、テーブルに置かれている美味しそうな可愛いスイーツが目に入った。おそらくあれが料理長の今回の新作スイーツなのだろう。
レニが私の不在に気づいてくれたから私は助かったんだ。
聞くところによると、あの旧書庫は滅多に人が来ないようで、夜中には氷点下にもなるのだと言う。それを聞いて改めてぞっとした。
もしあのまま一夜を明かすことになったら……。レニに言っておいて本当によかった。
「ん? これは?」
私の机に置いてあった幾つかの魔法道具を見て、ナジェは少し弾んだ声を出した。
「前に言っていた温める魔法道具が完成したの」
「あぁ、俺が魔法陣を書いてやったアレだな」
言いながらナジェは愉快そうに片目を瞑る。
恩着せがましい言い方にちょっと不満を持ちつつも、協力してくれたお礼を兼ねて実際に使ってみせた。
「実に庶民的だな」
ナジェは改めて角度を変えて眺めながら、ふっと笑って呟いた。
「しょみん……」
いや、もちろんそうですけど。あなたも元は庶民よね。
「悪くない」
キラキラとした瞳で魔法道具を見つめながらさらにそう呟く。
ずっと一緒に過ごしているうちに分かったことがある。ナジェがそう言うときは思い切り褒めているということに。
素直じゃないな、と思いつつなんだか可愛いなとも思ってしまう。それはナジェが年下だからなのか────。
「こっちはどうやって使えばいい?」
ワクワクした様子で聞いてくるナジェはまるで少年のようだった。
私は笑いながら使い方を教えつつ、2人で冷えた体をぽかぽかに温めたのだった。




